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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第五章:年下の男の子編】
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第93話:プロフィール画面の隠し機能

 カンセルに剣術を学ぶようになってからというもの、ルトゥの様子は日に日に変わってきた。そんな風にソルは感じた。

 元々、心の病は治りつつあった。しかし、明確な目標が生まれ、自分の成長や生きている充実感というものを実感出来る様になった。それが、彼を大きく変えたのだろう。


 ほんのちょっとした切っ掛けで化ける人間というものがいる。リュンヌはそう語っていた。ソルはその言葉に半分同意するものの、また違うように思った。つまりは、これこそが、彼の本来の性格なのだろうと。そう、思う。

 ルトゥは、笑顔を見せることが多くなった。ときどき、一人でいるときは物憂げな表情を見せることはあるが、暗く沈んでいるようには見えない。その瞳には、強い意志が宿っている。そんな風にソルは感じた。実を言うと、遠くから様子を伺っているとその表情はどこか大人びて見えて、ソルは胸の奥が熱くなるのを堪えていたりする。


 あと、食欲が増した。剣術の稽古で体力を使ったという事もそうだが、年齢的にも育ち盛りという事もある。食べる量は格段に増えた。美味しそうに食べるルトゥの姿を見て、ティリアも嬉しそうにしている。ルトゥが言うには、カンセルから「食べることは体作りにも大切なことだ」と教えられたそうで、それもあるのだろう。

 日中に体力を使っているせいか、夜は早く寝るようになったが、早寝早起きという生活リズムも悪い傾向ではないだろう。勉強にも、少しずつ集中出来るようになってきた。

 このまま彼が成長していけば、間違いなくいい男になるだろう。あくまでも、本命はアストル王子だと言い聞かせつつも、ソルは期待に胸を膨らませた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 その晩。

 ソルは自室で一人、寝台に腰掛け、虚空を見上げながら「でゅふふ❤」と、にやけた顔を浮かべていた。その様は、淑女のイメージからはかけ離れ、とても他人には見せられない姿だった。頭がどうにかなった可哀相な人と思われても無理は無い。

 なお、彼女自身は今、「恋する乙女」という美しいイメージを自身に抱いている。


「はあぁ。アストル様ぁ」

 ソルの脳裏には、アストルの姿が映し出されていた。

 こっちの世界に転生したときから、彼女は攻略可能な異性のプロフィールを確認することが出来る。その力を使って、たびたびこうして、ソルはアストルの姿を見ては悦に入っていたりする。

 過去に気になった異性がいた頃は、流石にそんな真似はしていなかったのだが。


「と、いけない。流石にそろそろ寝ないといけませんわね」

 机の上に置いた蝋燭の長さから、プロフィールを見ていた時間を確認する。

 ソルは脳裏に浮かぶアストルの姿を閉じた。


 とはいえ、これで脳裏に浮かぶイメージが消えて無くなる訳ではない。プロフィールに辿り着くまでの一つ前のイメージに戻る。戻った先のイメージは、プロフィール選択の一覧として、様々な男の顔と名前が並んでいる。

 あと何回か、脳裏に浮かぶカーソルを移動して選択を選び、イメージを遡る事で、大元のイメージへと辿り着く。そこで「終了」を選択したら、このイメージそのものが脳裏から消えるという具合である。


 正直言うと、こういう手順を少し面倒くさいとソルは感じている。最初から、一度に見たいイメージを見せたり終わらせたり出来る様になればいいのにと。

 そこをリュンヌに愚痴ったら、何でもこの世界の元ネタになったゲームの仕様だと答えてきた。ゲームデザイナーのセンスを疑う。

 あと、意味が分からないのがプロフィール一覧の上部にある数字だ。どうも、表示されている値から考えて、この世界の年号のようにも思えるのだが。去年に見たときは、一つ値が小さかった。


「こんなものを載せて、何の意味があるのかしらね?」

 全く意味が無いだろうにと、ソルはカーソルを年号の上に当てた。そして、指先で机を叩くような感覚を。


「え?」

 不意に、年号の表示が変わった。四角い枠で囲まれた格好になる。カーソルは消えて、代わりに枠内で短い縦線が表示されていた。


「何ですの? これ?」

 その様はまるで、変更可能だとでも伝えてくるようにも思えた。

 いやいやまさか? と、思いつつ、ソルは年号の値を一つ減らしてみる。


「ええっ!?」

 プロフィール一覧に表示される顔が変わった。別人になった訳ではない。どことなく、表示されている顔が若返っているのだ。

 特に、何度も見てきたアストルの顔で確認して、間違いない。今まで気付いていなかっただけで、確かにこれは、去年まで見ていた顔だ。


「まさか? これ、そういうことですの?」

 元々、何をどうすればいいのか分かりにくいイメージが並んでいたのだ。ソルは使用頻度が高い慣れた手順しかこれらのイメージに対して行っていない。


 無論、何か有力な情報が無いかとあれやこれやと試してみたことはある。しかし、「手助け」と書かれた選択を選んでみたら、「バージョン」とか書かれた選択肢かなく。しかも「バージョン」を選んでも意味不明な数値が羅列されるのみ。「設定」の先の「スピード」を変更すれば他の人間の話す速さが遅くなってイライラさせられ、「音量」を変更してみたら声が小さすぎて聞こえなくなったりもした。なので、調査はほとんど無駄だと思い、以降はそんな真似はしていなかった。

 ソルは喉を鳴らし、再び年号を変更してみた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 この二、三日ほど前からソルの様子がこれまでと少し違う。そんな風にルトゥは感じた。

 妙にどこか、自分に対してよそよそしい雰囲気を感じている。自分を見詰める視線に、どこか憂いを帯びているような、そんな雰囲気を。


 どうかしたのかと訊いていても、彼女は「何でもない」としか答えてくれない。ただ、寂しげに笑うだけだった。

 ヴィエルに訊いてみても、全く心当たりが無いらしい。


 自分は、どこか知らないうちに彼女の不興を買うような真似をしてしまったのだろうか? それとも、あるいは?

 ルトゥは、それを考える度に、胸が締め付けられるような痛みを訴えるのを自覚するのだった。

ソル「そういえばこれ、おとめげぇを持ち込んだ話だったんですのよね」

リュンヌ「その設定をどれだけ活かしているかというと、本当に疑問ですけどね」

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