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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第六章:青年実業家編】
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第110話:本当の狙い

 ドゥオーレ商会の支店長と商談をした一週間後。

 その日、ソルは視察の帰り道、始終笑みを浮かべていた。こういうときに、自分が笑顔を浮かべる癖があることは、彼女も自覚している。無表情でいることに耐えられないときに、感情をより強く覆い隠すため、そういう仮面を被るのだ。

 前世で敵対し、この笑顔を見せる事になった相手に対しては、まず例外なく凄惨な最期を与えてあげたので。理解した生き残りというのもいないのだが。


「ソル様。こういうとき僕は、あなたに話しかけた方がいいのでしょうか? それとも、黙っていた方がいいのでしょうか?」

「私が話しかけるまでは黙ってなさい。引っかかれたくはないでしょ? 家に戻ったら、色々と話をさせて貰うかも知れませんけれど。」


「ああ、やっぱり超絶不機嫌だったのですね。その笑顔は」

「分かりますの?」

「あんな真似を見て、心中穏やかでいられる方が不思議というのもありますが。まあ、この世界でソル様の近くにいて、結構経ちますから。為政者の立場ともあろうお方が、外出中に感情的になったお姿は晒せませんものね」

「ええ」


「ここまで、殺気を抑えながら笑顔を浮かべられるのは、本当に感服します」

 リュンヌの労いと称賛に対し、ソルは少しだけ怒りが和らぐのを自覚した。


 彼らが見たのは、視察先の一つで既にドゥオーレ商会が、その手でソルやバラン達が行ってきた真似をやり始めていたことだ。彼らの言い分としては、先日の商談から待ったが、ソルからの返事が無かったので、残念ながら協力体制は築けないものと判断し、こちらで独自に事業を進めることにした。そういう話だった。


 詰まるところ、ソルとの商談は彼らにとってどう転んでもいいものだった訳だ。条件を呑めば、それに越したことはない。拒否されれば、勝手にやれる口実が出来る。機会は与えたのだと。最初から勝手にやっている話ではないと、そういう筋を通した体裁は作れる。

 あの商談は、たったそれだけの意味のものだったのだ。随分と、人を虚仮にしてくれた話だとソルは思う。

 可能性としては、ソルも考えていた。この国の商法でも何ら問題の無い真似だ。


 しかしだ。いざこうして、実際に自分達が育て上げ、縄張りとしてきたところに我が物顔で侵入されるのを目の当たりにしてみると。やはり、怒りを抑えるのは難しい。しかも、彼らがやっている真似は、自分達がしてきたことの上っ面だけで、人も土地も使い潰していくだけだろう事が目に見えていた。


「愚かですわね」

 ソルの声は柔らかく。聞きようによっては、想い人に対する愛しさの吐露のようにも聞こえたかも知れない。


「ソル様を敵に回したことが? でしょうか?」

「それも、確かにありますわ」

 くすくすと、ソルは優美に、口元に手を当てて笑った。


「リュンヌ? 彼ら、どうしてこんな真似をしてきたと思います?」

「そりゃあ? お金が欲しいからではないんですか? 商売人なんですから」

「吐き薬を100回飲みなさい❤」

「本気で勘弁して下さい。後生ですから」


 心底嫌そうな表情を浮かべるリュンヌを見て、より一層、ソルは怒りが紛れるのを感じた。宮廷に道化師が必要とされる理由を彼女は再確認出来たと思う。

 自分が晴れて誰かと結ばれたら、彼とはそれっきりという話だったが。可能ならば、近くに置いておきたいとも思った。色々と、有用であることは間違いない。


「そうではなくて、どうして今、このタイミングになって。こういう方法を採ってきたのか? そういう話ですわ」

「先日の商談に関係がある話でしょうか? あまりにも、提案内容が似通いすぎているという」

「ええ、関係大ありですわ」

 ふむ? と、リュンヌは小首を傾げた。


「今になって。というのもキーワードでしょうか? 確かに、独自の情報網とかそういうのが強ければ、バラン達よりも先にソル様に接触していてもおかしくはないんですよね。夏休みの時に遠出したときもそうですし、彼らの耳に入りそうなところって、結構前から僕達は活動して、商品も細々とながら流通して、網に引っ掛かっていておかしくはない」


「その通り。そこで、価値を認めさせることが出来なかったというのは、私達の力不足。けれど同時に、彼らの力不足でもありますわ。見出す力のね」

「つまりは、バラン達が動くのを察知したから、今になってノコノコと出てきたと。先日、ソル様は『掻っ攫おうとしてきた』と言っていましたが。やはりそういうことなんでしょうね。とすると、そんな彼らはどこからバラン達の情報を掴んだのか? それが気になりますね」


「あら? ようやく少しは頭が回ってきましたわね。頑張ったから、吐き薬は50回に減らして差し上げますわ」

「だから、本気で勘弁して下さいって言っているでしょう? 特にあのチノイチゴを使った奴。体に無害って信じられないほどキツいんですからね? あんなの、何に使うっていうんですか?」


「ん~? 色々と❤」

「その色々の中に、まともな使い道ってあるんですかね?」

 半眼を浮かべてくるリュンヌに対し、ソルは無言で笑みを返した。諦めたと、リュンヌは嘆息する。


「話を戻しますわよ。彼らは、どこからバラン達の情報を入手したと思いまして?」

 ソルが訊くと、リュンヌは軽く頬を掻いて、しばらく考える素振りを見せた。

「大きく分けて、二つ。でしょうか? 一つは、バラン達の動きそのものを見張っている」

「もう一つは?」


「バラン達の中にいる裏切り者から、情報を仕入れた?」

 慎重な口調で訊いてくるリュンヌに対して、ソルはすぐに答えようとはしなかった。数秒、どう答えようか考えてから、口を開く。


「少し、違いますわ」

 小さく、ソルは息を吐いた。


 と、屋敷の前に辿り着く。そして、門柱の前に、バランが立っているのを認めた。「うわ」とか、リュンヌが呻き声を上げるのが聞こえた。

 彼もこちらの姿を認めたのだろう。待っていたと言わんばかりに、駆け寄ってきた。

 つくづく、どうしてこの男は。こんなときに、こうして自分の前に姿を現すのだろうかと。ソルはそう思った。


「ソル様。大変です。大変なことになりました」

 ソルは頷く。

「そのようですわね。ドゥオーレ商会の件でしょう?」


「はい。その通りです。既にご覧になったのですね。奴ら、私達のやり方をそのまま。いや、奴らのやり方はよく知っています。金の力でその土地の利権をすべて奪い取り、使い潰していくんです。お疑いでしたら、そのやり口や、過去の事例に対する証拠を説明致します。このままでは、ここは大変なことになってしまいます」

「そうかも知れませんわね。本当に、大変なことになってしまいましたわ」

 しおらしく、本当に困ったことだと、ソルは項垂れて見せた。


「奴らに、下手な抵抗は無意味です。徹底的に、金の力を使って執拗にこの土地を狙います。それこそ、大貴族にも等しい力でです。失礼ながら、フランシア家の財力では抵抗は適わないと思います」

「そうですわね。お父様達と相談してみないと分かりませんけれど、本当に、どうしたらいいのかしら」

「私も、本当に何とかして差し上げたいのですが。自由に出来る財産や資金には限りがあります。もし、このまま私達と共にビジネスをやって頂けるとしても、先行きは不透明ということで。お付き合いは難しいことになるかも知れません」


「ソル様。しっかりして下さい」

 リュンヌが、背中から両肩を掴んでくる。それは、力強く温かい手だった。こんなときに、支えようとしてくれる彼の気持ちを嬉しく思う。


「そう。もう、方法は無いんですのね」

 心底絶望したと。ソルは肩を落とし、落胆の声を上げた。視線の先に、バランの靴先が見える。

 ソルの頭の上で、絞り出すような、悩ましく躊躇ったバランの吐息が聞こえた。

 彼は、大きく息を吸った。


「いえ、一つだけ。方法はあります」

「それは、どんな方法ですの?」

 ソルが訊くと、バランはその場で片膝をついた。


「ソル様。どうか私と、結婚しては頂けないでしょうか」

 ソルは、強く拳を握った。

ボツタイトル

【ソルの微笑】

ソル=フランシアが目前の相手に対する憎しみを表すときに浮かべる表情。冷笑と呼ぶには凄惨すぎて、咲き誇る毒花にも似る、軽蔑と嘲笑の綯いあわさった含笑。親愛の表現とは見誤りようのない破顔。


リュンヌ「思いっきり、名作SFのパクりじゃないですか。しかも、以前に使ったタイトルとも被っていますし」

リュンヌ「ソル様?」

ソル「(微笑)」

リュンヌ「うわぁ(ドン引き)」


ベリエ「芸術家としては、挑戦してみたい表情ですけどね」

リュンヌ「あなたは、どっから湧いて出た!?」

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