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1話

 熱い――。

 身体が焼ける。呼吸をする度に喉が焼ける様に熱い。

 痛い――。

 目が痛い。特に左目が強烈な光を見てしまった時みたいに押し潰されるように痛い。


 私、真白白は死んだ筈だった。死後の世界に向かう道中だったのかはわからないけどもどこからか苦しみながら泣きじゃくる子供の声が聞こえた。不快なノイズまみれでママ、ママと呼ぶ声が五月蠅かった。なので当然私は無視した。そもそも子供は嫌いなんですよって。

 ――が、それがいけなかったのか、それとも一瞬でも意識を向けてしまったからか強引に引っ張られる感覚に襲われて、ゆっくりと感じ始めた不快感によって私は目を覚ましてしまう。


「ぁ……っ……?」


 私が発した声は以前の声音ではなく先程の耳障りな子供の声音であり、それを認識した段階でまた泣きじゃくる子供の声が今度はハッキリと聞こえる。


「うるっ……さっ、ぃ……なんっ!?」


 必死に母親に助けを求める子供の声が頭をこだまし私の意識そのものを打ち付けてその苦しみを訴えてくる。

 そして最も最悪な事が――、


「オエッ――」


 自分のでは無い感情が――寂しさと虚しさ、孤独に恐怖がごちゃ混ぜになった感情が一斉に私を襲いそれに耐え兼ねて吐いた。吐いて後悔した。


「アガッ!? ア”ッ”――」


 喉の痛みが倍増。両目も力の限り瞑った事でこっちも倍増。ベットの上をのた打ち回った結果更に辛くなり自分で自分の首を締め上げる。本来なら自分自身で首を絞め上げようと死ぬ所か気絶すら出来ない筈がこの状況が手助けして私の意識は段々と朦朧とし始め――、


『死にたくないッ!!』


「カヒュッ――!? アガッ!?」


 たと希望を見出した途端に子供の死への訴えに首を締め上げていた手の力が抜け、代わりに肺が自分の意思関係なく大量の空気を取り込む。そのせいで喉の痛みに輪ゴムで喉の内側を直接を打ったような痛みが追加されてこの身体の背骨から嫌な軋み音が聞こえる程仰け反った。

 不幸中の幸いな事にすぐ近くに置いてあったテーブルの上には5L程の水が入った容器が2つとコップ、固形軽食、そして紙袋に詰まった複数の粉物があり、私は粉物を薬だと思って全てを片方の水に入れてそれをコップを使わずに容器に顔を突っ込んで直飲みする。容器を持ち上げる力なんてないからこうするしかない。


 後日分かる事なのだが薬だと思っていたのは塩、砂糖、コショウ、粉末唐辛子、粉末ショウガ、結晶化した蜂蜜だった。


 なんにせよこの判断が正しかったらしくこの地獄の苦しみはあと4日で緩和されていくのだが、それを知りえなかった当時の私は色んなものに謝罪し、懇願し、憎みながら喉を冷やす為に水を飲みまくった。


 

 ――4日目の夜、心身共に疲弊しきった意識の中である記憶を思い返す。それは忘れた頃にふと思い出してしまう小学校低学年の時のとある道徳の授業の記憶だ。


【純白の人生を色鮮やかにする方法】


 先生はそう黒板に書いては私達に『人生は塗り絵です』と、説いた。


『生まれた時は真っ白です。みんなに配った画用紙の様にね? そこから色が足されて行きます。ここでみんなに質問です。人生は塗り絵と言いましたが、塗り絵には絵の具が必要だよね? でも人生はみんなに配った画用紙と違って目に見えないし触れられない。……じゃあ? どうやって塗っていくと思う?』


 と、小学校低学年にしては難しい問いを先生は出した。私は先生の質問が理解できず首を傾げるだけだったが他の子は分からずとも面白がって思い浮かんだ事を言った。


 ある子は『勉強』と言った。

 ある子は『サッカー』と言ってそれに便乗した子達がいた。

 ある子は『友達や家族』と言った。

 そしてある子は『夢』と言った。

 当時の私は考える事を放棄して机の上の絵の具を見ながらどの色から塗ろうか迷っていたっけね。

 そんなこんなで出るもの出し尽し短い沈黙の末に先生は満面の笑みで言う。


『今、皆が出してくれた全てが人生においての絵の具です。その全てには共通点があり、それは一生懸命にならなければ叶えられない。自分のものに出来ないと言う共通点です。勉強は頑張れば頑張るだけ身に尽きます。スポーツもそうでしょう? 一生懸命がんばっただけ上手になる。友達や家族だって一生懸命に向き合わないと仲良しじゃなくなるよね? こっちが一生懸命に楽しく話そうとしても”あ、そう。へー。好きにしたら―?”なんて適当に返したら”なんだコイツ? つまらない。一緒に居ても楽しくない! ――なんて思うでしょ?』


 と、先生が答えていくにつれて生徒達は目を輝かせて食い付いた。

 当時の私は白と黒って混ぜたらどっちが勝つんだろう? と悩んでいました。


『そして先生が好きな絵の具でもある”夢”。これは色の源だと先生は思っているんだ。夢の為に勉強する。サッカーをもっともっと上手になってプロサッカー選手になりたい。友達や家族とずっと仲良しでいたい。大人になっても仲良しの子や家族と笑い合っていたい――好きになった人と結婚して仲良し家族を作りたい』


 先生の話に生徒達がそれぞれ頷き、やる気に満ち、顔を赤くしていた。

 当時の私も先生を見た。流石に見た。


『みんなはこれから長い人生の中で様々な絵の具で色を塗る。一生懸命頑張ればそれだけ色鮮やかな塗り絵になる。純白より美しくなればカッコよくなったりします。だからみなさん頑張って下さいね? でないと神様が『儂が折角与えてやった人生をこんな寂しい色で塗りくさりおってからにマジ許さん!』って、神様が罰を与える……かもね? ――はい! 今の先生のありがたーいお話をしっかりと心に刻んでお題の絵を一生懸命塗って描きましょう』


 そう話を締めくくって先生はお題の言い、生徒達はいつも以上の熱意でお題の絵を描き出したのだった。――当時の私は白と黒が引き分けて出来た色に若干魅入られていた。


 そんな過去の話を思い出してはこの状況で思う。


 夢を抱き続けない事は悪ですか? 夢を追わないのも悪ですか? ――疲れませんか? 私は疲れました。見上げる事すら首が痛くて、手を伸ばすだけでも肩と二の腕が疲れて嫌になるんです。これが先生が言っていた神様が与えた罰ってやつでしょうか? あぁホンット、やってなんない。


「ぁっ……ハッ……」


 それでもまぁ、先生? 色の中で灰色は黒に次に好きな色ですし、貴方のありがたいお話を思い出してる今でも私の後悔だらけの人生に間違いなんてない。 

 と、そんな悪態を尽きながらこの地獄を苦しみを生き抜いた。

ダイヤにいけない

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