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救国の魔女と友人

 私の婚約問題、協会との今後の関わりについて、リリアージュ王女が間に入ってくれたことで早急な解決をみた。リリアージュ王女の言った通り、協会の人達は私が協会を離れるわけではないということで王女に逆らうことなく納得し引き下がってくれた。同時にシェストン室長もあっさりと婚約の話を取り消した。


 あんなに困っていたことが嘘のように、私とアレスはすんなりと婚約届を提出することができたのだ。


(もうこれで問題なくウォルカへ行くことができるのかな)


 王都を離れることが現実味を帯びてきて、私は使っていた部屋の荷物をまとめている。王都を出るまであと3日だ。


 その前日には小隊の解散式もある。解散式と言ってもお酒を酌み交わすだけの、ただの宴会とも言えるものだ。


 苦楽を共にした仲間と離れるのは寂しいけれどアレスと一緒だと思えばそれも薄れる。私は解散式をどこか楽しみにしながら、最後の王都生活を送っていた。


(王都にいるうちに買い物でもしておこうかな)


 去就が決まった私は協会からもいらぬ者扱いされて、することがなくなっている。端的に言えば暇で、今日の予定も夜にアレスと夕食を食べる約束をしているくらいだ。


 遠く離れたウォルカの地へ行くわけだし、必要なものがあれば揃えてもおきたいと思って買い物に行くことにした。町へ出た私は洋服や雑貨など必要なものを見ていく。そうして買い物袋を両手に持つようになった頃のことだった。


「ライラ!」


 懐かしい声で名前を呼ばれて、弾かれたように振り返る。そこには見慣れたかつての仲間であり友人でもある人物の顔があった。


「ディアン!」


 ディアンは同じ小隊の兵士だ。戦場で肩を並べて戦うことは少なかったが、年が近いこともあってよく話をしていた。


 アレスは包み込んでくれるような温かさがあるけれど、ディアンには年が近いからこその気軽さがある。よくバカな話をして笑ったりしたものだ。


「久しぶりだね! 戻ってたんだ!」

「……ああ」


 戦争が終わってからしばらく故郷に帰っていたのだけれど、解散式に合わせて戻ってきたのだろう。この後も兵士として王都に留まると聞いている。


 ディアンは藍色のくっきりとした瞳をどこか揺らしながら私を見ていた。


「ライラ、聞きたいことがある。今ちょっといいか?」

「? うん、いいけど……」


 いつも明るくバカばかりやっているディアンにしては珍しく固い表情だ。そんなディアンに違和感を覚えながらも、私は誘われるがままについていくことにした。



 着いたのは兵士の詰所のある建物の裏側だ。備品倉庫に繋ぐ場所なのでよく通ってはいたが、戦後の今は人通りがない。


 ディアンは道中も何も喋らず、今もこわばった表情をしている。何か深刻な話があるのだろうと、私もちゃんと向かい合う。


「ライラ……アレス小隊長と婚約したって本当か?」


 どこか固い表情で尋ねられたのはそんなことだった。


「ああ……うん」


 私のこともアレスのことも知っている友人に面と向かって報告するのは恥ずかしい。だけど嘘をつくわけにもいかないと頷くと、ディアンは悲しげに眉尻を下げた。


「何で……どうしてそうなったんだ」


 どこか自問自答するような言葉に口を挟めずにいると、ディアンは続ける。


「聞いた時は信じられなかった。アレス小隊長はまだしも、ライラはそんな気まったくなかったろ? だから何かの冗談だって、直接ライラから聞くまでは信じないって思ってて……」

「ごめんね、ディアン」


 あまりにディアンが悲しそうな顔をするので思わずそう謝った。


「田舎に帰っていたとはいえ、ディアンにはちゃんと私の口から報告すべきだった。大切な友達なのに」

「友達、な」


 ディアンは嘲るように私が言った言葉を繰り返す。


「こんなことなら取り決めなんて破って早く気持ちを伝えるべきだったんだ」

「……え?」


 つぶやいた言葉はしっかりと私に届いた。気持ち、って──


 私の予感を肯定するようにディアンの瞳がまっすぐと私を捉え、両肩を強く掴まれる。


「アレス小隊長じゃなくて俺にしろ、ライラ。俺もお前のことが好きなんだ」

「……っ」


 心臓が止まってしまうかと思った。間近に見たこともないくらい真剣な顔のディアンがいて、私のことを好きだと言う。そんな素振り、今まで一度も見せたことなかったのに。


 何も言えないでいるとディアンが再び口を開く。


「アレス小隊長は立派な人だし貴族だってのもわかる。だけどライラを想う気持ちは負けてない。俺がライラを幸せにしたい。だから……」


 鬼気迫った様子のディアンが息を飲み込む。そしてぐっと顔が近づいて……キス、される。


「……っ!?」


 無意識に私はディアンの胸をぐっと押して引き剥がした。私よりも筋力のあるディアンは私の抵抗なんて跳ね返してもう一度引き寄せることだってできたはずなのに、ショックを受けた顔をして私の肩から手を離す。


 友人と思っていたディアンに気づきもしなかった想いを告げられたこと。私がキスを拒絶したことで傷つけてしまったこと。いろんな気持ちが襲ってきて、耐えられずに私は走って逃げ出した。


 私の知らないディアンがいるようで怖かった。傷ついたのはディアンなはずなのに私も苦しい。


 ディアンは追いかけてはこなかった。


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