第2話 キミたち仲良しだよね
昼休み。
俺はいつものように、クラスの隅でスマホゲーをやっていた。
ちなみにプレイしているのはバトルロワイアル系のTPSゲーム『フォート行動』。
「そっち行ったよ胡桃沢くん。相手は狙撃銃持ってるみたい」
「ん、任せろ」
相手の動きや向きに注意しつつ、一気に距離を詰める。
こちらが持っているのは突撃銃、弾をバラ撒ける分圧倒的に有利。
そして一瞬の内に相手を撃ち倒す。
「流石は胡桃沢くん。頼りになるなぁ、僕はそんな風にキル取れないよ」
「だから、いつも言ってるだろ。マップを覚えて立ち回りさえ注意すれば、格段にキルは取りやすくなる。いつも正面から撃ち合ってるからいけないんだ」
それが簡単にできたら苦労しないよぉ、と嘆くのは同じクラスの数少ない友人である國光 悠。
俺と同じヲタクで、クラス内での目立たなさといったらこちらに引けをとらない。
性格も温厚――というより気弱な感じで体格もか細く、顔つきも童顔。
運動音痴でどこかオドオドとした印象を受けるため、やはり俺と同じくクラス内カースト最下位組の男子だ。
俺とつるんでは趣味の話ばかりしており、昼休みになると度々こうしてゲームも一緒にやったりしている。
が、彼はあまりTPSやFPSが上手い方ではない。
「それにしても、胡桃沢くんはこの手のゲーム上手だよねぇ。やっぱりやり込んでるの?」
「まあFPS系は色々やってるからな。ただやり込んでるというより……付き合わされてるというべきか……」
「付き合わされてるって、誰に?」
「そりゃあ――」
俺がその名前を出そうとした時――
「ちーくーん! 一緒に『フォート行動』やろー!」
――名前を出そうとした当人が、スマホを片手にクラスの中へ飛び込んできた。
「ってぇ、なんだぁもうやってんじゃん! 誘ってくれないとか酷くない!?」
「お前よりも悠の方が先に誘ってきただけだ」
「え? え? 樋山さん、ゲームとかやるの……?」
悠はかなり驚いた表情をするが、春華那はふふんと得意気に鼻を鳴らした。
「もち、やってるよ! 今時女子がバトロワやるとかフツーじゃん? そんじゃ、アタシも交ーぜて☆」
ドサッと俺の隣の席に座り、意気揚々とゲームを開始する春華那。
人見知りする悠の奴はあわあわとテンパって、もはやゲームどころではなさそうだ。
確かに近年バトルロワイアルを題材にしたTPSやらFPSは数が増えて女性プレイヤーも多くなったが、俺もまさか春華那がハマるとは思っていなかった。
お陰で、最近は学校から帰るなり「今日もやるよ! ちーくんといれば無敵だし!」と言って半ば強制的にゲームに付き合わされている。
いやまあ……楽しいか楽しくないかと聞かれれば、正直楽しいんだが。
そうしてしばらく三人でゲームをやっていると――昼休みが終わるチャイムが校内に響き渡る。
「え~昼休みもう終わり~? こんなんバトロワするのに全然足んないし!」
「そりゃ昼休みはゲームのためにあるワケじゃないしな。ほら、早く自分のクラス戻れ」
「ぶぅ~、それじゃあ放課後は一緒に帰るかんね! 約束! 破ったら絶交だから!」
「そう言って、お前が俺と絶交したことはないけどな」
そういう俺も、実は春華那との約束って破ったことないけど。
なんて言うとコイツはすぐに調子に乗るから、言わんが。
「放課後は職員室に用事があるから、少し待てるか?」
「おっけ☆ 友達と駄弁って時間潰してんね。じゃまたねー、ちーくん!」
そう言って手を振り、嵐のように去って行く幼馴染ギャル。
全く、アイツは幾つになっても変わらないな。
なんて小さくため息を漏らしていると、悠がぽかんとした表情で俺を見てくる。
「キミたち、本当に仲良いよねぇ……。あの樋山さんと幼馴染なんて羨ましいよ。ぼ、僕なんて彼女が近くにいるだけで緊張しちゃって……」
俺と春華那が幼馴染というのは、校内では周知の事実だ。
あれだけ引っ付いてきたら隠しようもないしな。
とはいえ春華那は傍から見ても美人だし、ギャルらしく無駄にコミュ力も高い。
つまりは、春華那は人気者なのだ。特に男子には。
故に一部の野郎共から羨望と憎しみの目を向けられているのは気付いているが、これも今更である。
「そりゃもう、アイツとは幼稚園からの付き合いだからな。いや、下手すればそれより前からか。もうすっかり腐れ縁だ」
「腐れ縁ねぇ……。でもさ、そんなに仲良いのにどうして付き合わないの? 確かに樋山さんって、どんな男子に告白されても絶対にOKしないって有名だけど……」
「…………俺たちはあくまで幼馴染の友達だからな。それに俺みたいなヲタクとアイツみたいなギャルじゃ、生きる世界が違うんだ。悠ならわかるだろ」
『星条高校』七不思議の一つ、〝樋山春華那は何故彼氏を作らないのか?〟。
――春華那は本当に、絶対に彼氏を作ろうとしない。
学年を問わず男子人気の高い彼女に、実に様々な男がアタックした。
だがその全てに対し「無☆理」と答え、男子たちは見事爆散。
中には幼馴染である俺に関係を取り持ってくれるよう頼んでくる奴もいた。
……正直俺も気になって、前に一度だけ聞いてみたのだが――
「教えたげない」
ただそう答えられ、それ以上は絶対に話そうとしなかった。
気にはなるが、他人の心の中に土足で踏み込むような真似は俺だってしたくない。
きっと春華那には春華那なりの理由とか事情があるんだろう。
陰キャでヲタクで……幼馴染に過ぎない俺に、アイツの色恋沙汰に口を出す権利などない。
そう思っていた。もうずっと。
だけど――そんな俺たちの関係は、ひょんなことから変わることになる。