表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第五章:年下の男の子編】
115/182

EX16話:男の約束

 話がある。そう、リュンヌはルトゥに呼び出された。

 呼び出された場所は、街の中を流れる川に架かった橋の一つだ。

 リュンヌがその場所に来ると、ルトゥは既に先に来ていた。欄干に肘を置いて、川の流れを見下ろしていた。


「わざわざ僕をこんなところに呼び出して、何の用ですか?」

 リュンヌが呼び掛けると、ルトゥは頷いた。リュンヌは彼の横へと向かう。

「うん。ちょっと、色々と話がしたいことがあって。屋敷の中で、誰かに聞かれたくはないような話だから」

「なるほど。分かりました」

 リュンヌも頷いて、欄干に肘を置いて、川の流れを見下ろす。


「まず、訊きたいんだけれど。あの決闘で僕は負けた。僕は負けたら君の言うことは、出来る限りのことは何でもすると約束した。僕は、何をすればいい?」

「ああ、その話ですか?」

 どうしたものかと、リュンヌはぼやいた。


「あれから、もうすぐ一月が経とうとしている。けれど、君は何も言ってこようとしない。僕が、約束も守れないような男だと侮っているのか? それとも、情けを掛けたつもりか?」

「そんなつもりは、全くありませんよ。ただ単に、これといったものが思い浮かばなかっただけです」

 そう言って、リュンヌは軽く嘆息する。このまま、有耶無耶に出来ればとも思っていたが、流石にそうもいかなかったようだ。


「そうですね。じゃあ、その前に確認させて下さい。ヴィエル様のことをどうお考えですか?」

「何で? ヴィエルのことを?」

「いいから答えて下さい。ヴィエル様のことをどうお考えなのです? あれから、とても仲が近くなったように思えますが?」

 有無を言わさない厳しさを声に含めて、リュンヌは再び訊いた。観念したように、ルトゥは呻く。


「あの子は。僕にとって、大事な女の子だよ。とても、とても大事な女の子だ」

「好きなのですか? 一人の男として、愛する相手という意味で?」

「ああ、その通りだよ。僕は、叶うならヴィエルを生涯懸けて大事に想いたい」


「ご自分の立場は弁えた上で、言っていますか?」

「分かってる。その為には、まずは僕がエトゥル様やティリア様達にも認められるようにならなくちゃいけないって事も」

 決意を込めた声で言ってくるルトゥに対して、リュンヌは薄く笑った。


「まさか? 僕に別れろと言うつもりなのか? それは、出来ない約束だ」

 どうも、こちらの笑みを勘違いしたらしい。リュンヌは首を横に振った。

「逆ですよ。その言葉が真実だというのなら、ヴィエル様を生涯懸けて守り、幸せにしてみせて下さい。途中で投げ出したり、黙って消えたりするような事があれば、僕は絶対に君を許しません。それを約束して下さい。これが、僕からの要求です」


「そんな? それは、言われるまでもなく、そうするつもりだ。でも、何でそんな事を?」

「ルトゥ様が、もしもこの約束を破るというのなら、そのときはヴィエル様は勿論、ソル様もきっと、非道く悲しむことになる。僕は、あの人達のそんな姿は見たくない。ただ、それだけだ。だから、この約束は、絶対に守って下さい」


 それを聞いて、ルトゥは目を瞑り、静かに頷いた。

「分かった。言われるまでも無い話だけれど。約束する」

 それでいい。と、リュンヌも頷く。


「それで、リュンヌ? 次に君に訊きたい話がある。君はいったい、何のために剣を修めた?」

「どうして、そんな事を訊くんです?」

「ただの疑問だよ。君という男が分からないっていう、それだけです。僕がいくら素人に毛の生えたような腕の人間だとしても分かる。君は、とんでもなく強い。ひょっとしたらって、あの決闘の前から、カンセルさんも言っていたけれど、カンセルさんの予想を超えていたくらいだ。そんな腕に至るまで、君はどこでどうやって練習して? 何のためにそんな真似をしたっていうんだ?」


「申し訳ありませんが、その質問には答えかねます」

「ソルお姉様の為、ではなく?」

 非難がましいルトゥの口調に、リュンヌは押し黙る。


「いつか、僕が君に言われたことをそのまま返します。他人に話せないような、そんな恥ずかしい真似だとでも?」

 煽るような言葉をリュンヌは鼻で嗤った。

「僕がソル様に、恋愛感情を抱いているとでも言うのなら、それはとんでもない見当違いですよ」


「別に? 僕も、そんな風に言うつもりはないです。特別な想いなんて、別に恋愛感情だけじゃないなんて事くらいは、僕にも分かるから」

 深く、リュンヌは息を吐いた。


「約束したんですよ。いや、誓ったと言った方がいいか。だから僕は、必ずソル様を幸せにしないといけない」

「でもそれは、リュンヌ自身が幸せにするという意味ではないんだね?」

「ああ、違う。僕は、その約束の為に生きている。ただ、それだけだ」

「誰と、そんな約束を?」

 リュンヌは首を横に振った。


「誰も知らない相手です」

「誰も知らない相手?」

 ルトゥの問い掛けに対し、リュンヌは口をつぐむ。

 しばらく待ったものの、やがてルトゥは嘆息した。


「分かった。それ以上話す気が無いというなら、僕も訊きませんし、言いません。これも、約束します。僕としては、リュンヌがソルお姉様の為に剣を握ったのかどうか? それさえ確認出来れば、もうそれでいい話ですから」

 満足げに、ルトゥは頷く。


「ああ、あとこれはカンセルさんからの伝言です。もし、その気があるのなら、王都にいる近衛騎士の後輩に話をするそうです。騎士士官学校への入試とか、手伝えることもあるかも知れないと言っていました」

「そうですか。考えておきます。ひょっとしたら、頼むことになるかも知れません。ご厚意に感謝すると伝えて下さい」

 いつぞや、ソルからは将来のことも考えておけと言われたことがあったが、確かに少しは考えておいた方がいいかも知れないと思う。


「あと、最後にもう一つ訊きたいことがあります」

「何でしょうか?」

 ルトゥは神妙な表情を浮かべてくる。


「デートって、どうやればいいんでしょうか?」

「は?」

 リュンヌは目を丸くした。


「あの、実は。今度、ヴィエルとデートすることになったんです。でも、僕は女の子とデートとか初めてで。リュンヌにしたら、ソルお姉様との視察とか、全然そういうつもりじゃないっていうのは分かってる。けれど、前に見たときとかソルお姉様ってリュンヌに凄く自然体な態度だったようにも見えたし? どうすればあんな風にというか? ヴィエルも憧れがあるみたいだし。参考にさせて欲しいんだ」


「はあ?」

 リュンヌは半眼を浮かべた。何言ってんだこいつ?

 顔を真っ赤にして、ルトゥは続けてくる。


「頼むよ? 本当に何も思い浮かばないんだ。君だけが頼りなんだよ。助けてくれないか? ほら? リュンヌとの約束を果たす為にも、大事なことなんだよ?」

「え? ああ、はい。そうですね。じゃあ、取りあえず一緒にデートプランを考えましょうか」

「恩に着ます」

 軽く頭を掻いて、リュンヌは苦笑を浮かべた。

リュンヌ「ヴィエル様とルトゥがデートをすることになったみたいですね」

ソル「そのようですわね」

リュンヌ「で? どうして僕に怪しい薬を持たせるんです?」

ソル「それをルトゥに飲ませなさい。題して、『意地悪なリュンヌに虐められたルトゥをヴィエルがよしよし作戦』ですわ」

リュンヌ「やりませんよっ!?」


-そしてまた後日-

リュンヌ「それで? あの? 今度は僕に何をやらせるつもりなんですか? 何ですかそのトゲトゲ肩パッドと革ズボン? ハサミまで持ち出して」

ソル「あの子達のデートで、それを着て襲いかかりなさい。題して『モヒカンヒャッハーと化したリュンヌをルトゥが撃退してヴィエルがメロメロ作戦』ですわ」

リュンヌ「だから、やりませんよっ!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ