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5話 どっちから異世界送りにされたい?


「やってくれたなテメェ……」

「まことにもうしわけない」


 怒髪天使に叩きつける日本文化。 頭を床に全霊の力をもって擦り付ける。


「すごい……あたし、土下座を生で見たの初めてです……それも神様の」

「そこだよ、コイツ神なんかじゃねぇぞ」

「えっ? 神様じゃないんですか!?」

「どう見たってそうだろうが、こんな神いるか!」


 流石に上司の名を騙るのは良くなかったか。 ガブリエルさんは今までに無い形相でこちらを睨んでいる。


「えっ? 僕はカミュって名乗っただけですけど」

「無理があるわ」


「あっ……カミュ様だったんですね! あたし勘違いして……」

「無理なかったわ」

「どうも、カミュです、よろしく」


 今日からカミュでやっていこう。 結構カッコいいしカミュ。


「あと何で発光してんだお前?」

「おっと、消し忘れてた」


 そういえば今の僕は全身がぼんやり発光していたんだった。 神々しさMAX。


「京香だったか? お前も指摘しろよ、何だあの変態」

「神様だと思ってたのであんまり気にしてませんでした……」

「神は常時発光してねぇよ」


「まあ、モグモグ……いいじゃないですか……光ってるモグ、神がいたって……美味しいコレ」

「食ってんじゃねぇ」


 本当に美味しいので仕方ない。


「如月さん、ありがとうございます、美味しいです」

「口に合ったみたいでよかったです。 えっと……天使?さんもいかがですか」

「……チッ、どうせその食材は私のだろ? 食わなきゃただ損しただけになるし、食ってやるよ」


 非常に言い方が素直ではないが、おそらくガブリエルさんもお腹が空いているのだろう。


「はん、この程度なら私にもモグモグ……作れるなモグ……」

「モグモグマジですか? ガブリエルさん、意外とモグ活能力あるんですね……」

「お二人とも、口にものが入ったまま喋るのは行儀が悪いですよ?」


 少しだけ眉を吊り上げて人差し指立てる京香さんには、何か逆らいがたいものを感じる。


「はい」

「……うい」


 ガブリエルさんもそれは同じだったようで、これはあっさり聞き入れた。 僕の意見ももう少しあっさり聞き入れてくれればいいのに。


「えっと、ガブリエルさん、っていうんですね」

「だったらなんだよ」


「ガブちゃんって呼んでいいですか?」

「お前らなんでそう呼びたいの? 地球のトレンドなの?」







「さてお前ら、どっちから異世界送りにされたい?」

「まだ諦めてなかったんですね。 すごい執念だ」

「勝手に食材漁られたせいで追い出したい気持ちが加速してんだよ」


 腕を組みながらイライラを隠しきれない様子で体を揺らす。


「そんなことよりいいですか?」

「お前怖いもの無いの?」


 無いわけがない。 それに勝る好奇心をもってるだけだ、多分。


「ちょっと見せてもらっただけでも料理関係の充実っぷりすごいですよね。

趣味だったりするんですか?」

「…………」


 ガブリエルさんはもう何度聞いたかわからない舌打ちをした。 しかしその表情は怒りというよりは気まずさを隠しているようにも見える。


「……別に」

「あら、そうなんですか? あれだけの物は相当凝っている人しか揃えないと思ったんですけど……」

「むっ……」


 その頬に流れた冷や汗を僕は見逃さない。


「い、いいだろ別に、ただ家で美味いものが食いたいだけで料理が趣味とかそういうアレじゃないし別に――」

「裁縫とか小動物とか好きですもんね」

「やめろやめろやめろ!! 何で知ってやがんだテメェ!!!」

「あ、プクリンちゃんに餌あげときましたよ」

「ああああああああああああああああああああっ!!!!!」


 顔を真っ赤にしながら僕の胸倉を掴むガブリエルさん。 反応に対して胸倉の掴み方と腕力がガチ過ぎる。 苦しい、怖い。


「もう知らねぇ!! 帰れバーカ! バーカバーカ!!」


「しまった、そんなに知られたくなかったとは……いじめ過ぎたか」

「カミュ様! 女の子をいじめたらダメですよっ!」

「すいません」


 そういえば僕はカミュだった。 しっくりこないなやっぱり。


「女の子じゃねーし! お前らよりはるかに年上だし!! なんなら本気出したら私が勝つし!!」

「色々いっぱいいっぱいだったんだなぁ……」


 ついに部屋の隅で丸くなってしまった。


「ガブリエルさん、ごめんなさい。 機嫌直してください」

「…………」

「ガブリエルさーん?」


 完全に無視を決め込んでいる。 目も合わせてくれない。

 さて、横にいる京香さんの視線も痛いし、何よりガブリエルさんをこのままにはしておけない。 どうにか彼女を立ち直らせる方法を考えなければ。


「……よし、じゃあ京香さん。 そこの棚の奥の茶葉で紅茶を淹れてください」

「は、はい、分かりました。 えっと、これですね。 でもこれって……」

「大丈夫です。 僕が使ったのとは別のやつですから」


 それを聞いた京香さんはホッとしたように頷くと、手早く紅茶の準備を始めた。

僕はそれを見届け、棚の一番上に手を伸ばす。


「よし、あった。 ガブリエルさーん、マドレーヌありますよ、食べませんか?」

「……っ!」


 露骨に反応を示した。 体がビクッと動いてまるで小動物だ。


「ほらほら、好きでしょこれ。 機嫌直してください」

「……プイッ」


 ……やはり僕だけではダメか。 だが、まだだ。 まだ、京香さんがいる。

一人ではダメでも、二人なら――


「……っ!!」

「おっ……香ってきましたね。 ガブリエルさん、あなたの好きなダージリンです」


「さ、お菓子でも食べて落ち着きましょう? ガブちゃんも食べますよね?」


 タイミングよく、淹れたての紅茶を持った京香さんが現れる。 僕達の勝利だ。


「…………食べう」

「食べう(笑)」






「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!! 痛い痛い痛いっ!! 折れる!!

すいません! 僕が悪かったです!!」

「読心でご機嫌取りやがってよおおおォォォォォォォッ!!!」



「つーか! 全部! 私のだろうがあああああァァァァァァッ!!!!」

「そのとおりでございますッ!!! 痛い! 取れちゃう!!!」


 その後、僕にひとしきりアームロックをかけたことでガブリエルさんは落ち着いた。

 ちなみにマドレーヌは僕が床に転がっているうちに全部食べられたらしい。


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