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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第六章:青年実業家編】
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第103話:ソルのビジネス

投稿が遅くなり、申し訳ありませんでした。

章の冒頭でも伝えたと思いますが。ちょっとプロットを練り直したり、詳細を詰めたり、設定を深掘りしていました。

書いてみると、色々と不足していたので。

一先ず、そこは大分形になりました。やや力押し気味でも、章の完結までは持って行けると思います。

この章だけは、本当にスローペースになりそうですが。ただ、流石に何ヶ月も放置とかだけはしないつもりです。

 ソルはリュンヌと共に、バランを連れてカンセルを訪ねた。

「これはこれはソル様。ようこそお越し下さいました」

 門の前で、どうぞ中へと頭を下げるカンセルに対し、ソルはやんわりと断る仕草を見せた。


「後で結構よ。ルトゥから事前に聞いていると思うけれど、今日はよろしく頼むわね」

「畏まりました。この方が、バラン=マーシャンさんですか? ルトゥから聞いていましたが。本当にお若い方なのですね。これで、大企業の看板を背負っているというのですから、大したものだと思います」


「いえ、私など。ただ単に家業を支えるのに必死でやってきただけですよ。父や母の苦労に比べれば、まだまだです」

 そう言って、バランは笑みを浮かべた。


「バランさん。この男がカンセル=グラン。この村を中心に、その近隣を任せている騎士でしてよ。そして、あなたがここに来る事になった最初の切っ掛けですわ」

「と、言いますと?」


「王都の人間から見て、評価がどのようなものか知りたいということで、私達が作っている化粧品を近衛騎士をしている後輩に送ったんですの。そこからですわ。王都の一部で密かに評価を得るようになったというのは」

「なるほど。それを巡り巡って、私が嗅ぎ付ける事になったという訳ですか」

 納得したと、バランは頷く。


「リオン。後輩からは後で愚痴の手紙も返されましたがね。誰にどう試して貰ったらいいものかと、困り果てたと書いてました。頼めるような女性の知り合いなんていないのだと」

「あら? そうなんですの? リオンなら、そういう相手の一人や二人、幾らでも出来るだろうと思っていましたけれど?」

 ソルが小首を傾げるとカンセルはひらひらと手を振って否定した。


「それは無いです。ソル様もご存じの通り、あいつは生真面目ですからね。下手にあんなものを女性に渡して、邪推されたらどうしようかって。立場を重んじますから、あいつは」

「まあ、それであらぬ噂が立って人間関係にヒビが入っても恐いというのは、ありそうですわね」


「それに、あいつは何だかんだで奥手なんですよ。剣もそうですが、愛も捧げる相手は生涯ただ一人だけという考えというか。まあ、俺達の場合、騎士学校からしてそんな感じではあったんですが。それで、なおさら、ああいうものを贈るのは躊躇われたという具合だったようです。そこら辺、全部手紙に書いてありました」

 改めて、リオンらしいとソルは思った。と、同時にそんな男に一時とはいえ靡かせたのだから、自分はやはり大したものなのだと、ソルは自分の魅力を再確認した。


「あの人、見た目も悪くないですし。性格も優しくていい人なんですけれどね? ひょっとして、まだ恋人がいなかったりとかしますの?」

「実は私も、そこもちょっと探りたくて、ああいうものを送ったんです。ですが、この様子だといなかったようですね」

「王都の女達は見る目が無いのかしら?」

 ソルが半眼を浮かべると、カンセルは首を振った。


「そういう訳じゃないと思いますよ? あいつ、騎士学校時代もそうでしたが、色々と言い寄られていたりはしたんです。でも、あの性格なので、嬉しいけどそのまま抱え込んで潰れるみたいな具合でした。剣を選ぶべきか、愛を選ぶべきか? 両方を選ぶとか、どちらも疎かになりはしないか? とか。その手の相談だけは『知るか馬鹿野郎』と追い返しましたがね。そこから、全然成長してないんだと思います。王都の近衛騎士になって、それであいつがモテてないとか想像付きません」

 呆れと嫉妬を混ぜて、カンセルはリオンを嘲笑った。


「なるほどねえ。それで? 結局、リオンはどうしたのかしら? 誰に化粧品を渡したんですの?」

「顔見知りになった同世代の女官から、顔色が悪いのを心配されて。彼女に事の次第を説明して相談し、その流れでお願いしたそうです」

「その後の二人の展開が気になりますわね?」

「うちの嫁と同じことを仰いますね。ソル様」

 そう言って、カンセルは苦笑した。


「っと。すっかり話が逸れてしまいました。バランさん、すみません」

「いえいえ、大変興味深い話でした。王都に帰って、耳に入るようなことがあれば、私からもソル様やカンセル殿に報告しましょう」

 バランもまた、白い歯を見せた。


「それで、今日は村の見学でしたね」

「そうですわ。私からの視察も兼ねてね。それで、後日にまたバランさんがどこかを見て回りたいという事があれば、あなたから話を通しておいて欲しいというわけですわ」

「はい。承知しております」

 恭しく、カンセルは頷いた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 一面の畑は、真っ赤に染まっていた。

「ここが、そうなのですか?」

 バランは感嘆の声を上げた。

「ええ。ここが、頬紅や口紅の原料となるチノイチゴの畑でしてよ。今年は、畑に植えてみましたが、なかなか悪くない出来だったようですわね。カンセルからリオン経由で渡ったのは、こちらを原料にしたものになりますわ」


「なるほど。ということは、以前は違ったということですか?」

 バランの問いに、ソルは首肯する。

「ええ。野原で採集したものを使っていましたわ。程よい色合いになるように、乾燥させた粉末の調整をするのは、少しこだわりましたわ」


「いやあれ、全然少しじゃなかったと思うんですけど? 何パターン作ったと思うんですか?」

 付き合わされた当時を思い出したのだろう。リュンヌが半眼を浮かべてきた。「お黙りなさい」と、にこやかに笑みを浮かべつつ、ソルはリュンヌを威圧する。


「一般的に、口紅などはベニソウやアカノミを使うものだと聞いていましたが。チノイチゴだとああも、艶めかしい色合いが出せるということでしょうか?」

「ベニソウもアカノミも、ここらで手に入れるのは難しそうでしたからね。だったら、主流ではなくても使えるチノイチゴを使ったまでですわ。チノイチゴなら、この寒冷なソレイユ地方でも手に入りますもの。廃れるだけあって、満足がいく出来に仕上げるのにはなかなか骨が折れましたけれど」

 「本当に苦労したんだよなあ」と、リュンヌが無言のままはっきりと伝わる表情を浮かべてきた。こいつは、もうちょっと状況を考えろとソルは思う。お仕置き決定。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 続いて、彼らは一軒の小屋へと向かった。

 小屋とは言っても、造りが簡素なだけで、その中はそれなりに広い。庶民が暮らす家の倍くらいは広さがある。

 中では、老婆や小さな女の子達が、様々な釜に向かっていた。


「主に作業をされているのがここですか?」

「そうですわ。別に、ここに来なくても出来る作業は多いですけれどね。説明したけれど、大半は老人や子供、妊婦のように重労働が出来ないような人達に手伝って貰っているんですの。黒い悪魔捕獲用の罠のように、自宅で作って貰っているものも多いけれど、煮込んで匂いが籠もると困るものもありますからね。そういう作業用に、共同で使えるこのような場所を用意しましたわ。他にも、広い作業スペースが必要になるものとか」


 ちなみに、ソルも最初は台所を使って研究、実験していたのだがティリアと料理人からクレームが来た。なので、今ではそれ用に建てられた小屋を与えられている。

「なるほど、それで窓もこんな風に大きく開かれているんですね」

 老婆の説明を熱心に聞く子供の説明をバランは興味深そうに眺めた。


「どうかしら? 上手くやれていまして?」

 働いている小さな女の子の一人に、ソルは声を掛けた。

「はい。火の加減が難しいけれど、一生懸命頑張ります」

「そう。そこのマリエルはそこが上手くやれるから、良く教えて貰って、覚えなさい」


「分かりました」

 やる気に満ちた表情を浮かべる女の子と恭しく頭を下げる老婆に、ソルは微笑みを浮かべた。そう、それでいいのだ。そうやって、最大限に能力を発揮して私に尽くしなさい。そんな、邪悪な考えはおくびにも表情に出さずに。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 最後に、ソル達は再びカンセルの家へと戻った。

 家の中ではカンセルの妻、シーニェが出来上がった口紅の出来を確認し、箱に入れていた。彼女はチェックリストを横目に、一つ一つ作業を進めている。


 シーニェには検品もそうだが、この村での生産管理も任せている。本人は当初、躊躇していたのだがソルが顔見知りであること、騎士の妻であることから他に任せられるような人間もいなかった。経験者であるので、他の村人に対して指導や助言が出来るというところも大きい。立場が人を作ると言うが、上手く回るようになったとソルは思っている。


「最後に、こうして検品して出荷ですわ。出荷と仕入れと販売数の辻褄については、私がそれぞれの記録から確認しています。細かい違いはありますけれど、規模はともかくどの村や商品でも基本的な流れは同じですわね。如何かしら、参考になりまして?」

「はい。有り難うございます。大変、参考になりました」

 そう言って、バランはソルに恭しく頭を下げた。

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