第3話 ギャルはヲタクと話したい
放課後。
日直の用事を済ませた俺は、春華那と一緒に下校するため校門へと向かっていた。
「やれやれ、思った以上に時間がかかったな……。こりゃ春華那に文句を言われそうだ」
校門で落ち合うなり「ちーくんおっそい! アイス奢りだかんね!」とたかられる自分が目に浮かぶ……
まあ平謝りすれば許してくれるだろ。
約束自体は守ってるワケだし。
そう思って靴を履き替え、外へ出る。
しばし歩いて夕暮れ空の下を歩いていると――校門の門扉に寄りかかってスマホを眺めている春華那の姿が。
あれ、確か友達と駄弁ってるって言ってたのに……結局一人で待ってたのか?
コミュ力お化けの春華那はギャルグループの友達は勿論のこと、気さくに話せる知人など幾らでもいる。
だから校内にいる間は、常に複数名の友人に囲まれているイメージ。
……俺と一緒にいる時以外は、の話だけど。
だから一人でいるのは珍しいんだが……
それに心なしか、表情も強張っているような……?
微妙に気になりつつも、俺は春華那に近づいていく。
「悪い、待たせたな春華那」
「わひゃ!? ち、ちーくん!? いきなり話かけないでよ!」
「??? す、すまん……」
待ち合わせてたんだから、普通は話しかけると思うのだが……
春華那は慌てた様子でスマホを自分の後ろに隠すと、
「もぅ、遅いし! メッチャ待ったんだかんね!」
「ああ、だから悪かったと……」
「ほ、ほら、早く帰ろ! 日が暮れちゃうし!」
今はまだ四時半くらいだから、日が暮れるのはもう少し先では?
などと俺が突っ込むよりも早く、春華那はスタスタと歩き始めてしまう。
……なんだろう、どこか様子がおかしいような……?
流石にこれだけ付き合いが長いと、些細な変化にも気が付く時がある。
特に春華那は普段から一定のテンションであるため、すぐに「あ、今日なんかあったんだな」とわかってしまう。
とはいえ彼女はあまりズルズルと引きずる性格でもないし、明日の朝になれば大抵は元通りになっている。
――ま、どうせこの後ボイチャしながらゲームやるんだ。
話くらいは聞いてやるか。
そう思いつつ、二人足踏みを揃えて家へと向かう。
しばらく通学路を歩き、そして綺麗に並んで建つ胡桃沢家と樋山家の家に到着。
「それじゃあ、着替えて準備できたらLINE飛ばすから。あんまりメイク落としに時間かけんなよ」
そう言い残して、俺は自分の家へ入って行こうとする。
しかし――
「ま――待って、ちーくん!」
春華那が、俺を呼び止める。
「え、えとさ……なんつーか……今日は、ちーくんの部屋に……行きたい、んだけど……」
「え――?」
俺は、目を丸くする。
春華那が俺の部屋に来たいと言い出すのは、かなり久しぶりのことだったからだ。
そりゃ小学校の頃とかだったら、俺の部屋で遊ぶこともあったけど……
「おいおい……今の俺の部屋はヲタクグッズが大量で、お前が見て面白い物なんてなにもないぞ。いつも通りボイチャで――」
「いや! 今日はちーくんの顔を見て話したいの!」
断固として発言を曲げない春華那。
……幾らお隣さんの幼馴染だからって、お年頃な女子高生が男子高校生の部屋に上がり込むのは不味いのでは?
世間一般では、彼氏のいないギャルって簡単に男友達の家に行くもんなのか?
もうよくわからん。
だけど――今、春華那は話したい(・・・・)と言った。
ゲームしたいでも遊びたいでもなく、話をしたいと言ったのだ。
これは……俺が思っていたよりも、ずっと深刻な悩みを抱えたのかもしれない。
であるならば、幼馴染として相談に乗る必要があるだろう。
俺なんかに、なにかしてやれることがあるとも思えないが……
「……わかった。準備ができたらウチに来い。待っててやるから」
「! サンキュちーくん! すぐ行くから、ちょっち待ってて!」
俺がOKを出すと、春華那は少しだけ笑顔を取り戻す。
そしてバタバタと樋山家へ入って行った。
……やっぱり、アイツに暗い顔は似合わないよ。