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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第五章:年下の男の子編】
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第97話:届かぬ想いの向こう側

 ルトゥがカンセルの家に泊まり、特訓に明け暮れるようになって一週間が経った。

 一度、二人きりで話がしたい。

 そう、ヴィエルから言われて、ソルは彼女の部屋へと赴いた。


 ヴィエルの部屋は造りはソルのものと同じではあるが、玩具や人形、ぬいぐるみの類いが所々に置かれており、そこは彼女の性格を良く顕しているようにソルには思えた。

 二人で並んで、寝台へと腰掛ける。


「お姉様。お気づきかも知れませんけれど。ルトゥのことでお話があります」

「そうね。多分、そうだろうと思っていましたわ」

 ヴィエルは表情を硬くしながらも、頷いた。


「ルトゥとリュンヌの決闘。止められないでしょうか?」

「リュンヌには、言ってみたのかしら?」

 ヴィエルの顔が歪む。


「頼みました。でも、ダメだって。お姉様からも言われたけれど、それでもダメだって」

「でしょうね。あれも、本当に頑固で馬鹿ですものね」

 そう言って、ソルは深く溜息を吐く。


「ヴィエルは、まだ何度か様子を見に行っているんですのよね? 私は、絶対に来て欲しくないと言われてしまったから、行っていませんけれど」

「うん。お姉様の姿を見ると、決意が挫けそうになるからって。でも、私は心配だから」

「なら、ルトゥには言ってみたんですの?」


「一度だけですけど。言いました。でも、返事はリュンヌと同じでした。絶対にダメだって。譲れないって。そう言ってました」

 ヴィエルもまた、ソルと同じように深く溜息を吐いた。


「お父様達に打ち明けて、止めて貰うというのは、ダメでしょうか?」

「無駄でしょうね。あの様子だと、一時凌ぎにはなるかも知れないけれど、どこか人目に付かないところでやらかすんじゃないかしら? カンセルが吹き込んだのかしらね? だったら、一度念入りにとっちめておかないといけませんわね」

「それは、私がもう言いましたっ!」

 彼女にしては珍しく、怒気を滲ませた口調で言ってきた。


「でも、それもダメでした。これは、一度ケジメを付けないといけない話だって。そうじゃないと、ルトゥはこの先進むことが出来ないって。それが分かっているから、ルトゥもこの提案に乗ったんだって。そう言っていました」

「そう。あの男、そんな事言っていたんですの」

 ソルの声が冷える。彼女の頭の中で、次々とお仕置き方法が組み上げられていく。


「でもやっぱり、止めることは出来ないみたい」

「そうね」

 それについては、ソルももう諦めている。


「ルトゥはね。あれからずっと、それまでよりもずっと厳しい練習をしているの。カンセルさんは、騎士学校の集中合宿でやるような練習メニューだって言っていた。朝早くから夜遅くまで練習して、酷い罵倒を浴びせられながら。あんなの、私もう見ていられない!」

「それでも、ルトゥは止まらないのね?」

 涙を滲ませながらも、ヴィエルは頷いた。


「毎日、ボロボロになっても、それでも止めようとしないの」

「そうなのね」

 何となく、その光景はソルにも直接視えた気がした。そして、それは見ていてとても胸が痛くなるものだという事も分かる。


「どうして私があの子の事を気に懸けたのか、少し分かった気がしますわ」

「お姉様?」

 ヴィエルが怪訝な表情を浮かべる。


「いえ? 何でもありませんわ。ただの、独り言でしてよ」

 小さく笑って、ソルは首を横に振る。言ったところで、ソル以外には誰も分からない話だ。


 少しの間、沈黙が続いて。意を決したように、ヴィエルは息を吸った。

「ルトゥはね? 本当に、頑張っているの。見ていて、日に日に強くなっているって。そう思う」

「うん」

「ルトゥは、必ずリュンヌに勝つわ。少しでも、お姉様の傍にいられるように。そうしたら、お姉様はどうするんですか?」

「そうね」


 微笑みながら、ソルは答える。

「そうしたらきっと、私はあの子の事を本気で好きになってしまうんでしょうね」

 それこそ、この先彼がどんな姿になろうとも。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 村の外れで、ルトゥは地面に突っ伏し、横たわっていた。

 酸欠気味で、体がどれだけ空気を欲しても、呼吸が追い着かない。


「立て」

 頭上からカンセルの声が振ってくる。その声はどこまでも厳しく、容赦が無い。

 特訓の内容は、ある意味ではこれまでの練習の全否定だった。技術などは二の次。兎に角、どこまでも体力と気力を追い込み、挫けない、諦めない心を手に入れるというものだ。あまりにも厳しい特訓のため、女子供の目には毒だと、練習場所は彼の自宅から離れた。


 ひたすらに、自身をいじめ抜くだけのようなトレーニングの後に、カンセルとの実戦を想定した稽古が続く。基礎が固まりきっていない中でこんな真似をすることで、再び余計な癖が付くリスクはある。だから、練習で覚えたことは、この特訓の後に再びやり直しということになるそうだ。

 それでも、短期間でリュンヌに勝つ可能性があるとすれば、こうして「絶対に負けない」という不屈の闘志を手に入れるしか無い。


 カンセルとの実力差は、まさに絶望的だ。全く、ルトゥには彼に付け入る隙が見出せなかった。基礎体力からして、まるで次元が違う。一合受けただけで、腕が吹き飛ばされたかのような錯覚を覚える。

「どうしたルトゥ? 俺は、立てと言ったんだ! いつまで寝ているつもりだこの腰抜けがっ!」

 カンセルの怒声を聞きながら、ルトゥは歯を食いしばった。


 何故? 自分は今、こんな真似をすることを承諾してしまったのかと。後悔の念が湧き上がる。

「お前の想いとやらは? お前の男の魂とはそんなものかっ! 所詮は口だけかっ!」

 違う!

 それだけは違う。


「ま――」

「うん?」

 深く息を吸って、ルトゥは息を整える。


「まだ、やれます」

「だったら、早く立てっ!」

「はい」

 重くてろくに動かない体をゆっくりと動かし、手にまだ残っていた木剣を地面に突き立てながら、ルトゥは立ち上がった。


「何がおかしい?」

 カンセルに言われて、ルトゥは自分が笑っている事に気付いた。


「いえ、何でもありません。きっと、以前の僕だったら。父さんにこんな指導を受けていた頃なら、僕は立ち上がれなかったんだろうなって。それが、何だか可笑しくて」

 こんな事でも、自分は以前と変わったのだと思える。それが、こんな目に遭っているというのに、愉快だった。あまりにも過酷な目に遭っているために、どこか頭がおかしくなっているのかも知れない。


「ほう? 随分と余裕な事を言ってくれるものだな? まだ、そんな口を叩ける根性が残っていたか」

 カンセルからの返答は、冷たい。

 無言で。ルトゥは剣を構えた。

 そして、カンセルへと立ち向かっていく。勝利を信じて。

カンセル「返事をしろウジ虫め!」

ルトゥ「サー・イエッサー!」

カンセル「聞こえんぞ。タマを2つともなくしたか?」

ルトゥ「サー・イエッサー!」

カンセル「何だその顔は! 貴様の頭の中身は●●が詰まってんのか?」

ルトゥ「サー・イエッサー!」

カンセル「そんな腑抜け面で勝てると思っているのかこの●●め。殺す時の顔をしてみろこの●●!」

ルトゥ「サー・イエッサー!」


シーニェ「あなた? 最近ご近所からの目が凄く冷たいの。もう少し何とかならないかしら?」

シーニェ「他にも卑猥な歌を歌いながら走るとか、娘の教育にも悪いと思うの」

カンセル「悪いがそれは出来ない。ルトゥを鍛えるため、俺も心を鬼にして――」

シーニェ「あ、な、た?(マジギレ)」

カンセル「あ、うん分かった。当分、人目に付かないところで訓練するよ」

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