田口君。君も見えてんの?
「帰ったぞ!真凜!」
部屋をノックもせずにドアを開ける。真凜は布団を頭から被り震えている。
「大丈夫か」
「お、お兄ちゃん。だって、あれ見てよ」
窓から見える景色は変わらずに晴天だった。
「真凜。ごめんな。お兄ちゃんには、それが見えないんだ」
「う、う、う」
涙を一生懸命に堪えている。
「でもな、その代わり、それが消えるまで傍にいるから心配するな!」
「うん。うん。ありがとう」
そう言って、布団から指先を出した。俺はその手をギュッと握る。そして心の中で「大丈夫。俺が守るから、大丈夫」呪文の様に何度も唱える。
「ピンポーーン」
「誰だ?」
「お兄ちゃん。行かないで」
思わず、放そうとした手をギュッと握られる。
「ああ、ごめんな」
「ピンポーーン、ピンポーーン・・・・ガッチャ」
あれ?今ドアを開けたぞ。泥棒か?
「真凜。ごめんな。一度手を放すぞ」
「う、うん」
真凜から空が見えないようにカーテンを閉める。部屋は遮光され、ドア下の僅かない光が射す程度だ。
「直樹ぃーいる?」
「え?あの声田口か?」
布団の中の真凜もビックりしたようで、もぞもぞしている。
「真凜。田口だ。部屋に入れてもいいか?」
「田口さんなら・・」
布団の中から小さく聞こえる。それを確認してから田口に向かって叫ぶ
「田口、こっちに来いよ!あ、ドアの鍵しめてな!」
「あ、はぁーい。おじゃましまぁーす・・・おぉおい、直樹どこなの?」
ガチャっと鍵の締まる音がする。廊下を歩きドア前の下から影が覗く。
「あ、そのドアの部屋」
「ここ・・・失礼しまぁす」
田口はその部屋が真凜の部屋だと察した様で、嬉しさと緊張と部屋の異様な雰囲気に複雑な表情を見せていた。
「おお、どうした?」
「どうしたも、こうしたも、俺心配なっちゃって、来ちゃった。で、真凜ちゃんは?大丈夫なのか」
暗闇の中で、真凜の存在には気が付いていないようだ。
「ああ、大丈夫だ」
布団をポンポンと叩く。
「なんだかさ、今日の天気。変じゃん。今も直樹ん家の上空に雨雲っていうか、とぐろ撒いた雲がかかっていてさ、なんか不吉になっちゃって・・」
「え?」
俺は、閉じたカーテンを再び開く。やっぱり晴天だ。窓を開け、体を乗り出し上空を見上げても雲一つない。田口は苦虫を嚙み潰したような顔をしながら。
「な、不気味だよな」
と、言う。
もしかしたら、コイツも見えてんの・・・・