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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第五章:年下の男の子編】
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第94話:驚きビフォーアフター

 苦々しく溜息を吐いて、ソルはリュンヌを自室に召喚した。

 あれこれと悩んでいるが、一向に答えは出せそうに無い。ルトゥにもその様子は伝わっているのだろう、何度か、何を悩んでいるのかと訊かれたこともある。


「お呼びでしょうか?」

「ええ、あなたの力を借りたいの」

「僕に出来ることであれば、なんなりと」

 恭しく、リュンヌは頭を垂れた。


「でも、その前にあなたの考えを聞かせて欲しいの。リュンヌは、運命って信じるかしら?」

「と、言いますと?」

 リュンヌは小首を傾げる。


「その? この世には運命ってものがあると思う? そして、それはどうあっても決まっているようなものだって。そう、思うかしら?」

「ソル様がどういう答えを期待しているのか分かりませんが。僕は、運命はあるといえばあるし、無いと言えば無いと思います」

「はっきりしませんわね」

 ソルは半眼をリュンヌに向けた。


「と、言われても、そうとしか答えられないんですよ。まあ確かに? 世の中には、どうあっても避けられない結末や運命がある。なんて、物語にはよくある題材です。悲劇的な結末を回避しようと様々な手を打って、しかし、結局はそれこそが悲劇に繋がっていくことになってしまった。なので、運命には逆らえないのだ。みたいな?」

「ええ、そうね」


「けれど、同じように運命を背負わされながらもそれに打ち勝っていくみたいな物語だって多くあるわけです。なので、僕は思うんですよ。世の中には、たぐり寄せやすい未来というものはある。様々な偶然や選択の結果、そういった未来に向かうわけですけれど、向かいやすい未来がより運命的である。そんな風に考えています。だから、ソル様にはお付き合いする可能性がある様々な男性がいるわけですが、誰かと結ばれるようなことがあれば、それはある意味で、もはや運命だとも言える。そういう話ではないかと思います」


「そうなりやすい未来。運命はある。けれどもそれは行動次第であって、絶対というわけではない。そういうことですわね?」

「はい、あくまでも僕の個人的な考えですけどね」

「いいえ。納得出来る考えだわ。私も、そう思うもの」

 リュンヌの言っていることは、ソルの経験から考えても、思い当たる節があるものだった。


「じゃあ。次に、あなたもプロフィール一覧から、ルトゥについての情報を視ることが出来ますわよね?」

「はい、見れますけど?」

「ちょっと、あなたもそのプロフィール一覧のイメージを視て欲しいのよ」

「分かりました」

 言われるままに、リュンヌは虚空を浮かべる。


「それで? 今、僕もプロフィール一覧を視ていますが、これがどうかしたんですか?」

「ちょっとそれで、イメージの上にある数字を変えてみて欲しいんですのよ。どうも、今の年号を基準として、未来と過去10年しか変えられないようですけれど」

「えっ!? 何ですかこれ? ここ、こんな風に変えられたんですか? 聞いてないですよこんな機能っ!?」


 驚きの声を上げるリュンヌ。どうやら、彼も知らなかったらしい。リュンヌの性格上、わざと黙っていたとは思っていなかったが、予想通りだ。そして、フォロー役であるはずの彼にこういう情報を伝えておかないとは、神はどんな了見をしているのだと思った。自力で見つけ出してこそ、ゲームとして面白いとでも思っているのだろうかと。


「それで、そうね。7年後くらいに年号を変えて、ルトゥを見て貰っていいかしら?」

「はい。分かりました。ところで、アストル王子とかについては見たんですか?」

「当然、見ましたわ。より凜々しくなって、惚れ直しましたわね」

「ぶれませんね」

 笑みを浮かべて、「どれどれ?」と、リュンヌは呟く。


「ははあ。ルトゥはこんな感じになるんですか」

「そうね。どうして、こうなるのかしら?」

「真面目に剣術を続けていったから。ではないですか? カンセルの指導が効果的だったのでしょう。体力作りが基本という考えがあるように思えますし」

「なるほどね」

 ソルは顎に手を当てて、頷いた。


"つまり、カンセルを亡き者にすればいいんですのね?"


「は?」

 ぽかんと、リュンヌは口を開けた。

「いきなり何を馬鹿な事言っているんですか?」


「馬鹿とは何ですの馬鹿とはっ! 私は、大真面目にルトゥの将来を心配しているんですのよっ!」

「いきなり発想がおかしいっ! 何をどう考えてそういう事言っているんですかっ! 何が気にいらないんですかっ!?」

「はあ? 見て分からないんですの?」

「全然分かりませんよ」


「見なさい。ルトゥの背が伸びていますわ」

「そうですね。随分と身長が伸びるようです。背の高い男は嫌いですか?」

「いいえ。いいと思いますわ。あと、随分と体格も良くなるんですのね」

「はい。がっしりとした、男らしい感じだと思います」

 ソルは舌打ちをした。


「リュンヌ? あなた、随分と好意的に見ていますわね。それはやっぱり男だからですの? 男としてはこういう体を手に入れるのが、理想なんですの?」

「そこまでは言いませんが、ある意味では理想の一つだと思います」


「冗談じゃありませんわっ! 何ですのこの筋肉もりもりのマッチョメンは! あの可愛らしいルトゥの面影が全然無いじゃありませんのっ! 絶対、隙あらば筋トレして、汗の匂いを漂わせながら鏡を見て。たまに会話があるとすれば『どうですか? この筋肉。ふんっ! ふんっ!』とか言って、ピクピク痙攣させた大胸筋を見せつけてくるんですのよ! 変態! 変態! 返してっ! ルトゥを返してっ!」

「凄まじい形相で、何を言っているんですか貴女は」

 心底呆れたと、リュンヌは乾いた笑いを漏らす。


「まあ、確かにあの線の細い坊やが。こんな熊みたいな感じになるとは、僕も驚きましたけど。ある意味で、逞しくて男らしいとは思うんですけどねえ。ソル様の好みではないと」

 ソルは唸り声を上げた。


「でも、それを言ったらリオンはどうだったんです? あの人も、かなり鍛えていましたよね?」

「あの方も体格は良かったですけれど。でも、筋肉で膨れた感じじゃなくて、もっとスマートでしたもの。スタイルが良くて」

「なるほど。確かに、カンセルに比べるとそんな感じでしたね」

 うんうんと、ソルは頷いた。

 ちなみに、将来のルトゥはカンセルより更に一回り大きく育ったという具合である。


「というわけで、話を戻しますけれど。カンセルを亡き者にすれば、ルトゥはこんな悲劇的な未来を迎えなくて済むんですのね? 一時的に、あの子の心に深い傷を負わせることになるかも知れませんけれど。筋肉もりもりのマッチョメンにさせてしまうよりはマシですわ」

「だから、人を殺そうとしちゃ駄目でしょうがっ! あと、ようやくトラウマを克服し始めた少年に、また心に傷を負わせるような真似をしないで下さいっ!」


「じゃあ、どうすればいいっていうんですの? ルトゥを屋敷に閉じ込めておけとでも言うんですの?」

「言いませんよ! どうしてこう、発想が極端なんですかっ!?」

 ソルとリュンヌは、互いにぜえはあと荒い息を吐き。深呼吸して息を整えた。


「落ち着いて考えましょう。問題は、ルトゥがこのまま真面目にカンセルの下で剣術の練習に励んだら、こうなるっていう話ですよね?」

「そうですわね」

「だったら、ソル様がルトゥに、剣術の練習を控えるように言えばいいんじゃありませんか?」

 そう言われて、ソルは呻く。


「それは、考えましたけど。でも、どう言えばいいのか分からないんですのよ。あの子のやる気に水を差すような真似をして、嫌われたらって思うと」

「そこは、必要なダメージだと思ってやってください」

「それが出来れば、こんな相談してませんわよ」

 苛立たしげに、ソルは息を吐く。


「というわけで、リュンヌ? 何とかしなさい。上手い事言って、ルトゥに剣術を諦めさせるのよ」

「だから、そういう無茶を押し付けないで下さい」

「何ですの? この私の言うことが聞けないって言うんですの?」

 ソルはリュンヌを睨んだ。リュンヌも、渋い顔を浮かべるが。

 やがて、リュンヌは肩を竦め、嘆息した。


「分かりました。折を見て、ダメ元で、僕から説明してみます。ただし、どんな結果になっても知りませんよ? そこは、責任取れませんからね? それでもいいですか?」

 それは仕方がない話だと、ソルは了承はした。

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