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ソルの恋 -悪役令嬢は乙女ゲー的な世界で愛を知る?-  作者: 漆沢刀也
【第一章:転生編】
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第10話:傷痕と代償

 深夜。

 昨晩とは違い、今夜は猛吹雪だ。窓の外が五月蠅い。

 ベッドに潜り込んでいるというのに、肌寒さを覚えるほどだ。


「リュンヌ。来なさい」

 誰もが寝静まった頃合いに、ソルは彼の名前を呼んだ。

「はい、お呼びでしょうか」

 どうやら、召喚の方法はこれでいいらしい。リュンヌはこのような時間だというのに、傍らに姿を見せた。時間も、気にしなくてよさそうだ。


 男を深夜に、寝所に招き入れる女など、はしたないと思うが。これがそういうのを気にしない輩だというのなら、こちらも気にする義理は無い。

 大きく、ソルは息を吐いた。


「そう。教えておこうと思った話があるのよ」

「はい」

「私に『何かがあったのか』って訊きましたわね? それを少しだけ、話してあげるわ。余計な感想はいらない。聞くだけでよろしくてよ」

「分かりました」

 心をどこまでも冷たく。薄く、笑みを浮かべて。


「私が前世で最初に殺した相手はね? 母だったわ」

「そうなのですか」

「ええ」

 静かに、ソルは頷いた。


「先に手を出したのは母よ。理由は政治的、怨恨、地位、名誉、財産にその他諸々。よくもまあ、これだけ殺す動機を揃えるだけ揃えたというか、殺すために生んだのかと、我ながら調べれば調べるほどに呆れを通り越して笑えましたわ」

 リュンヌは何も答えない。要求に従ってくれている。それでいい。


「最初のやり口が、毒でしたわ。摂取量の問題か、医師の腕か知らないけれど、助かりましたけれどね」

 確かその医師も、数ヶ月後には殺されていたはずだ。毒を盛られた直後から自分の身を警戒するようにはしたが、医者の死によって疑惑を確信し、警戒する範囲はそこから大きく広げた。

「そして、私は決意しましたの。絶対に死んでやるものかと。私は私の人生を掴むためには、何でもする。私の人生を邪魔する奴は必ず潰す。そう誓ったんですの」

 ソルの唇が愉悦に歪んだ。


「母は、謀略を使って殺しましたわ。裏でこそこそやっていたことが誇張して露見するように。判決は死刑。毒の入った死の杯を飲んで死ぬようにね? そのときになって、母は誰の差し金か思い至ったのかも知れませんわね? まだ幼かった私を見たときのあの顔。今思い出しても堪らなくなりますの」

 思えば、障害物を排除することに愉悦を感じるようになったのも、あれが切っ掛けかも知れない。

 暗闇の中で、リュンヌがどんな顔をしているのかは分からない。軽蔑か、憐憫か。何だとしても、見たくはない。だから、こんな時間に彼を呼んだのだ。


「そういう訳で、私は徹底して毒を警戒し、信用ならないものは口にしないって決めましたの」

「分かりました」

 リュンヌが頭を下げる気配がした。


「ただ、一つ言わせて頂きたいことがあります」

「それは、言わなくてよくってよ」

「この屋敷ではもう、ソル様がそんな恐い思いをすることは、ございません」

 ソルは舌打ちした。言わなくていいと言ったことを無視して、何を言うかと思えば。

 ティリアはあの母とは違う。ティリアは胸で吐いたソルを心配し、許したが。前世のあの母ならば、即座にこちらの首を切り落としていただろう。


「それと、話はもう一つ。確認しておきたいのだけれど」

「何でしょうか?」

「昨日の夜、あなたひょっとして、この私に、口移しでスープを飲ませまして?」

「はい。その通りです」

 ソルは唸り声を上げた。


「僕も、こんなところでソル様に死なれては困るんですよ。なので、緊急手段としてやらせてもらいました」

「言っておくけれど、あれはノーカウントでしてよ?」

「当たり前です」

 素っ気なく、言ってくる。それもまた、腹立たしい。


「話はそれだけよ。それじゃもう、消えて頂戴」

「はい。お休みなさい。良い夜を」

 そう言って、リュンヌの気配が消える。

「ふん」

 ソルは、布団を被った。リュンヌの唇の感触など、跡形も無く記憶から消すと言わんばかりに。

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