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救国の魔女と初デート

 それから3日後。デートの日がやってきた。アレスはそれまでの間も毎日迎えに来てくれて夕食を一緒に食べていたけれど、明確に“デート”と言われてしまうとどうしても意識してしまう。


 二人共一日休みをもらったので、私はいつもよりほんの少しだけオシャレをして待ち合わせ場所に向かう。何度聞いても今日何をするかは教えてくれなかったので余計に落ち着かない気持ちだ。


「よ!」


 待ち合わせ場所に着くとアレスが先に待っていた。いつもアレスの方が先にいるなあ、なんて思いながらぎこちなく隣に並ぶ。


「で、今日はどこに行くの?」

「まあまあ焦るなって! とりあえず何か食べねえか? 俺、朝から何も食べてなくてさ」

「あ、私も……」


 昼前に待ち合わせをしたが、既にお腹は空いている。私も同意してアレスに従った。


 アレスが連れて行ってくれたのは通り沿いにあるオープンカフェだ。いつも路地裏の飲み屋で夕食を食べている私達にしてはだいぶオシャレな場所。


 お酒を注文しないのも久しぶりのことでそわそわとしてしまう。対してアレスは上機嫌だ。


「なんか……慣れてる」

「ん?」


 アレスを見ながらふっと呟いた言葉はしっかりと届いてしまったらしい。アレスに聞きかえされてしまう。


「アレスが慣れてるって言ったの! デートに!」


 私が知らないようなオシャレなカフェに連れてきて楽しそうにしていたり、アレスには余裕が見られる。デートなんて初めてな私に対して落ち着いた様子のアレスを見ていたらそう思ってしまったのだ。


 アレスとは3年戦場で一緒に過ごしてきたけれど、それ以前のことはほとんど知らない。辺境伯だったことも知らなかったのだから、きっと私の知らないアレスがたくさんいるのだろう。


 それがなんだか悔しくて口にすると、アレスは一瞬呆気に取られたような顔をした。その後ですぐに笑みを深めるとからかうような目を私に向ける。


「何だ? 嫉妬か?」

「そんなんじゃないよ」


 恥ずかしさから口を尖らせるとアレスはますます嬉しそうにした。


「何だ、違うのか。ちょっと期待したんだけどな」

「期待って……」

「言っておくけど俺もデートに慣れてるわけじゃないぞ? この店だって慣れてそうなやつに聞いただけだ」


 期待という言葉が引っかかったけれど、話題が流されてしまったので追求できなくなる。


「本当に? 別に隠さなくてもいいのに」

「隠してなんかねえよ。ウォルカにいた時から全然モテなかったからな。弟の方がモテるんだ」

「そうなんだ」

「冷たそうなところがいいんだと。女心は俺にはわからねえ」


 冷たそうと聞いてシェストン室長の顔がつい思い浮かぶ。


「そうかなぁ……。冷たいより優しい方がいいと思うけど」

「お、じゃあライラは俺と弟が並んでたら俺を選んでくれるのかな」

「弟さんとは会ったことないからわかんないよ」


 シェストン室長とアレスなら間違いなくアレスを選ぶけど。と、咄嗟に思って何を考えてるんだか、と脳内の自分が恥ずかしくなった。


「俺の婚約者としてライラをウォルカに連れ帰って、最終的に弟と結婚することになったら凹むぞー俺」


 ただでさえ恥ずかしいことを考えていたのに、さらにアレスに本当の婚約者のようなことを言われて動揺してしまう。何て答えたらいいかわからないでいると「ま、弟には強力なライバルがいるけどな」と、アレスが話を終わらせてくれた。


「そういうライラはどうなんだよ?」

「どう、って?」

「デート。したことあるんじゃねえの?」

「!? あるわけないじゃん!」


 ありえないことを言われてすぐに否定する。


「別に隠さなくてもいいんだぞ? 小隊に入る前、お前モテたろ?」

「嫌われることはあってもモテてなんかないよ!」


 戦場に行く前の私は孤児院にいて、嫌われ者だった。仲間はずれにされて固い床で寝ることが日常だったくらいだ。


「見る目ねえなぁ。だけど今は違うだろ」

「あの伯爵様のことなら私が救国の魔女なんて呼ばれるようになったからで、モテるとは別次元の話だと思うんだけど」

「お前、やっぱ鈍いよな」


 アレスに呆れ顔で見られる。私には心当たりがなくて不思議に思うしかない。


「鈍いって?」

「お前、小隊でそこそこ人気あったんだぞ」

「!? 人気、って……」


 話の流れからすると人間性としての人気とは違うようだった。思い当たるところはないのでただただ驚くばかりだ。


「ま、戦時中は心の中はどうあれ、男達の中で表立って行動するのはやめとこうぜって取り決めてたんだけどな。恋愛にかまけて死んじまったらつまらねえだろ?」

「そ、そうだったんだ」

「ああ。だから俺がライラと婚約するなんて知れたら怒られるだろうな」


 アレスは明るく笑いながら言う。小隊の兵士達なら、口で怒ることはしても心から糾弾したりはしないとアレスもわかっているからだろう。


「バレるのも時間の問題だとは思うけどな」

「そうだよね」


 私も長く時間を過ごしてきた面々だ。一番はアレスだったけれど、仲が良かった兵士もたくさんいたので、知れた時のことを思うと気恥ずかしい。


「でもちゃんと報告はしたいね」

「だな」


 黙っていなくなることだけはしたくない。そういう思いで言うとアレスも同意してくれる。同じ気持ちなのだとわかって心が温かくなった。


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