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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第五章:年下の男の子編】
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第87話:隠し事と疑惑の目

2025/09/09

イラストを入れました。

 ルトゥが不良に絡まれてから、数日が経った。

 その晩、ソルはリュンヌを自室に召喚した。


「リュンヌ、これはどういうことですの?」

「そんな話の切り出し方をされても、何のことか分かりません。ちゃんと順を追って話して下さいよ」

 半眼を浮かべるリュンヌに、ソルは舌打ちする。


「気付いていないんですの? ルトゥが私に壁を作っているんですの」

「そうですか? ソル様が話しかけたときとか、普通にしていたと思いますけど。まあ、強いて言えば、ほんの少しだけぎこちなかったように思えますけど」


「そこですわよっ! 鈍いですわね。どうしてか知らないけれど、妙によそよそしいんですのよ。私との会話もさっさと切り上げようとするし。勉強を教えているときも、さり気なく密着しようとしたら、離れていきますし」

「そんな事しようとしていたんですか。結構、ぐいぐい行っていますね」

 感心と呆れが混じったような声をリュンヌは漏らす。


「ですが、そんな細かいところ、傍目で見て分かりませんよ。当事者であるソル様でもないと」

 リュンヌにそう言われて、ソルは唸った。


「でも、さっきあなたもぎこちなかったって言っていたあたり、気のせいじゃないわよね?」

「まあ、そんな気がする程度ですけれどね。なので、ちょっと大袈裟に捉えているのでは?」

「他人事みたいに言いますわね。こっちは、ルトゥに嫌われたのかもって、気になって仕方ないというのに」


「はあ。そうですか? 心当たりとか、本当に無いんですか? ついつい『でゅふ❤』とした笑顔を見せてしまったり。かなりヤバい薬を作っているところを見られたり、あまつさえそれを盛ろうとしたりしなかったんですか?」

「してませんわよ。あなた、私を何だと思ってますの?」


「最近、媚薬みたいなものも研究していませんでしたか? 疲労回復薬に使う、興奮作用のある薬草を多めに取り寄せていましたよね?」

「流石にあなたも、どれがどんな薬効のものか覚えるんですのね」


「散々、実験台にされ続けていますからね? 身を守るためには嫌でも覚えますよ。で? 話を逸らさないで下さい。変な薬をルトゥに飲ませたりしてないですよね?」

「だから、していませんわ。確かに、媚薬というか、惚れ薬みたいなものもひょっとしたら作れないかと思って研究してみましたけど。ほとんど冗談のつもりで、本気じゃありませんでしたもの。もう、とっくに諦めてますわよ。ルトゥに盛るとか、それ以前の話ですわ」


 実を言うと、確かにこう? 色々と昂ぶってしまう薬は作れた。しかし、効果は我慢しようと思えば何とでもなるようなものだ。到底、ソルが望んでいたような、それこそお伽話に出てくる「媚薬」と言えるほどの代物ではない。夫婦の夜を盛り上げる添え物として売れば、これはこれで売れそうにも思えたが、花も恥じらう乙女が売り出すのも気後れする。なので、封印したのであった。


「なら、いいですけど」

 改めて、何か無いのだろうかといった風に、リュンヌには腕を組んで首を捻る。


「では、他にルトゥの変化って何かありませんか?」

「何かって、どんなことですの?」

「そこまでは僕にも思い浮かびません。ただ、どんな些細なことでもいいですから」

「そんな事言われましても」

 半眼になりながら、ソルは改めて思い返す。


「そういえば、薬の量が増えましたわね」

「薬?」

「ええ。気分を落ち着けるための香や、よく眠れるようにするための薬の他にも、それこそ疲労回復薬や凝り解しの軟膏なんかも使っているわね。ふふ、私の薬から離れられなくなったみたいね」

「言い方に、もうちょっと気を付けて下さい。全部、健全な薬だって僕は分かっていますけど」

 リュンヌのツッコミは無視して、ソルは続ける。


「んん? でも、考えて見ればおかしいわね。どうして、疲労回復薬や軟膏まで必要なのかしら? ヴィエルからは、夏バテや勉強で肩が凝りがちだからって聞かされて、それで納得していたんだけれど。ルトゥはそうまでなるような生活ではないはずよね? 日中はほとんど休養に時間を使っているし、勉強もそこまで長時間やるような無理はさせていませんもの」

「あれ以来、明らかにルトゥに構える時間が減って、ソル様も寂しがっていましたものね」

 だからこそ、ルトゥに避けられるのが余計に気になったのだ。


「ええ。やっぱり、避けられていますわね。疲労回復薬と軟膏は、私に直接言えば良いものをどうしてわざわざヴィエル経由で頼んできたのかしら?」

「ヴィエル様からですか? それは、確かに妙ですね。ヴィエル様に頼む意味がありません」

「ですわよね?」

 そこが、ソルには理解出来ないところだ。


「私に隠れて、何かしようとしている? 秘密にしたいことがあるのかしら?」

「それは、考えられますね」

 ふむ。と、ソルは頷く。


「分かりましたわ。もう、下がってよくってよ」

「左様でございますか。では、僕はこれで失礼します。お休みなさいませ」

「ええ、お休みなさい」

 リュンヌの姿が掻き消えるのを見届けて。ソルは自室の外へと出て行った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 深夜。ほとんどの人間はまず間違いなく眠っているであろう時間。

 にも拘わらず、ソルは起きていた。ルトゥの部屋がある通路の端で、様子を伺っている。

 屋敷の中は暗闇に閉ざされ、僅かな月明かりと記憶によって、朧気に見えるかどうかといった具合だ。

 睡眠不足が美容の大敵であることはソルも理解している。本当なら、こんな真似はしたくはない。だが、こればかりは自分の目で確認すべきだと判断した。


 張り込みはリュンヌに頼むというのも一つの手ではあった。しかし、彼がどこまで足音を完全に消せるかというと、そこは未確認のためリスクを避けた。足音を消すスキルについては、前世に続いて今生でも日常的に活用しているため、ソルには自信がある。

 ルトゥが日中に何かをしていた様子は無い。であれば、彼が動くのは深夜だとソルは考えた。


 不意に、静寂が破られた。

 ルトゥの部屋から、ドアが開いて黒い影が出てくる。

 動きましたわね。と、ソルは頷き、完全に足音を消し、十分に距離を取って彼の後を追った。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 庭の外れにて。

 カンテラを傍らに置いて、ルトゥは一心不乱に木剣を振っていた。

 屋敷の壁の影に隠れながら、ソルはルトゥの行動を確認した。


挿絵(By みてみん)


 そう。そういう事か。ソルは口に出すことなく頷いて、踵を返す。

 彼が何をしているのかは理解した。であれば、今夜はこれ以上の詮索は無用だ。見付かる前にとっとと退散して、眠ることにしよう。

リュンヌ「今さらですけど、毒薬含め、薬全般に詳しい上に忍び足スキル持ちって、暗殺者みたいですねソル様。活躍する物語、間違えてませんか?」

ソル「それは、書いている奴に言いなさい」

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