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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第五章:年下の男の子編】
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第99話:諦めの先にある想い

 脳天に突き刺さるような激痛で、ルトゥは目を覚ました。

 悶えながら、薄く目を開ける。

 何が、一体どうなったのか?


「ルトゥ? ルトゥ!? しっかり! 目を覚ましたの?」

 ガチガチと歯を鳴らしながら、ルトゥは呻く。

 とても、満足に声を出すことは出来ない。


「大丈夫? お願い、しっかりして!」

 大丈夫。とは言えない。けれど、せめてそう伝えたくて、ルトゥは握られていた手を握り返した。柔らかくて、細い指をした女の子の手だった。


「ここ……は?」

「無理に話さないで。ここは、カンセルさんの家よ。そして、ルトゥが寝泊まりしていた部屋」

 ずきりとした痛みに、再びルトゥは呻く。右の脇腹近くから、何かが突き刺さったままになっているような錯覚を覚える。

 そして、声の主が誰だったのか理解する。少しずつ焦点が定まった視界には、ヴィエルの泣き顔があった。


 自分が置かれた状況をルトゥは理解する。

「そっか……。僕は、負けたんだね」

 不思議と、涙は流れなかった。悔しいとか、そんな感情はもう通り越して、綺麗さっぱりと焼き尽くしたかのような。そんな、清々しさすらあった。

 一方で、ヴィエルはベッドの脇に座ってルトゥの手を握ったまま、嗚咽の声を上げていた。


「ごめん。心配させてしまって」

 この様子だと、ひょっとしたらずっと付き添ってくれていたのかも知れない。

 痛みに耐えながら、ルトゥは上半身を起こす。


「ヴィエル。僕はもう、大丈夫だから。だから、しばらく一人にしてくれないかな?」

「何で? そんな事言うの?」

「一人に、なりたいんだ。やっぱりほら、あれだけ大口叩いておいて、手も足も出なかったっていうのは、恥ずかしいからさ」

 そう言って、ルトゥは苦笑いを浮かべる。こんなにも格好悪い結末というのも、そうそう無いだろう。


「そんなことない」

「ヴィエル?」

 涙混じりで言ってくるヴィエルに、ルトゥは小首を傾げた。


「そんな事無いからっ!」

 次の瞬間、ルトゥは目を大きく見開いた。

 ヴィエルが、抱きついていた。そして、気付けばほぼ反射的に、彼女を抱き締めてしまった。


「格好良かったから! 一生懸命頑張っているところ、私ずっと見ていたから! だから!」

 ルトゥの肩に顔を乗せて、ヴィエルがそう言ってくる。

 ルトゥは、静かに目を閉じた。彼女の背中に腕を回す。不思議と、痛みが引いた気がいた。


「そうなんだね。そう言ってくれて、ありがとう。心配させてしまって、本当にごめん」

 そう言うと、ヴィエルが頷く気配が伝わった。

「あと。もう少しだけ、こうして貰っても、いいかな?」

 ヴィエルは腕に力を込めて、返事を返してきた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 リュンヌと共に、ソルは家路についた。

 ヴィエルはカンセルの家に泊めてもらうよう頼んだ。あの様子では、到底連れ帰ることは出来ないだろう。家族には、上手く言い訳を話すしか無い。


「本当に良かったんですか? これで?」

「良いも何も。あんな空気の中に割って入れる訳無いでしょ?」

「いやあ? でも、ソル様ならやってくれるかなあと」


「出来てたまりますかっ!」

 きっ。と、ソルはリュンヌを睨む。リュンヌは曖昧に笑っていたが。

「そうですか? これまでのソル様なら、そこで引いたりはしなかったと思いますが?」

 ふん。とソルは鼻を鳴らす。


「まあ、そこはね? 私もルトゥをどこまで想っていたかというと、本気でそういう対象で見ていた訳でもありませんし? 妹が本気だというのなら、その恋路を邪魔するほど鬼でもありませんわ」

「なるほど」

 そう言いつつも、リュンヌは首を傾げた。


「納得いかないって顔ですわね?」

「まあ、そうですね。ちょっとだけ、ソル様らしくない気はしたので。キャラ崩壊も含めて、ソル様がルトゥを気に懸けるというあたりから」

「そうかも知れませんわね」

 ソルは認めた。


「そうね? 私、ちょっとだけ、確認したかったことがありましたの」

「確認したかったこと?」

 ソルは頷く。


「色々と、私には夢があったんですの。それがどんなものか、あの子を通じて確認したかった。そういうことですわ。そして私は、確認した。それだけで満足ですの」

「はあ? そういうものですか」

 余計に訳が分からないと、リュンヌは困惑した表情を浮かべる。それを見て、ソルはくすりと笑った。そう、それでいいのだ。


「それにしても、あなたも随分とルトゥを痛めつけたものですわね? あれ、本当に大丈夫なんですの?」

「急所を打ったとはいえ、一応加減はしていますよ。数日は寝込むかも知れませんが、後遺症は無いはずです」

「だといいけれど。まったく。私には、あなたがあの子に対して、何か意識し過ぎだとしか思えませんでしたわよ?」

「気のせいです」


 素っ気なく、リュンヌは答えてくる。だからソルも、素っ気なく訊くことにした。

「そういえば、話は変わりますけれど。あなたの前世って、ひょっとして私が知っている人間なんですの? それとも、だから答えられない話だったりしますの?」

「何ですか突然?」

 軽く、リュンヌは嘆息する。


「生憎と、全く知らない人間ですよ。でなければ、前世のあなたを知った上でこんな風に接する訳が無いじゃないですか。ソル様に対して、そんな実感も持てないんです。そんな僕は、ソル様の事なんて聞かされている以上のことは何一つとして知らない男です。ソル様とは接点なんてありません」

「あら? そうなんですのね」

「はい」


 頷くリュンヌを見て、ソルは夕焼け空へと向き直った。

 「そうね? きっとあなたは、そう言うと思った」と納得する。

 いいですわ。それがあなたの罪滅ぼしの形だというのなら、私はその望み通り、幸せになってみせますわ。

 それがきっと唯一、この世界で彼の想いに応える方法なのだろうから。

ヴィエル「シーニェさん? 私にお話って何ですか?」

シーニェ「はい。僭越ながら、アドバイスがありまして」

ヴィエル「私にアドバイスですか?」

シーニェ「はい。これは私が使った手なんですけど、寝込んでいる男の人を落とす方法は。ごにょごにょ――」

ヴィエル「な、何て為になるアドバイス。他には何か?」

シーニェ「はい。他にはですね? ごにょごにょ――」

ヴィエル「ふむふむ」


カンセル「(あの二人、仲いいんだなあ。何の話しているのか分からないけど)」



すみません。

区切りが良いところまで来たので、こっちも4月半ばまで更新ペース落とさせて下さい。

応募用の作品の原稿がですね? 余裕無いのです。本当にごめんなさい。

ちなみに、ルトゥ編はこれとあと数話を残して完結です。

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