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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第五章:年下の男の子編】
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第95話:未熟者の挑戦

 険しい表情を浮かべ、無言でルトゥは剣を振る。

 カンセルから、教えて貰う剣の振り方は増えた。大上段からの振り下ろしの他に、横薙ぎと袈裟斬りだ。

 これもまた、自分が着実に上達していると認められたからだと理解し、ルトゥは嬉しく思っていた。だからこそ、カンセルの教えは正しく守っていこうと考えている。


 しかし、今日はどうしても、剣を持つ手に力が入ってしまう。勿論、剣はしっかりと握らなければいけない。とはいえ、腕が強張るほどの力の入れ方というのは、間違っている。それがどうしても、抑えられない。


 カンセルは今、村の畑に見回りに出ている。監視の目は無い。

 いけないことだと思いつつ、ルトゥは教えて貰ったものとは異なる構えを取った。カンセルから教わっていた正眼の構えではなく、上段の構えを取る。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 見回りから戻って来たカンセルに厳しく睨まれ、ルトゥは萎縮した。

 彼の家の庭に立って、項垂れる。

 カンセルが見回りから戻ってくる頃を見計らって、元の練習へと動きを切り替えたのだが、勝手な真似をしていたことはあっさりと見破られてしまった。


 この人が一流の騎士であることは、よく分かっていた。決して侮っていたつもりは無い。しかし、やってしまったことを考えれば、そう受け取られても仕方の無い話だった。

 本当に、馬鹿な真似をしてしまったと、ルトゥは激しく後悔する。これで、もう「言うことを守れないなら剣術は教えない」と言われたら、悔やんでも悔やみきれない。


「すみませんでした」

 項垂れて、それしか言えなかった。

 カンセルから、大きく溜息が漏れるのが聞こえた。


「何故、そんな真似をしたのか。理由を教えてくれるか? 俺が許すかどうかは、それ次第だ」

「はい」

 声を震わせながらも、ルトゥは頷く。


「実は昨日。リュンヌから言われたんです。ソルお姉様が僕のことを心配していて、だからもう少し剣術を控えるようにって」

 ここ数日の、彼女が悩んでいた理由はそれだったのだと理解した。


「それを聞いて、僕は。また、どうしようもなく、無力感と怒りが抑えられなくなりました。僕はここに来て、少しずつだけれど成長出来ていると思っています。ソルお姉様に気にかけて貰えるのは嬉しい。けれど、僕がやっていることが、ソルお姉様にはまだそんな風にしか見えていないんだって分かって。それが、本当に悔しくて。自分の実力が、どれほどのものかは分かっているつもりですが――」

 ルトゥは拳を強く握り、震わせた。


「つまり、早く強くなって、ソル様を見返し、安心させたい。もっと、自分が頼れる男であると伝えたいと考えた。そういうことか?」

「はい。その通りです。分かっています。こんなものは、僕の未熟な気持ちだって。あんな真似をしても、強くなんかなれないって。でも、衝動が抑えられませんでした」

「なるほど、何を考えていたのかは分かった」

 カンセルの口調は、微妙に和らいだ。そんな風にルトゥは感じる。


「まあ、動機はどうであれ。早く強くなりたいという気持ちは分からなくもない。言われたことだけを守って、本当に強くなれるのかという迷いが出てくるのも、ある意味では仕方がない話だ」

「そんな事はありません。悪いのは僕です。カンセルさんの教えを守れなかった僕が悪いんです」


「ああそうだ。ルトゥ。君が悪い。しかしだ。俺が指導しているのは、一人の人間なんだ。心を持ち、色々と悩み、考えて生きている少年だ」

 カンセルの、どこか優しげな口調にルトゥは戸惑う。


「俺はな? 唯々諾々と、他人の言うままに従って、他人に依存して生きる人間っていうのは。つまり、自立していないって思うんだ。そんな奴は、それこそ男としてどうかと思う。剣術の練習という意味では問題だが、自分を出していこうとしたその気持ちは、大事なんじゃないかと思う。親元で心を押し殺していた少年が、こうして自立し、自分の道を探し、反発心を持つようになったっていうのは、ある意味では歓迎すべき事なのかも知れないな」

 そう言われて。ルトゥは目から熱いものが流れるのを自覚した。


「それに、恥ずかしい話だが、俺にも覚えがあるんだ。早く強くなりたいっていう一身で藻掻いて、先生の言いつけを守らなかったり。だから、動機はどうであれ誰もが通る道なんだろう」

 そう言って、カンセルは照れくさそうに笑った。


「カンセルさん。まだ、僕に剣術を教えてくれますか?」

「ああ、勿論だ」

「有り難うございますっ!」

 この人に師事して、本当に良かったとルトゥは思った。


「しかし、ルトゥ? 君は俺が帰ってくる前、どんな真似をしていたんだ?」

「はい。実は、リュンヌの真似をしたんです」

「リュンヌ?」

 ルトゥは頷いた。


「僕が悪漢に恐喝されていたとき、ソルお姉様とリュンヌが助けてくれたわけですが。そのときのリュンヌの動きです。こう――」

 ルトゥはそのときに見たリュンヌの通りに、上段に構える。


「あのとき、リュンヌはこう。上段から木剣を振り下ろし、横薙ぎ、突きを繰り出して。三人を撃退しました」

「こんな感じか?」


 ルトゥの説明を聞いて、カンセルもまた同じように大上段で構える。

 そして、そこから上段斬り、横薙ぎ、突きを繰り出した。それは、ルトゥの目から見てリュンヌと遜色無いものに思えた。


「はい、その通りです」

「なるほど。どういう動きを目指したのかは分かった」

 納得したと、カンセルは頷く。

 そして、彼はしばし顎に手を当て、思案する素振りを見せた。


「ルトゥ。一つ、俺から提案がある」

 ルトゥは真剣な眼差しをカンセルへと向けた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 視察から屋敷に帰ってきたところ。二人に大事な話があると、ソルとリュンヌはルトゥに呼び止められた。この様子だと、屋敷の前で待ち構えていたように思える。

「用って、何ですの?」

 にこやかに、ソルはルトゥへと微笑む。剣術の練習を控えてくれるとか、そんな話だろうかとちょっと期待する。


「はい。リュンヌ=ノワール。僕は、君に決闘を申し込む! 期日はこれから半月後だ。勝負の方法は木剣と防具を使った試合形式。ただし、最後まで立っていた方が勝ちとする」

「えっ!? ちょっと? ルトゥ? あなた、突然何を言っているんですの? どうして、そんな真似を?」


「お姉様。止めないで下さい。お姉様が僕のことを心配していることはリュンヌから聞きました。ですが、僕も男なんです。ただ、守られるだけの子供じゃない。そこのリュンヌにも劣らない男だと、見せてやります。そうしたら、剣術の練習も、許してくれますよね?」


「えっと? ちょっと待って? 待ちなさい? 落ち着いて? 私、そういうつもりで言っているんじゃないんですのよ? ほら、リュンヌも何か言って頂戴? それは誤解だって」

 そう言って、ソルは慌てて視線をリュンヌへと向けるが。彼は、はっきりと怒りの表情を浮かべていた。ソルは絶句する。


「決闘ですか? ルトゥ様が? 僕に?」

「はい。そして、ソルお姉様を守る名誉を君から譲り受ける」

「一方的ですね。僕が勝っても、意味が無いじゃありませんか」


「勿論、ただでとは言わない。君が勝ったら、僕は出来る限りの話なら、何でもします」

 そんな事を言ってくる二人の視界には、全く自分が眼中に入っていないとソルは理解した。睨み合う二人の男の間に、割って入ることが出来ない。


「いいでしょう。ルトゥ様がそのつもりなら。受けましょう。ただし、覚悟して下さいよ?」

「それは、こっちの台詞だ。それと、しばらくはカンセルさんの家にご厄介になります」

 話は終わりだと、ルトゥは踵を返し、一足先に屋敷へと戻っていった。

 何でこうなるのかと、ソルは頭を抱えた。

リュンヌ「ん? 今、何でもするって言ったよね?」

ルトゥ「えっ!?(蒼白)」

リュンヌ「そういう意味じゃないっ!」

ソル「リュンヌ? ソノ 話 詳シク(暗黒笑顔)」

リュンヌ「違いますからねっ!?」

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