インスタントな代わり者
凡庸でありながら特別に憧れた
哀れな男の子がいた。
彼は知った。
世界には特別が溢れていること。
そこいらじゅうに天才が闊歩しているし、そういうやつに限って運にも恵まれていること。
世界なんて大仰な単位でなくとも、彼のまわりも、あなたのまわりにも、勝ち組たちがいることを。
彼が中学生のとき、友達に絵の天才がいたんだ。中学生にしては上手いみたいなレベルではなくて、化け物じみていた。圧倒的なまでの才能をもっていたらしい。
実際に中学生で世界レベルのコンクールで入賞していたし、すでに収入を得ていたんだから紛れもない天才だ。
それでいて、勉強も運動も出来ていたのだからまるで漫画の中から出てきたような人間に見えて仕方がない。
彼は化け物のような特別に憧れてしまった。
自由帳を常に常備していた彼女のあとを追うように彼も大きなメモ帳を常備した。
自分を信じて曲げない彼女の真似をするように、彼は頑固になっていった。
なんだか深そうなことを言ってみたり考えてみたり、独特で洒落たものを好んでみたり、奇行に走ったりもしていた。
願望の成れの果て、後追いゆえに結び目なんてなかった。結果はからっぽで変わり者な人間の出来上がり。
ただ真似事、変わり者ですらないんだよ。
哀れなあの子をどう評すればいいのかな。
彼に習ってちょっと洒落た言い方をするなら
そうだな…「インスタントな代わり物。」
本物の天才は環境まで変えてしまう。
あなたも気をつけてくださいね。
代わり者にはならない事を願っています。