1話 異世界にご興味ありませんか?
「う、うーん……はっ!?」
僕は何もない空間で目を覚ました。
文字通り何もない真っ暗闇だが、自分の姿だけが何故かくっきりと見える。
「どこだここ……僕何してたんだっけ……?」
一瞬夢かとも思ったが、意識がはっきりし過ぎている。
『パアアアアアアアアアッ!』
「うわっ眩しっ!!」
突如僕の目の前に光の塊が現れた。 ……眩しい。
光は徐々に形を変えて人型に近づいていく。
「ようこそ、転生の間へ……」
転生の間……? とオウム返しする僕に光は「フフッ」と笑うだけだ。
思い切って僕は言った。
「……あの、一ついいですか?」
「はい、どうぞ」
「眩しいんで光消してもらっていいですか?」
「……あ、はい」
落ち込んだようにシュン……と光が消える。 よかった、あの光すごい目に悪い感じだったんだよ。
「コホン……では、早速本題に入らせていただきます」
そして光のあった場所から、白い衣を纏った金髪碧眼の美少女が現れる。
見た目は12~14歳くらいだろうか、まるでどこかの漫画かアニメで見た天使のような容姿だ。
しかし、なぜだか妙にバツの悪そうな表情をしている。
「その前にもう一ついいですか?」
「えっ? ああ、はい……どうぞ?」
少女が大きな目をぱちくりする。
「さっきの光なんですけど、アレはちょっと目に痛すぎると思うんですよ」
「まだ掘り下げますそこ?」
「光量抑えるとかブルーライトカットしてみるとか……」
「照明博士かよコイツ」
口調が鋭くなった。 もしかしてキャラ作ってるな?この娘。
「なんかスイマセン、出鼻くじいた感じになって……」
「……いえいえ、検討しておきましょう」
と、言ってはいるが目が笑っていない。
「フフフ……そういえばこんな空間でお茶も出さずにお話というのは礼を失するというもの。 少々お待ちくださいな。」
キャラ修正を図っているのか……? もう遅いというか極端過ぎて逆効果では?
『パアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
「まっぶし!!」
さっきより強い光。 失明しそうだ、冗談じゃない。
「さ、紅茶をどうぞ?」
「いや、光量エグい――ってどこです? ここ」
今の今まで立っていた真っ黒な空間はどこへやら、気づけば僕は高級そうな家具が並ぶ綺麗な部屋にいた。
こういうのは英国風? というのだろうか、30畳以上はありそうなリビングダイニングだ。
「私の部屋です。 せっかくなのでご招待いたしました。 さあ、お座りください」
これまた高級そうな3人掛けソファに座るよう促す。
「おー……良いご趣味をお持ちで……」
「ウフフフ、そうでしょう?」
感嘆する僕に少女は満足そうだ。 そして切り替えるように息を吐くと、こう続けた。
「単刀直入に聞きますが、異世界にご興味ありませんか?」
「……あーソレ系ですか」
出された紅茶をすすりつつ、色々と合点がいった。
あの謎空間にも、この部屋にも、『招待』したと言うこの少女にも。
……しかしあんまり美味しくないなこの紅茶。
「こういった事例をご存知のようで」
「知ってます知ってます。 ってことはあれですか、あなたは神様的な?」
「その部下です。 『天使』と言えば貴方にもイメージしやすいでしょうか」
天使――僕が見た目に抱いた印象は間違いではなかったらしい。
「ほうほう、つまり僕は神様の手違いかなにかで死んでその埋め合わせで異世界に……みたいな?」
「違いますね」
「なんと」
「全然、違いますね」
「じゃあ何故?」
天使さんは迷ったような表情を浮かべるがすぐにこちらに向き直った。
「貴方の住む世界……いえ、星と言い換えたほうがいいでしょう。 少々人が増えすぎだと思いませんか?」
「僕の住んでる国では少子化問題とかありますけど……まあ世界的に見れば数十年で随分増えたのかな?」
「そこで、ですよ! 神々の定例会議で素晴らしい意見が出たのです!」
嫌な予感しかしない。 っていうか神様に定例会議とかあるんだ。
「増えたものは減らせば良い。 そして減らしたぶんを他の運営が上手くいっていない世界に送ってしまおう。 ……とね」
「なるほど、それは素敵だ」
「でしょう? そこで選ばれたのが貴方!」
ビシッ! っと僕を指差す。
「おお、選ばれし者って感じで格好いいですね」
「ええ、貴方はゴミのような運命力で今後世界に何一つとして利益をもたらさないことが確定していますからね! これ以上ない適任でしょう!」
「褒めてる勢いで言ってますけど人は悪口には敏感なんですよ?」
これがこの人の本性なんだろうなぁと思いつつ、否定はまったくできない。
「ちなみに、現在違和感を抱かれない程度の方法と頻度で貴方の世界から人が消えていっています。 累計で大体100人くらい」
「すっごい怖い」
「ですが、貴方が悲観することはありません。 異世界で貴方が路頭に迷うことなどありませんからね」
……来た。
「貴方には神にも匹敵する素晴らしい力を授けましょう」
「ほう、いわゆる『チート』ってやつですか」
「その認識でよろしいかと」
こういった話に付き物のギフト――みんな憧れのアレである。
「無双できますか?」
「もちろん、無双し放題です! 転移先を生かすも殺すも貴方次第!
世界は貴方を求めています、現世と違って!!」
ははーん、さては性格が悪いなこの天使さん。
「大変魅力的だと思いました。 じゃあ、早速チート欲しいなって」
「フフッ……お任せください」
天使とは思えない人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、手を振り上げる。
『パアアアアアアアアアッ!!!』
今度は眩しくない。 事前に目を瞑っていたからな!
「おお……なんか力が湧いてくる、気がする……」
「まだやってないですけど」
「何で?(半ギレ)」
「なんか面白そうだったので……睨まないでください分かりましたよ、すぐやります。 ハイどうぞ」
今度は気のせいではなく、体の奥底から力が湧いてくる。 光らせなくても出来るんなら最初からやってほしかった。
「……これはすごい。 今なら何でも出来そうな気がしますよ」
「文字通り『何でも』出来ますからね! その力を使って世界も思うがまま!」
「いいですねぇ」
「でしょうでしょう!」と無邪気な少女のような声を上げるが、表情は邪気に満ちている。
「では行きましょう! レッツ異世界――」
「いやです」
「……は?」
「異世界なんて絶対に行きません」
僕は飲み込んでいた言葉を、静かに吐き出した。
「そんなわけでここ住んでいいですか?」




