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Neuroid-ネウロイド-皇国逆襲戦記  作者: 有邪気
第一章「目覚めたミライ」
6/9

第二生誕

コールドベットをメインの電源へと繋ぎ、本格的な解凍作業を始めて数時間が経過していた。

“組織”の幹部である影太と菜々奈、そしてその長たる月兎は解凍作業において技術や知識を持地合わせていない為、一度現場へ戻って制圧した日本グリスの情報と組織の整理、日本に点在する各支部へ通達や引き継ぎ作業の一部を済ませていた。

解凍作業は飛鳥と直実、更に数名のグリス研究員によって進められていた。

日も暮れて月兎ら“組織”の一団の引き継ぎなどの一部に一区切りがついた頃、月兎の首元についている端末が飛鳥からの連絡を受信し、月兎の脳内に直接声が届いた。

『月兎、一連の解凍作業が終了した。これからカプセルベットを開封するから先程の部屋まで来て立ち会ってくれ。』

「了解しました。影太と菜々奈もそっちに連れて行きます。」

そ言って通話を終了し、影太と菜々奈に声をかけると遠くから月兎を呼ぶ太い男の声が聞こえてきた。

「旦那ぁ〜〜!月兎の旦那ぁ!ちょっと待ってくれ!」

そう言って雑な短髪にヒゲ伸ばし放題の少し身長低めの男が走って来た。

「元治さん?」

彼の名は武谷元治(タケタニゲンジ)で、“組織”最年長のメカニックである。

どうやらコールドスリープの解凍作業と好奇心に駆られて聞いて駆けつけたようだ。

「俺も連れてってくれ!冷眠者が目覚めるのをこの目で見てみたいんだ。」

「見るのは良いが、元治さんぐらい長く生きていたら何回も見た事あるんじゃないか?」

「とんでもねぇ!」

元治は大きく首を横に振って否定した。

「俺の専門は陸戦兵器開発で、コールドスリープは希少特殊医学中でも凄くマイナーな分野だ。知り合いの医者十人に聞いても、大学時代の研修で空のコールドベットの見本を見た事が有るだけだって全員が答えるぜ?」

コールドスリープは現代においても希少な分野であると飛鳥から聞いていた月兎だが、元治の食いつき方を見て改めて自分が立ち会うものが如何に珍しい体験で有るかを実感した。

医学の分野においては先延ばしの行為であると同時に、非常に金がかかる行為でもあるのだ。

入院費にして年間数千万から数億円の費用が保険適用外でかかる。

名だたる富豪が不治の病に侵された自分の子を治療すべく未来の医学に託す為にするような稀な事例である。

そもそも現代医学において不治の病というものそのものがごく稀で、宇宙航行においても殆ど用いられる事が少なくなり、殆ど廃れた技術と言われても不思議ではない。

だがその技術にロマンを感じる科学者と言うのは少なく無く、畑違いであっても科学者の元治が食いつくのも無理からぬ話であろう。

月兎はなんらためらう事なく元治の同伴を許可した。

「ただ元治さん、あまり見たくもないものを見る羽目になるかも知れないぞ?其処だけは覚悟してくれ」

「ん?…あぁ分かった。恩にきるぜ、旦那!」

などと少し含みを持たせつつ、元治を連れて菜々奈と影太と合流して解凍作業を行っていた処置室に向かった。




月兎達が合流して、処置室に入ると七つのカプセルベットが二列で並んでいた。

それぞれのベットは冷眠開始時期の相違からか形やデザインに少しずつの違いがあった。

ただ一つを除いて。

その一つはデザインというかそもそも同じ目的で作られたかどうか怪しいぐらいの違いがあり、質素でカプセルと言うより金属の筒で設計思想そのものの違いを感じさせられ、そのコールドベットの形がとても原始的なものである事を語っていた。

「興味深いな…。」

顎に蓄えられたヒゲを弄りながら元治がそれらのコールドベットを眺めていると、入り口の脇でデスクタイプの端末を操作していた飛鳥が月兎達に声を掛けた。

「来たか。では早速……そのおっさんは誰だ?」

飛鳥は元治をみて訝しげに尋ねた。

「武谷元治だ!“組織”ではメカニックや兵器開発なんかを担当している。コールドスリープの解凍という珍しい場面を見たくて野次馬に来たぜ。」

などと言いながら元治は飛鳥に手を差し出して握手した。

飛鳥は元治の名を聞いて思い当たる節が有ったのか驚いていた。

「あんた日本皇国軍の兵器工廠と言われた武谷元治じゃないか?何故こんなところに!?」

「月兎の旦那に誘われてな。皇国軍の重機械工学研究室も謹慎中なだけで辞めてないぜ?」

日本グリス(われわれ)の勧誘は断ったくせに……」

「?」

飛鳥は最後にボソッと呟いたが元治には聞こえなかったようだ。

気を取り直し、飛鳥はこの場にいる全員に説明を始めた。

「さて諸君。既にコールドスリープの解凍作業は終了しカプセルベットの中では生命維持のみがされているような状態だが、君達の精神衛生の為にも一つ言っておかなければならない事がある。」

「精神衛生上?」

「あぁ〜…、月兎やそこの影太君(サイコパス)は大丈夫だろうが、そこの二人は慣れていないだろう?人の死体を見るのは。」

影太はニヤつきながら「失礼な奴め!」などと心にも無い事を言っていたが指定された二人である菜々奈や元治は目を剥いていた。

「どういう事ですか?コールドスリープしてたんですよね?……まさか解凍する時に失敗しちゃったですか!?」

菜々奈がまくし立てると思い至るところがあったのか、考え込んでいた元治が片手で菜々奈を制止した。

「ひょっとして冷眠限界って奴か?」

「冷眠限界?」

「元治さん何か知ってるんですか?」

「いや、知らん。」

隣で制止を受けた菜々奈はずっこけた。

「だが聞いた事はある。コールドスリープは無限に人間を冷凍保存は出来ず、ある程度保存期間に限界が有る見たいな事を誰か言ってた気がするなぁ。」

知ってるじゃ無いかと言いたげな白い目で菜々奈は元治を見つめた。

実際知ってはいたから冷眠限界という言葉が出たのだろうが元治としては其れを識っていると答える事は出来なかったのだろう。

言葉ではそういうものの研究者として専門外であるから、知識としては知っていても仕組みを知らないが故に知らない。

元治の研究者として、学者としての矜持が元治の知らんという言葉にあるのだろう。

飛鳥も元治の言葉を受け感心しつつ冷眠限界の意味も概ね肯定し補足した。

「彼の言った通り、冷眠限界とはコールドスリープが有効で有る期間の限界を示す言葉だ。人体に関わらず、タンパク質で構成された生命体の殆どは活動を停止するとエネルギー生産と恒常性も止まり微生物による分解に逆らえず腐ってゆく。それを回避する術がコールドスリープ、人体の冷凍保存だ。つまりコールドスリープしている人間は前提として皆死んでいるという事を理解してくれ。」

科学者以外の面子はよく理解出来ていなかったようだが、死んだ人間を腐らせないように冷凍保存をするという事は理解したようだ。

「まるで鶏肉の冷凍保存みたいだな。」

「その通りだ影太、コールドスリープとは突き詰めれば食肉の冷凍保存となんら変わりない。」

ケラケラと笑いながら影太は茶々を入れたが意外にも飛鳥はこれを肯定。

意外な反応に影太は少しつまらなさそうにしていた。

「まあ当然、食肉のように単純に冷凍保存しても細胞膜が壊れてしまい解凍後の蘇生が困難になる為、凍結する迄に複雑な行程が必要なのは言うまでもないがな…。そして凍結に成功しても保存期間には限界が有る。見た事ないか?冷凍庫の奥底で長い間忘れ去られていた鶏肉が焼いてもいないのに灰色に染まって劣化していたのを…。」

「……うちのおとといの冷凍庫にあったです。」

菜々奈はうつむき自宅の冷凍庫内の一角に古くから存在し続けていた灰色の鶏肉を思い出し絶望感漂う表情で悲嘆にくれていた。

「捨てるのも勿体無いし、食べるとパサパサで不味くなってるし…。うちは一体どうすればぁーーー!?」

「たたいて挽肉にでも混ぜちまえよ。」

菜々奈は泣き出してしまい、皆も知りたくもない女子の一人暮らしの冷凍庫事情を聞いてしまい居た堪れない気持ちになってしまった。

このままでは収集がつかなくなるので、飛鳥は咳払いし逸れてしまった話の流れを強引に戻した。

「___とまあこの様に、生活の中でも体感出来るものとは原理が少し違うが、人体でも似た様に冷凍保存をしていても劣化現象が生じるのだ。そして、解凍しても蘇生できなくなる。」

「それが冷眠限界って奴ですか?」

月兎の質問に飛鳥は頷いて肯定した。

「最初期のコールドスリープ技術で大体数十年。今の技術でも五百年程がコールドスリープを続ける限界年数だ。」

「彼らは何年間眠らされているんですか?」

飛鳥はデスク型の端末を弄り、資料を見ながら指差しで順に答えていった。

「手前から四〇年、一二五年、三四八年、四七〇年、六八〇年、九八五年、最後の型の違うコールドベットは飛んで二四六九年前だな……。」

「つまり半分近くが死んでる計算ですか…。」

皮肉な話である。

予知が現実化する事を恐れ、殺そうとすればその瞬間に現実化するかも知れないと殺す事すら恐れて一時的に眠らせて問題を先送りにした。

にも関わらず、問題が問題となる前に凍りつき永遠の眠りについてしまったのだ。

その場は静まりかえり、全員がこれから半分以上が棺桶とかした解凍済みの氷のベットを開ける事を躊躇して足踏みしてしまっていた。

「埒があかないな…。」

唐突に静寂を月兎が割進め力強い足取りで最も新しいコールドベットに近づいていった。

「ま、待て待て月兎落ち着け!」

飛鳥が慌てて月兎を呼び止めた。

月兎はコールドベットの蓋を掴みつつ首だけ飛鳥の方に向けて尋ねた。

「解凍は終わって、生命維持装置も動作している。後は開けるだけ。違いますか?」

「違わないが、俺は兎も角…皆の心の準備というか覚悟という物が決まってないだろ?」

菜々奈と一部の研究員は全力で首を縦に振っていた。

影太は手を叩きながら「あーけーろ!あーけーろ!」と何時もの調子で小学生みたいに全力で煽っていた。

「それは待っていて変わるものですか?」

「う……ぅん。」

覚悟しても中の死体が無くなったり生き返ったりはしない。

既に知ってしまっているのだ。

待っていても状況は変わらない。

ならばもう開けるしかないじゃないかという月兎の思いは理屈では正しかった。

月兎の強靭な精神性は人間のそういった弱さを否定するものであり、常人の理解を得るのは難しかった。

だからこそ敵が多い月兎で有るが、その強さに惹かれた者達が月兎を総帥と仰ぎ“組織”のカリスマとして君臨出来たという面はある。

飛鳥は頭を抱え、言葉の無意味と月兎のある意味での正しさを認めて溜息をついて口を開いた。

「脇の赤いボタンを押せ。安全に開放する事が出来る。」

月兎は頷き、指定された赤いボタンを押してコールドベットの蓋を開けた。

「んヒィ〜!」

菜々奈は近くにいた星岡直実に駆け寄りしがみつきながら変な声で悲鳴をあげた。

空気が一気に抜けるようなプシュッという音と共に蓋がゆっくりと開いていき白い湯気と共に中から人影が見えてきた。

中には謎の液体に半分使った女が裸で入っていた。

女は首や腕、足などに無数の管が繋がっており、上下する胸部が彼女の生存を物語っていた。

やがて彼女はゆっくりと目を開けて弱々しくも言葉を発した。

「う…ん。ここは…一体。」

「バイタルと脳波をチェックしろ!」

飛鳥が支持すると慌てて、研究員達が動き各種センサーで彼女の生命活動の状況を確認した。

「血圧、上が一二八の下七一、心拍数七八。正常の範囲内です。」

「体温、三十六度四分。こっちも正常です。」

「脳波にも異常なし。各臓器も弱ってはいますが正常です。」

「大丈夫か?名前は言えるかい?」

「え?ぁあ〜直道明里(スグミチアカリ)です。」

「反応も問題無いようです。」

「良し、では通常の病室に移せ!」

研究員達は医師に連絡を入れて担架で彼女を運び出した。

「はぁ〜〜。」

菜々奈はホッとしたのか、大きな溜息をついた。

それを見た飛鳥が親切心から忠告した。

「これから開けるもの達で生きているのは恐らく三人くらいだ。もし、死人を見るのが嫌なら別室で待機してても構わないぞ?」

「俺も別に構わないぞ。“組織”の人間が見届け必要は有るが幹部の全員がここにいるわけでも無いしな。」

それを聞いた菜々奈は目をぎゅっと瞑って思案し、やがて直実にしがみついていた手を離してしっかりと一人で立って頰を叩いて気合を入れた。

「問題ありませんです!うちも“組織”の一員ですから!」

それを聞いた月兎は少し頰を緩めて頷き、次のベットを開けた。

今度のベットは男性が入っており、彼も問題なく目覚め別の病室へ移った。

予定では後二人迄は生きている計算では有ったがここでトラブルが発生した。

三人目の三四八年前の冷眠者が眠る蓋を開けた時だった。

月兎は顔をしかめ、飛鳥や他の者達も驚愕し悲鳴をあげた。

皆、死人がいる事は覚悟していた。

しかし殺された者がいる事は誰も予想していなかった。

中に入っていたのは顔立ちの整った女性で、彼女の胸には大きなナイフが殺意を持って心臓の位置に突き立てられており、彼女の血で中を満たしていた液体は鮮血で赤く濁っていた。

「……し、心拍数ゼロ。」

「当たり前だろ!どう見ても死んでいる。」

蘇生は不可能で有る事は誰の目にも明らかであり、彼女は眠らされる前に彼女が殺されていた事は彼女から流れ出た血が其れを物語っていた。

飛鳥は外で待機している者達に指示を出し亡骸を運び出した。

それを眺めていた月兎は手を合わせ、目を閉じて黙祷を捧げた。

菜々奈や元治も慌てて月兎にならい死んだ者に祈った。

彼女が運び出されると菜々奈は疑問を呟いた。

「…何で?」

すると飛鳥は、恐らくという前置きをしてから自分の推察を語った。

「彼女を危険視した者が命令に背いて殺害したのだろう。」

「誰がそんな事を!」

「彼女は未来知覚者ではなく、未来を無意識に捻じ曲げる未来改変者で有るという見方をする当時の研究者が少数だが存在した。彼らは根強く、彼女の殺害による無力化を唱えていたそうだ。」

「そんな事って……。」

証拠は希薄だったそうだと言う飛鳥の言葉も菜々奈には関係なかった。

何も出来ず何も言えない、そんな無力さを噛み締めて菜々奈は拳を強く握った。

月兎は長い黙祷を終え会話が終わったのを確認して次を開けた。

次は四七〇年前の冷眠者で、当時の技術の冷眠限界において三十年程余裕を残していた。

しかし結果から言って彼もまた死んでいた。

当時の運搬が雑だったのか密閉されて然るべきベットの内側に亀裂が入っていたのだ。

肌は灰色っぽく変色し乾いており、彼もまた一目見て死んでいると全員が悟った。

次の二人も当時の冷眠限界は現在よりも短い上に現在技術の五百年をも上回る期間眠らせれていた冷眠者だったので、皆覚悟を決めて乾いた亡骸を見送った。

残るは二四六九年前の冷眠者。

その目覚めに期待する者は誰一人として存在しなかった。

「これで…最後。」

既に菜々奈と元治は手を合わせて祈っていた。

月兎も表情には出ないが、既に答えを悟っていた。

間違いなく死んでいると。

先の六つのカプセルベットとは毛色が全く違い、原始的な金属製の筒のようで、言われなければ人が入っているとは思わないようなちゃちな作りをしていた。

「そのカプセルは左右に二つづ付いているロックを外して手動で開けてくれ。」

月兎は無言で手を動かし、死体が入っているそのカプセルをゆっくりと開けた。

開けた蓋から手を離し中を見て月兎は驚愕して思わず声を出した。

「え?」

「どうした月兎……はぁ!?」

その場にいる全員がベットの中身を見て驚愕した。

そこには赤みがかった血色の良い瑞々しい肌でゆっくりと肩を上下させる息をする少女が入っていたのだ。

最も生存とは程遠いはずの人間が生きていた。

タネも仕掛けも無い裸で無数の剣に刺された人間の脱出マジックと言う名の処刑ショーからの生還を目撃した様なものだ。

誰も目の前の光景を信じられずにいた。

やがて少女は目を覚まし、弱々しい声で何かを口にした。

「ここ◼️◼️◼️◼️◼️◼️?◼️◼️◼️は◼️◼️…?」

「は?」

「彼女はなにを言っているんだ?」

一瞬彼女の声が小さい為、聞こえにくかっただけかと全員が錯覚したが、どうやら彼女の言葉が理解できなかった様だ。

「よく◼️◼️◼️無◼️◼️す。もう◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️言っ◼️◼️さい。」

「外国語かな?ナイストゥミーチュー?」

影太が冗談交じりにエセ英語で話しかけいると、彼女の言語に聞き覚えのあった月兎がとある答えに行き着いた。

「海外の言語じゃない…。相当古いが恐らく日本語だ。彼女の話している言葉は恐らく古語だ。」

よく聞けば古文で聞く様な表現がいくつも散見され、現在の日本語にも通じる様な単語もいくつか聞こえて来ていた。

飛鳥も月兎の答えに同調し頷いた。

「彼女は二〇〇〇年以上前の人間だ。それだけ経っていれば言葉も変わっていて当然か。何をしている?早く彼女の健康状態をチェックしろ!」

飛鳥は大声で指示を出し、研究員達も慌てて彼女に近寄り健康状態のチェックを実行しようとした。

だがこれがいけなかった。

言葉が通じない状態で一人の裸の少女に大人が寄ってたかって近寄って手を伸ばすのだ。

しかも慌てている為彼らの表情に余裕が無い状態でもある。

自分を守るものがない状態で見ず知らずの言葉の通じない人間が自分のパーソナルスペースに予告なしに入りんで来れば、それはもう恐怖である。

「◼️?◼️?何◼️◼️◼️?◼️◼️◼️ない◼️◼️…分◼️◼️◼️◼️!◼️!◼️◼️◼️くだ◼️◼️…!◼️◼️ない◼️!」

当然の結果として、彼女は混乱。

研究員達による健康チェックどころか触れる事すら拒否して錯乱状態に落ち入り背中を向けられ、会話どころですらなくなってしまった。

「何を興奮させてる!これではバイタルも測れんじゃ無いか!」

飛鳥が研究員を更に慌てさせてしまい場は更に混乱してしまった。

「全員離れろ…!」

負のループに陥りかけていたその時、月兎は強い語気かつ小さめ声を出すというある種の離れ技で場の空気を一気に鎮めた。

その場にいる全員が少女のいる場所から距離を置いて月兎の後ろまで下がった。

代わりに月兎は姿勢を低くし膝を床につき、這う様な状態で彼女にゆっくり近づいていった。

月兎の身長は一八五センチを超える巨体ではあったが出来るだけ低く姿勢を保っていたので膝つき頭を下げる様な状態でいつもより小さく見えていた。

やがて彼女に手が届くかどうかという所まで近づくと自分の着ていた上着を彼女に着せて、目線の高さを彼女より少し下に保ちゆっくりと手を差し伸べた。

「テ。」

彼女は被せられた上着を握り締め、月兎の方を振り向き怯えてながら差し出された手を見つめた。

「手。」

月兎は手を出して欲しいという事を単純な単語とポーズで静かに訴え続けた。

彼女は警戒し良く分かっていなかったが、月兎が手を差し出した状態でピクリとも動かないため意図を察し、おずおずと自分の手を差し出した。

「手、◼️◼️◼️?」

やがてお互いの手が触れると、月兎は優しく彼女の手を握り簡単な単語だけを使って彼女に訴えかけた。

「大丈夫!大丈夫!君!大丈夫!我々!君!助ける!」

それを傍から見ていた影太は小声で茶化す様な事を言った。

「まるで未開の原始人との会話だな___っぐふ!」

空気を読めない(読まない)発言を即座に辞めさせるべく、隣にいた菜々奈は無言で肘打ちをくらわせた。

脇腹の痛みから影太は一瞬呼吸が止まり、否応無しに話せなくなった。

少女は手を握り真っ直ぐ自分を見つめ続ける男にある既視感の様なものを感じていた。

「あ…◼️◼️は夢◼️……。」

「君を助ける!傷つけ無い!頼むます!」

月兎の片言の古語もどきは伝わっているかどうかは、ハッキリ言って微妙なところであったろう。

側から見れば無様で、滑稽と取られてもおかしくは無い状況ですらある。

しかし月兎が持ち合わせている真面目さ、真剣さ、真っ直ぐな思いというものは伝わっていると、この場にいる全員が信じることが出来た。

やがて彼女は弱々しくも、月兎の目を見て間違いなく頷いた。

「……はい、分かり◼️◼️◼️。」



西暦4819年8月20日

彼女は後に、この日を人生二度目の誕生日として毎年の様に祝う様になったそうだ。

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