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救国の魔女と解散式

 2日後。あの日以来アレスともディアンとも会うことなく小隊の解散式を迎えた。普段は訓練で使われる広場を借り切っての大宴会だ。既に並べられた料理やお酒を会が始まる前につまみ食いする人が出たりと、ガヤガヤと賑やかだった。


 会の始まりはもちろん小隊長であるアレスの挨拶だ。今まで黙る気配もなかったのに、アレスが口を開きそうな気配を出すと波が引いていくように静かになる。その雰囲気も久しぶりだった。


「戦争が終わってしばらく経つが、ようやく今日が俺たち小隊の解散式だ。ま、今までだってしっかり働いていたかどうか甚だ疑問だがな」


 アレスの飾らない言葉にドッと湧く。


「ま、堅苦しい挨拶はいいだろ。俺たちもそれなりに命かけて戦ったんだ。今日は思う存分飲んで食ってやろうぜ!」


 「おー!」と、隊員は一斉に手に持ったグラスを掲げる。勢いが良すぎてお酒がグラスから溢れている人までいて、その雰囲気に飲む前から酔ってしまいそうだ。


「乾杯!」

「かんぱーい!」


 そうして解散式は始まった。久しぶりに会う面々にみんな興奮気味だ。近況報告を中心に盛り上がり、あちらこちらで笑い声が聞こえる。


 私はお酒を一杯飲み終えると、その場を離れてある人を探す。何人かの兵士と談笑しているその後姿を見つけると私は一息吸ってから声をかけた。


「ディアン!」

「……ライラか」


 ことさらゆっくりと振り返ったディアンの表情は曇っている。そんなディアンに兵士の一人が肩を組む。


「何だ、ディアン。お前ライラちゃんに失恋したからって態度悪いぞ?」

「そうだぞ? オレだって本当は悔しいんだ! だけど、まあアレスだからな」

「だよなあ」


 好き勝手に言う兵士達を煩わしそうにしながらかわすと、ディアンは私の方へと歩いてきた。


「場所変えるか」


 私とディアンは広場の端まで移動する。会は始まったばかりなので、ほとんどの兵士は中心に置いてあるテーブルの周りで食事を食べているので端には人がいなかった。


「で、どうした?」


 明らかに不機嫌そうなディアンがぶっきらぼうに尋ねる。答えようと口を開くと、質問したはずのディアンが言葉を続けた。


「言っておくが謝る気も謝られる気もないからな」


 何について謝るのかは明白だ。私は「わかってる」と言って頷く。


「私、ディアンの気持ちには応えられない」


 謝るなと言われてもこれだけはちゃんと伝えたかった。ディアンは私が断るのをわかっていたかのように表情を変えない。


「アレス小隊長のこと、好きなのか?」

「……うん」


 この前自覚したばかりの気持ちを誰かに伝えるのは初めてだ。でもディアンには言わなくてはならないと思っていたので躊躇わなかった。


「いつからだよ?」

「自覚したのは、つい最近」

「ふぅん。じゃあ俺ももっと早く告白しとけばよかったな」


 ディアンは頭の上で腕を組む。


「アレス小隊長にはやられたぜ」


 そう言うディアンの表情はどこか穏やかだった。


「明日発つんだっけ?」

「……たぶん」

「たぶんってなんだよ」


 この前アレスに婚約破棄を持ち出されたばかりだ。本当についていっていいのか、前日の今日になってもいまいち確信が持てずにいた。


「……まったく」


 ディアンは私の顔を見て呆れた顔をする。


「俺を振ったんだ。上手くやれよ。ダメになった、なんて言ったら怒るからな」

「善処、します」


 私は曖昧に答えることしかできない。だけど私だってこのまま終わらせるつもりはなかった。初めて自覚した気持ちに決着をつけずに別れるなんて、そんなことは。


「いつかウォルカに遊びにきてね」

「いかねーよ」


 ディアンはそう言って笑った。



 ディアンとの話が終わった後、アレスと話したくて様子を伺っていたけれどアレスの周りには人が絶えない。アレスは人望が厚いこともあるし、明日王都を離れてしまうのだ。話しておきたい人が多いのもうなずけた。


 言い訳かもしれないけれど、そう思うからこそディアンの時のように割って入ることができなくて、様子を伺っている内に会は終わりを迎えてしまう。始まりと同じようにアレスの挨拶で締められた。


「みんな、また集まろうな!」


 長い挨拶はなく、まるで友達と話をするかのようにそう締めたアレスに温かな拍手が送られる。そうして私とアレスが出会った小隊は正式に解散した。


 片付けは兵士たちがやってくれるとのことで、アレスが「じゃあ明日も早いしそろそろ帰るかな」と言っているのが聞こえてくる。チャンスは今しかない。私は暴れまわる心臓を抑えながらアレスの元へと向かった。


「アレス……」

「ん?」


 アレスはまるで数日前の出来事は夢だったかのような普段通りの顔を私に見せる。


「お、ライラちゃん!」

「アレスのことは頼んだよ!」

「もしアレスに何か悪さされたら王都に戻ってきていいんだからな」


 ある程度予期していたことではあったけれど、アレスを取り囲んでいた兵士たちに囃し立てられた。アレスは「お前らなあ」とはにかんだ笑顔を見せて、やはり変わった様子はない。


(私と婚約破棄すること、言ってないのかな……)


 私は思わずそんなことを考えてしまうけれど、アレスは私のところに来てくれた。


「じゃ、帰るか」

「う、うん」

「それじゃあみんな、またな!」


 アレスは兵士たちにいつもと変わらない挨拶をする。兵士たちも変わらない様子で送り出してくれて、私達は二人で広場を後にした。


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