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6話 聞きたくなかった


「よし、これであがり」


 最後のカードを場に叩きつける。 僕の勝ちだ――



「残念っ カミュ様UN○って言ってませ~ん」

「…………しまった!」

「ハハハハハっ! 無様だな、オラ、2枚引けや」


 やってしまった、意外と忘れるものなんだよな……。 僕のミスに大量の手札を持ったガブリエルさんは楽しそうに――




「――って何遊んでんだ私っ!!?」


 ガブリエルさんは突然我に返ったように両手でテーブルを叩く。 ああ……カードが散らばってしまった。


「どうしたんですか、今の今まで楽しそうに遊んでたでしょ」

「そうですよ。 ほら、次はガブちゃんですよ? はい、ドロー4」

「何気に鬼畜だよなぁお前!!」

「スキップされて次は僕ですね」

 

「次は僕ですね、じゃねぇんだよ!! んなことやってる場合か!!」


 ガブリエルさんは怒ってさっさとカードを片付けてしまう。 負けが濃厚だからって大人げない。 信じられないくらい弱かったしな。


「あーあ……仕方ない。 次はババ抜きでもやりますか」

「ですね~」

「脳だけ異世界行ってんのか!!?」


 更にバンバンと手のひらで何度も高級そうなテーブルを叩く。


「やたらと熱くなってますけど、どうしたんですか?」

「ガブちゃん、どこかイタイイタイしちゃったんですか?」

「ガキ扱いするんじゃねぇ!! 話を聞けってんだよ!!」


 あれ、京香さんもしかして煽ってんのかな? と思ったが、心配そうな表情を見るに多分本気で言っている。


「はいはい、アレでしょ? どうせ。 異世界云々のやつ」

「めんどくさそうにするな! もっと真面目に取り合え!!」


 そんなこと言ったって本当に面倒くさくなってきた。 異世界行くのがじゃなくて、ガブリエルさんの態度が。

 しかし、これから同居している身としてお互いを尊重していきたい。 僕も真面目に考えてみよう。


「一応異世界に行きたくなるような要素を考えてみましょうか」

「そ、そうですね……」


 苦笑いで京香さんも頷く。


「あ、そうだ。 なんか限定特典付けるとかどうでしょう? 今ならトートバッグ貰える、みたいな」

「逆に欲しいか? 異世界トートバッグ」

「いや、全然」


 全然欲しくない。 っていうかトートバッグってどういう物なのかすら正確には知らない。

 でも、限定特典付きというのはアリではないだろうか。


「あたしも限定って付けられるとちょっと欲しくなっちゃいますねぇ」

「この路線で考えていきましょうか」

「いや、チート付けてやってるだろうが。 それで充分だろ?」

「今の所くだらないことにしか使ってないし、言うほど要ります? コレ」

「それはテメーのせいだろうが」


 どんな力も使う者次第だな。 ……と心の中で綺麗にまとめて悦に入っていると、京香さんの表情が陰っていることに気づく。


「あたしは友達が欲しいかなぁ……」

「重てぇよ、笑えないって」


 なんと。 京香さんはボッチだったのか……

 僕から見ればちょっと変わっているくらいで人格に問題は無いように思うのだが、人間関係というものはそう単純では――




「ショタの友達が欲しいです」

「「聞きたくなかった」」


 聞きたくなかった。 めずらしくガブリエルさんと意見が完全にシンクロした。


「……まあ、うん。 でもあれですよ、異世界といったら美少女奴隷ですからね。 僕もそういうのに憧れはあります」

「えぇ……それは気持ち悪いです」

「あなたに言われたくない」


 なんだこの人、普通に変人じゃないか。 僕の渾身のフォローまで台無しにしやがる。 美少女欲しいのは本音だけど。


「あたしはほら、一人っ子だったので弟が欲しい、みたいな……」

「『ショタ』とか言ってる時点で軌道修正は不可能だからな?」

「ガブリエルさん、どっちがヤバいと思います? ちなみに僕は鼠径部が好きです。 陸上部とかの引き締まったやつが」

「どっちもどっちだよ」


 ガブリエルさんが頭を抱える。 いや、ショタコンよりは僕の趣味はだいぶ健全だろう。


「性癖がショボくても人格がそれを補って余りあるんだよお前は」

「……? これは、褒められてる……!?」

「そういうとこだぞ」


 ガブリエルさんは意外と遠回しな物言いをする。 僕としてはもっと具体的に言ってほしいのに。


「きしょいから同じ世界で生きたくない」

「僕が悪かったです。 オブラートください」


 そんなに嫌われていたなんて、ショックだ……


「ガブちゃん! そんなこと言ったらダメでしょ!」

「いや、だってきしょいもんアイツ」

「しまいには泣きますよ?」

「表情が全然効いてなさそうじゃんお前」


 僕の表情筋の硬さは自他共に認める超硬度故、泣くまで気づいてもらえないことがしばしばある。 しかしそれでも、心はちゃんと傷ついているんだ。


「分かりますよ、あんなこと言われて傷つきましたよね」

「京香さん……分かってくれるんですね……」


 京香さんが優しく背中をさすってくれる。

 ……あ、やばい、本当に泣きそう。 半分冗談だったのに。


「僕、きしょくないですよね?」

「ちょっときしょいですけど、面白い方ですよ?」

「異世界行きたい」


 なんかもう埋まりたい。 貝になりたい。 ムール貝とかがいいな。


「お前トドメ刺してんぞ」

「えっ? どうしてでしょう……」

「天然でやってるのがコエーよ……ったく」


 そう言いながらガブリエルさんがこちらに近づいてくる。

 意外と優しい所のある彼女のことだ、僕のフォローをしてくれるに違いない。


「ガブリエルさん――」






「――お望みどおり送ってやるよォォォォォォォォッ!!!!」

「ですよねえぇぇぇぇーーーーーッ!!!」


 再びのブラックホール。 僕を異世界に送るため、最新型掃除機も真っ青な吸引力で僕を引き込む。

 よくわかんないけどなんでこんな痛いのこれ? 今まで異世界行った人はみんなこれに耐えてきたんだとしたらやっぱり僕には向いていない。




「……ふぅ」


 勝敗? もちろん僕の勝ちだ。 チーターだからな!


「ちくしょうめ……! なんでこんなきしょい奴に……」

「本当にやめてください。 謝りますから」


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