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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第六章:青年実業家編】
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第101話:お近付きのしるし

 ソルはにこやかな笑顔を浮かべ、バランを迎えた。応接室で、彼と相対する。

 結局のところ、ソルがビジネスを展開していく上で、彼の協力が得られればそれは非常に有益である。時間の無駄になるかも知れないが、それを見極めもせずに捨てることもないだろうというのが、ソルの判断だった。

 あと、リュンヌに言われたからというつもりは無いのだが、確かに好奇心はある。自分がどうして、この男を毛嫌いしているのか? その理由を知りたい。


「初めまして。ソル=フランシア様。改めまして、私はバラン=マーシャンと申します。本社を王都に構えて、商売をさせて頂いております」

 バランは癖の無い栗毛を額の脇で軽く分け、大きく額を見せた髪型をしていた。実直そうな印象を与えそうではあると、ソルは感じた。


「はい。それは先日に送って頂いた手紙に書かれていましたわね。ただ、何を売っている会社なのか、お恥ずかしながらあまりよく分かりませんでしたの。もう一度、教えて頂けないかしら?」

「はい。構いません」

 そう言って、バランもまたにこやかな笑顔を浮かべ頷いた。


「端的に言ってしまえば、何でも屋です。我が社は有益な物を広く人々に提供し、暮らしを豊かにすることを理念に商売を続けてきました。各地から良いものを見つけ出し、販路を整備し、生産者と購買者を繋げていく。これこそが、我が社の事業です。幾ら良いものを作っていても、それが人の目に触れず埋もれるだけならそれは社会の損失。また同時に、こんな物が欲しいと人々が思っていても、それが購入出来なければやはり困りますからね」


「まあ。それは実にご立派な理念ですわね。それで、私どもの作る化粧品がバランさんの目に止まったというわけですのね」

「はい、その通りです。ソル様達が作られている化粧品は、王都の上流階級の一部で、非常に高い評価を受けております。僭越ながら、私も直にその出来を確認致しましたが。実に素晴らしい。あの頬紅は、鮮やかでかつ繊細な柔らかさを表現していました。これは、是非扱わせて頂きたいと思った次第です」


「あらお恥ずかしい。そうまで言って頂けるとは、光栄ですわ」

 おほほ。と、ソルは頬に手を当てて笑った。

 ソルはアプリル経由で確認した情報とバランの語る話を照らし合わせた。バランへの返事と同時に、アプリルにも手紙を出して、知っていることを教えて貰うように頼んだ。アプリル曰く、王都で一般的に知られている程度の話しか知らないと書いていたが。その限りでは、嘘は言っていないようだ。


「ですが、私どもが作っているものは化粧品だけではありませんのよ。そちらも、ご覧になって頂けるかしら?」

「勿論です。お手紙でも読ませて頂きましたが、大変興味があります」


 よしよしと、ソルは内心頷く。

 化粧品も勿論大事だが、どうせなら気分を落ち着かせる香や滋養強壮薬なんかも売りたい。特に、黒い悪魔殺しだ。あの黒い悪魔共を根絶やしにするためにも、こちらは是非とも広く普及させたい。その足がかりになるというのなら、この男は精一杯に利用したいのだ。


「しかし、ソル様がこんなにも見目麗しいお嬢様だったとは驚きました。風の噂では、まだお若い女性だとは聞いていましたが、驚きました」

「嫌ですわそんな。私はただ、自分が欲しいと思ったものを何とか用意しようと試行錯誤して作っていただけですの。そうしたら妹達の協力もあって、それが広まっただけですわ。みんなが喜んでくれるので、それは嬉しいと思いますけれどね」


「いえいえ、そんなご謙遜を。素晴らしい話だと思います。ソル様が作られる物が、本当に良いものだからこそ、こうして求められるということなのでしょう。私も、商売をしていて思います。商売とは、自分が売りたい物を舌先三寸で丸め込んで売りつけることではない。相手が本当に求めるものを理解し、それを提供することこそが真の商売なのだと。これは、両親からも口を酸っぱくして言われました」

「素敵な言葉ですわね」


 その言葉には、ソルも共感を覚える。富を最も効率よく、多く集めるにはどうするべきか? それは、金の卵を産むガチョウを殺すことではない。そんなガチョウを次々と揃え、金の卵を産み続けてもらうべきなのだ。

 確かに、舌先三寸で売りつければ、一時は金が入るだろう。だが、それは長くは続かない。一度の収穫で終わらせるというのは、非効率的なのだ。購買者は、豚を養うように太らせ、その肥えた肉を最大限に頂く。それが、ソルの考える商売だった。


「ですが、それを言うならバランさんの方こそ、ご立派ではありませんか? お若くして、国中で精力的に事業展開を進めようとしている新進気鋭の大企業を背負っているんですもの」

「いやいや、とんでもない。私はただ、会社を必死で支えているだけです。それを言うなら、社長である父や母達の方が、もっと大変ですよ」


「でも、国中を飛び回っているのは、バランさんですのよね?」

「まあ、そうですね。信頼が出来る者にも手伝って貰っていますが、やはり現場こそが大切だと考えていますから」

「お辛くはありませんの?」


「そんな事は、考えたことがありません。こんな働き方は、まだ体力が保つ若いうちだけにしか出来ないものだと思っていますし、あちこちを旅して、見聞を広めるというのも、楽しく思っています。全部、貴重な経験ですよ」

「そうなんですのね。それは、いいことだと思いますわ」


 現場主義。これも、結構なことだとソルは判断した。商売とは、帳簿に数字を書き足していくことを言うのではない。その数字を書き足すにも、その裏では人と人によるやり取りというものがあるのだ。それを読めず疎かにするようなら、例えば現金を調達するのに城一つが簡単に売れるなどという馬鹿げた発想をして、無様に転ける。


 だからソルも、現場という最小単位を決して疎かにはしない。

 なるほど、手を結ぶ商売人としては、その価値観はさして遠くない。その点は信用出来そうな相手だと、ソルは評価する。


「ああ、それと。これは、私からソル様への贈り物です。許されるのなら、末永い商売を願い。ささやかながら、そのお近付きのしるしにと保って参りました」

 そう言って、バランはテーブルの上に小箱を置いた。その中身を見せてくる。


「まあ。これは」

「ソル様に似合うかと思い、用意致しました」

「素敵ですわね」

 箱に収められた、ルビーのペンダントをソルは食い入るように見詰めた。

バラン「お支払いして頂けるのなら、宮殿だって調達してみせます」

リュンヌ「沙漠で戦闘機売っていそうな人の台詞ですね」

ソル「飛びもしないミサイルを売りつけてきそうですわ」


先週は何の連絡もなく休んで申し訳ないです。

応募原稿は書き上げて、無事に応募出来たのですが、ちょっとそれで燃え尽きていました。

来週も、GWの為多分お休みです。

その後は、これまで通りのペースで頑張りたいと思います。

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