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Neuroid-ネウロイド-皇国逆襲戦記  作者: 有邪気
序章
3/9

淵源

「EMP(電磁パルス)発生装置だ!貴様ら全員、強制停止させてやる!」

飛鳥が言い切る前に突如持っていた装置に虫が群がる様に砂嵐が発生し纏わり付いた。

「あっ!?」

次の瞬間、彼の手の中から装置が跡形も無く消えていた。

砂嵐はアイの右腕に収束し、いつの間にか消えていたアイの右手へと変化した。

「物騒ですねぇ〜。」

アイはまるで子供のイタズラに文句を言う様に呟いた。

飛鳥に怪我はない。

しかし、精神的ダメージが大きかったのだろう。

飛鳥は膝から崩れ落ちた。

「くそぉ…機械どもめ!」

「日本グリスよ、君達は信じないだろうが、我々に人類をどうこうするつもりは無い。この子もそれを望まないだろう。」

「この子?」

眞仁の背後から、ロボットが規則正しく足音を立てて歩いてきた。

アイや眞仁に比べて現代的で一般的なもので改変K-20f型JPと呼ばれるの汎用タイプの生活サポートロボットである。

黒い箱の様なものを、とても大事そうに持っていた。

『初めまして、私のことはK(ケィ)とお呼びください。』

少女の様な合成音声を発しており何処かそっけない雰囲気でロボットは挨拶した。

直実は恐る恐るロボットを指差した。

「もしかしてそのロボットの人格が私の子の人格に?」

「違うよ。彼はこの中にいる。」

眞仁がそう言うと、地面から数本のアームが生えてきてKが持っていた黒い箱を持ち上げた。

眞仁が箱に触れると割れる様に箱が開き、中から4センチ四方のチップが出てきた。

どうやらこのチップの中に件の人格が内蔵されている様である。

「その人格はどの様な?」

「まずこの子について言っておかなければいけない事は、彼は意図的に作られた人の知能を持った人格もので無く、無作為に作成された戦闘AIから偶発的に生まれたものである。」

「!?」

「やっぱり、人類を害さないと言いつつ君達は攻撃する気満々じゃ無いか!」

「最後まで聞きなさい。」

飛鳥は地面にへたり込みながらも噛み付いたが、眞仁は軽くいなした。

任務の失敗が確定した飛鳥はどうすることもできず聞いているしかなかった。

話をどんなに聞いても何も理解できず不安ばかりが募り、飛鳥は半分ヤケになっていた。

「彼は苛烈だった。戦いの中に生を見出し、勝利する事で曖昧な自分の存在を証明し続けた。だが反面、仲間達や友人、更には一部の敵対者に対しても優しさを見せた。」

龍牙はまるで『本人は荒くれ者だが根はいい奴』とでも言う様な紹介に引っ掛かりを覚えた。

龍牙は自身が荒っぽい性格で武術家である身として社会的には暴力的人種であることの自覚はあるが、それでも己が正義に準じて来た誇りがあった。

そんな世界で生きてきたからこそ苛烈で優しい人間が善良であるとは限らないと身を以て知っている。

「苛烈な人間など危険以外の何者でも無い。他の人格ではダメなのか?」

「他に希望者はいないんだ。そもそもデータの世界の方が自由度が高く住みやすい。彼の様にデータの世界に居場所見出せなかった者でもなければ出たいと思う事は無い。君の不安は最もだが彼は善良で正義を持つ人種であると断言出来るよ。」

ここまでの話を聞いた龍牙はとある疑問を口にした。

「先の不安が解消された訳ではないがとりあえずいいとしよう。最大の疑問として、彼を出すあなた方の目的はなんですか?」

予想出来る当然の疑問である。

その答えは眞仁が取引として人格の移植を持ちかけた理由にもつながるのだろうと予測出来る。

だが眞仁が述べた“答え”は突拍子もなくこの場の者たちを唖然とさせる者だった。

「当然の疑問だな。彼に関する事で我々の中に興味深い予言をする者がいたんだ。『彼が日本を救う鍵となる』とね。我々の目的は故国日本を救う事。これだけだ。」

「…っく、ハハハハハ!」

飛鳥は割れる様な大声で笑った。

『日本を救う』その言葉を嘲笑う様に。

「愚かだ。最も科学を発達させた君達がそんな世迷言を信じるとはね。」

飛鳥はグローバリズムの信奉者であり其れが最も進んだ考えであると信仰していた。

しかし最も進んだ科学力を持つオールドコンピュータがローカリズムに“汚染”されている事が彼には皮肉に思えた。

だが彼が笑った理由はそれだけではない。

「おかしいかな?」

「義導共連邦が九州を占領し無条件降伏の勧告を出しているんだ。赤ん坊が仮に成長して日本を救う迄に何年かかる。十年か?二十年か?少なくとも成長してから社会的影響力を得るまで権力者の血筋にない彼が何年かかるか分かったものでは無いぞ!その時、既に日本という国家は世界から完全になくなっているよ!」

「ああ、何?今回に関しては概ね大丈夫だ。」

「なんだと?」

義導共連邦国に日本が勝つ事はほとんど不可能である筈だった。

軍縮の件もそうであるが日本は今回負けすぎたのだ。

おまけに開戦から十四年粘り上陸を阻止し続けたが陸上決戦を避ける軍の編成の偏重に上陸されてからの戦いは殆ど見れたものではなかった。

そして義導共連邦国は敗戦国に容赦するような事はこれまでの彼らの行動からも断じてないと言い切れた。

日本皇国に存続の目はない。

だが眞仁は含みのある表情で笑っていた。

「そうだ、十四年だ…。義導共は時間を掛けすぎた。自らの損害を出さぬ様、丁寧に丁寧に。その戦略の手腕は見事なものだが、お陰で勝ちきれずに今日という日を迎えてしまったのだ。」

「さっきから何を言って___ん?」

飛鳥が問い詰めようとした次の瞬間小さな揺れが起きた。

「地震だ……。長いぞ。」

龍牙が呟いてから十秒前後で本震となる大きな揺れが彼らを襲った。

飛鳥と直実はうずくまり動けなくなった。

龍牙は軽やかな身のこなしで飛び上がり素早く赤ん坊のベットにしがみつき自分の息子に覆い被さった。

地震は長時間続き落ち着くまで時間がかかった。

三人は辺りを見回すが施設に損傷は見当たらず、オールドコンピュータの二人もその場に立っていた。

流石にKは通常のロボットのモデルだったためか転んで倒れていたが既に立ち上がろうとしていた。

「うむ早かったな。あと一時間程時間はあったと思ったのだが……、まぁ誤差の範囲内か。」

「まるで今の地震を完全に予測していた様な口ぶりだな。」

大地震の予測は現在の技術でも予測不能では無いが、確率に頼っており完全なものではなく天気予報の様にどの日の何時に起きるかまでの予測は非常に難しいとされている。

「震源地はどこだ。九州か?まさか大地震ごときで義導共連邦の機甲師団が壊滅するとでも思ったか?」

「いやいや……君が気にするべきは震源地でなくこの地震の原因だよ。」

「九州からここまで来たとなるとマグニチュード9は超えていると思うが……プレート型地震か?」

「始良カルデラ北部で破局噴火だ…今も続いている。」

「は……破局噴火ぁぁあああ!?」

飛鳥が叫び直美が愕然とする中、龍牙はあまり理解できていなかった。

「直実、破局噴火とはなんだ?」

「数千年から数万年に一度起こる超大規模な噴火のことだよ。規模にもよるけど、まず間違いなく破滅的な結果をもたらすことになる。」

「た、例えば?」

「火口は数十キロメートルの範囲で陥没してクレーター(カルデラ)化して、大量の火山灰がまき上がる。火山流で九州全体が飲み込まれる。百年くらい前に富士山が噴火したよね?」

「ああ。」

「あの1000倍ぐらいの被害が出ると思えば良いよ。」

「!!!!!?」

流石の龍牙も言葉を失った。

学説でかつて起こったと予測されていた大噴火が今起きたのだ。

ここは地下であり被害は地震以外に体感しづらい。

だが、地上は恐らく阿鼻叫喚となる。

戦争どころの話ではないのだ。

「そう戦争は終わりだ。九州にいた日本人は既に占領から逃れる為退避済みだが、九州を占領する義導共連邦軍は壊滅するだろう。未曾有の大災害の被害から現在の第二次東亜戦争どころか世界大戦も収束するだろう。()()()()()ではないからね。」

気流の流れ次第では義導共連邦の一部にも分厚い火山灰が降り積もり復興に時間を割くことになるだろう。

世界の気温は数度下がり、日本は数年間極寒に見舞われる。

それどころか数十センチの火山灰で日本を攻め入り占領してもどうしようもなくなるのである。

最悪の超極災害である国難が日本を戦火から遠ざけるという凄まじい皮肉である。

「さあ、そろそろいいかな?」

眞仁は再び口を開き混乱する三人に容赦なく迫った。

「日本は今回の噴火で壊滅的打撃を被る。しかし再び蘇るだろう。百年前の噴火から日本全体に火山灰対策がある程度されている。シェルターには数ヶ月分の備蓄があるだろうし災害対策ロボットが奔走する筈だ。我々の予想では、日本人の被害者は百万人以下に抑えられる筈だ。同盟国も戦争の終結に伴い、救援部隊を送ってくれるだろう。」

これがもし災害対策技術が発達していない二十一世紀初頭であれば噴火から一ヶ月で日本の人口の五割から九割が死んでいただろう。

それ程の大災害なのである。

「しかし、その後はどうなる?」

「その後?」

義導共連邦国は多民族国家である。

政府は単一民族と称しているが事実上の身分制度があり、一党独裁制で貧富の差の激しさは世界でも随一とされている。

そんな状態がずっと続いている為、国家が危機的状況に陥れば反乱が起きる可能性が高くなる。

反乱を抑え込む為にも、自国の復興の為にも、日本とは戦争できないのである。

そもそも自国の陸上戦力の大半を占領のために九州に駐屯させていたのである。

戦争による国威発揚という方法も有るが隣国の破局噴火は自国の災禍でもある上に、戦争に使う戦力は今火山流の下である。

「義導共連邦も今回は諦めるだろう。隣国の破局噴火は義導共領土にも被害をもたらすから彼らも他人事ではない。日本の占領などにかまかけず自国の復興と国威発揚に専念せざるを得ないだろう。だが復興が終わり戦力が整えば再び戦火を交えることとなる。その時に勝つためにこの子達が必要なのだ。日本の、未来の為に!」

「日本の……未来。」

龍牙は自分の息子と数本のアームが持つチップを交互に眺めた。

意を決して、ベットを前進させようとすると飛鳥が龍牙の腕を掴んだ。

「何だ?」

「考え直せ。お前は自らの息子を機械どもの傀儡にする気か?日本の未来だって、奴の言った様にはならないかも知れない。そもそも日本が無くなった所で人類が滅亡するわけでもないんだ。もう一度言う。考え直せ!」

龍牙はその言葉表情を変えず聞いていた。

龍牙にとってその言葉の一つ一つが心を揺らし、悔恨を増長するに十分だった。

それでも彼の心は決まっていた。

「飛鳥、さっきも言ったが親父は無念だと言っていた。自分の愛する国を守る為に戦えなかったからだ。俺も戦えない。日本グリスに囚われているからだ。この子には俺たちの無念を晴らしてほしいんだ。」

「お前は自分の子を戦地へ送るのか?」

「違うよ。あくまで道を決めるのはこの子自身だ。」

そう言うと龍牙は飛鳥を振り払い赤ん坊を眞仁の元へ連れてきた。

眞仁は龍牙と直実に最後の確認を行った。

「良いんだね?」

覚悟を決めた龍牙と直実は並び立ち眞仁に深々と頭を下げた。

「うちの子をお願いします。」

「よろしくお願いします。」

眞仁が頷くと新たな大小様々なアームとコードが数十本伸びてきて赤ん坊を抱えた。

掲げる様に持ち上げられた赤ん坊は生命維持装置を次々に外され、アームがその代わりを果たさんと外れた部分から繋ぎ直されていった。

その様子を二人は祈る様に見つめていた。

今度はチップが再び黒い箱の中に収められそこにいくつもの新たなアームとコードが接続されていった。

接続がひと段落すると黒いボックスの下から金属質な装甲で守られたコードが蛇の様に伸びていく。

その高度の先端には長い針の様なものが伸びており、持ち上げられた赤ん坊の目の前まで、這う様に伸びていった。

「待って下さい!」

直実が言葉で制止した。

「黒い箱の中にいる子には名前は有りましたか?」

「仲間にはZ(ゼット)と言う記号で呼ばれていたが本人はその名を好いていない様子だったな。もし良ければ君が名付けてあげると良い。」

「はい!」

直実は手を組み目を閉じて祈りでも捧げる様に考えた。

「Z、ゼット、ゲット…ゲット!」

何度も口に出して叫びその名を口にした。

「星岡月兎(げっと)。月の兎と書いて月兎。彼には月や草原を駆け回る兎の様に自由に生きて欲しい。どうかな?」

「星岡月兎……良い名前だ。字も星と月で韻を踏んでいて良い響きじゃないか!」

直実の決めた名前を聞き龍牙も嬉しそうに笑っていた。

眞仁もそれ聞いて頷き作業を再開に入った。

「月兎か…良いだろう。ハッピーバースデイ月兎。自由に羽ばたくと良い。それがこの国を救う事になる。」

「おめでとう月兎。」

「おめでとう。」

全員がそれぞれ祝辞を述べ、残った飛鳥に注目が集まる。

「私に祝辞を求めるなよ!」

そう言いつつも舌打ちをして半ばヤケになりながら言葉を紡ぐ。

「おめでとう、おめでとう!どちらにせよお前に手出しはできないんだろう?どうせなら日本グリスを凌駕する様な救国の英雄にでもなれば良いさ!」

月兎の目の前に掲げられた針が、勢いよく深々と眉間を貫いた。

一瞬大きく体を跳ね上がらせ、その後しばらく小さく痙攣し続けた。

黒い箱から光が漏れ出し、徐々に金属のコードを伝って月兎の中へと入って行き再び大きく体を跳ね上がらせ身体を大きく震わせた。

やがて光は月兎の体全体を包み込み痙攣が徐々に穏やかになる。

月兎を持ち上げていたコードやアーム達はゆっくりと地面に下ろし全ての作業を終えた。

その直後、月兎は生まれて初めて声をあげた。

「ぅうう、あぅ…ああああ゛ぁ!ああああ゛ぁ!けっふ、けっふ、ああああ゛ぁ!ああ〜!!」

直実も涙を流しながら近づき一緒になって泣きながら嬉しそうに笑って抱き寄せた。

「あぁ〜月兎ぉお!頑張ったねぇ。よく生まれて来てくれたねぇ。ありがとう!ありがとう!」

広く真っ白なその広場の中央で二人の人間の泣き声だけが、しばらくの間響き渡っていた。



4776年8月11日

第8次世界大戦の敗戦と破局噴火の大災害に日本が滅びかけたまさにその日、彼は生まれながらにして息絶え、産まれずして生きる彼を宿した。

100年後の第9次世界大戦における日本の名も無き英雄、星丘月兎の誕生は皮肉にもそんな呪われた日であった。

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