終 降る雪が真っ白だから
あれから二年の歳月が過ぎた。
正史は第一志望の大学に合格し、あずみと過ごした街を出て、遠い大地にやってきた。キャンパスライフは出だし好調、中盤からバイトと学業の両立に苦労し始め、最近は中間テストの対策で忙殺されていた。
それもようやく一段落して、今日。
「クリスマスイブだってのに、なにやってんだか……」
四限の講義を終えて外に出れば、もう真っ暗になった道。街灯が鋭い光になって、クリぼっちを咎めているようだった。
アスファルトには薄らと雪が積もっている。今晩は雪になるらしい。
「ホワイトクリスマス、か」
自嘲気味に呟いて、ため息をついた。
あずみとの関係は続いている。すこぶる良好だ。向こうは美人になったことで男に絡まれることが増えたらしいが、正史は相も変わらず堅物で女子ウケがよろしくない。
浮気など疑っていないが、それと心配することとは別ベクトルだ。こんなクリスマスの日にすら会えないのでは、焦りみたいなものも当然出てくる。
今晩も電話する約束はあるけども。あるけども……。
やはり年齢差が効いている。お互いにちっとも人生のサイクルが噛み合わないのだ。
結局、あずみは卒業したらどこに就職するのだろうか。こっちに来たいとは言っていたが、その後に正史が就職する場所もわからないし。転勤があるかもしれないし。
「っていうかそこまで考えるのは早いか……」
マフラーに顔を埋めて、恥ずかしい考えを打ち消す。
トレンチコートのポケットに手を入れて、ゆっくりと帰り道を歩き出した。息を吐く、白い。
正月は実家に帰るつもりなので、そこでもあずみとは会えない。高校時代は一人暮らしで、他県の学校に通っていたから。ぜんぜん、場所が違う。
バイトをしてお金を貯めて、春休みに会いに行ければとは思うが、半年先の話だ。
そんなことを考えていたら、空から雪が降ってきた。
真っ白で柔らかい、聖夜を祝福するような結晶たち。
「……会いてー」
「会いに来たよ」
ピタリと足が止まった。
いやいや、だって、その展開はおかしい。どう考えてもおかしい。だってあずみは四年生で、卒論とかで忙しい季節のはずで、だからここにいるはずが。
「正史くん、メリークリスマス」
「いやなんで!? なんでいるんですか!? バグ? ついに地球単位でバグったんですかそれともどこでもドアの開発に成功しちゃったんですか??」
「久しぶりだからツッコミが元気だね」
「嘘、でしょ……なんで?」
こっちに来るには飛行機か、最低でも新幹線が必要だ。だから、そんな軽いノリで来るような場所ではないのだ。
「んーとね。今年、私の住んでる街に初雪がすっごい早く降ったって知ってる?」
「言ってましたね。電話ですっごい言ってました」
「そしたら、今日、そのことを思い出してね。あー、雪降ったなー。白い雪だったなーって」
「はい。で?」
やばい、まったく話の流れがわからない。付き合って二年なのにこのざまだし、これからもこんな調子だと思うと不安でしかない。
「そう。あのとき降った雪が白かったから、会いたくなっちゃったんだよ」
「雪はいつも白いですけど」
「いつも会いたいもん!」
強烈なボディブローに、正史はノックアウトされた。
「……そんな言葉遊び使った高等テクで喜ばせないでください……いやでも冷静に考えてなんの意味もないセリフでしたねそれ!?」
「ロマンチックぶりたかった」
「ならしゃーないです」
やれやれと笑って、じゃあ、と正史。
「寒いから、手でも繋ぎますか」
「寒いから?」
「繋ぎたいから、寒いのを言い訳にするんです」
クリスマスを大切な人と過ごしたい言い訳にするように。格好悪いながら理由を求めて、それで手を取る。握る。寄せて、笑い合う。
たったそれだけのことで、すべてがどうでもよくなって、癒やされていく。不思議なものだ。さっきまで空っぽだった心が、今は満たされている。
そしてそれは、隣にあずみがいるから。他の誰でもいない、彼女がいるからだと、正史は知っている。
だから、
大変なことは多いけれど。
死ぬまでくらいなら、頑張れそうだと思った。
ここまでありがとうございました
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