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私、真白白のこれまで人生は比喩で良く使われる灰色人生だった。けど黒が混ざってるからって悪い事はしていない。記憶にないからやってない。白から灰色になったのはただ単に濁っただけ。きっとこれからの人生もそんな灰色一色だと思う。
結婚はしていない。恋人もいない。好きな人は居ないし、それどころか興味がある人すら年単位でいない。
親友はいない。友人達は自然消滅したと思う。職場の人間関係は業務に差し障りの無い程度の間柄。
家族はいる。全員生存。家庭環境は問題ない。……会話は基本しませんけども。
それが私――真白白。ゲーム会社に勤める御年29歳のしがないモーションデザイナーだ。
「――」
深夜。節電の為なのか照明が消されたフロアにて私――真白白はメンタルケア用の歌を聞きながら目にタオルを押し付けて泣いていた。
鬱陶しい事に理由があって涙を流している訳ではない。メンタルに異常はない。身体だって慢性的な疲労と眠気があるが異常はない。学生時代からあるのだからこの疲労と眠気は通常なのだろう。――強いて言うなら吐いた後の特有の飢えがあるくらい。けどこれは関係ない。決まって吐いた後の2~3時間後くらいに涙が勝手に流れる程度のメカニズムはありますが。
「……ん」
数分後、タオルを放してモニターの画面をYou○ubeから仕事の画面に切り替える。
涙は止まっている。流し始めてメンタルケア用の歌を2曲程流せば涙は止まる。良くある事だからもう対して気にならない。
――まぁ、最初の1社目でこれを親の前でやらかして辞めたんですがね。
「……」
途中だった作業を再開する。今、画面に開いているのは私が受け持っている6件の内の一件。リテイク数が18回と一番多くて9月末納品が現在11月半ばと言う一番納期が過ぎている女狼のモーションだ。
「んっ」
ふときた欠伸を我慢しつつリテイク指示のメールに添付された動画を再度確認。
ちなみにリテイク内容はこうだ。
〈確認致しました。急なモーション修正の対応有難うございます。しかしながら動きに色気が些か足りないと感じます。此方の方で参考になる動画を3点添付させて頂きましたのでそちらも参考に微調整をよろしお願い致します〉
との事。そして添付された動画3点はその全てが地上波されたスケベアニメのスケベシーン。
――要約すると”乳もっと揺らせ腰ももっとくねらせろ顔ドアップ時の笑みは股間にくるエロ顔にしろ”だそうな。
「ハー」
色気が無くてごめんなさいねー? と、心にもない謝罪を思いながらチェック日のメールを返信した時を思い出し乾いた笑みの様な溜息の様な声が漏れ出た。ちなみにチェック日の返答は恒例のなるはやでお願いします、だ。
「……」
添付動画の気になる箇所をスロー再生したりコマ再生したりしていると手が止まり思考が切り替わる。
もうすぐ黄金の20代が終わろうとしているからか、それとも世間で言ういい年になってきているからか暗い静かな場所にいるとふと思う事がある。
『親が死んだら私ってどうなるのかな?』
と、言う人によっては大事だったり大事じゃなかったりな事だ。
私の人生は今の所両親が中心だ。不自由なく全うに育てて貰ったからそれなりに恩を感じているから。けど他人様との繋がりがとてつもなく億劫で憂鬱で面倒くさくて気持ちが悪くなるので結婚は諦めている。だから孫の顔は見せれない。私のこの残念な頭で考えられる親孝行と言えば老後の為に親より先に逝かない事と、全うに働いて普通に生きる事ぐらい。
「んっ」
まーでも、犯罪者にはならんだろうなんか疲れそうだし。会社は……肺がんになり次第早々に辞めるな。全うな退職理由にもなるだろうし。
と、そんな馬鹿馬鹿しい堂々巡りを長々としている内に作業を終わらせて帰り支度を済ませては煙草を片手に外へ出る。
「うっ」
寒さに思わず眠気が消えて身震いする。覚悟していたとはいえ鼻先は瞬時に赤くなり煙草を咥える唇とライターを持つ手が悴んで双方落としそうになるほどに深夜2時過ぎの寒さは容赦が無く、しかも天気予報に裏切られて雨の中で一番嫌いな霧雨が降ったり舞ったりして頬に纏わり付きやがる。
「――……ふぅ」
それでも煙草は吸うんですけどもね。煙草を吸う理由ですか? ――さぁ? 肺がんになって早死にしたいんじゃないんですかね? それも全うな死に理由になりますしねん。
「――ん」
いつもだったら2~3本の所、箱の中には4本残っていたので多少気持ち悪くなりながらも全てを吸い通勤用の自転車が置いてある駐輪場へと歩き出す。これから約1時間自転車に乗って帰るのだと思うと「電動でも辛いなぁ」と、思わずボヤを吐いてしまうがいつもの事。自転車に乗れば無心で漕ぐのだから問題はない。
――そう。問題ない。問題ない筈だった。駐輪場から自転車に乗って帰路に付くだけの筈だったのに、私は駐輪場には辿り付けなかった。駐輪所に近づくにつれて私の視野や擦れ出し、眠気による瞼の重しが増していき――
「……ぁ……ぇ…………?」
気が付いた時には私の身体は地べたに横たわって視界の濡れたアスファルトは赤みを帯びていた。
『――……寒い、でも軽ィ――』
と、私の大切な何かが抜けて身体でも意識でもない何かが軽くなっていくのに身を任せ、私――真白白は30歳になる前に死んだのだった。
またまた失踪するかもね?だってロ○グボウとマ○ティフショットガン装備の薬中やガスオジが楽しいから仕方ないね!