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勇者召喚された鈴田中木くんは認識されない

作者: ゴロタ

 





「ねぇ栞、あんたの隣の席っていつも空いてるけど、不登校だっけ?」

「ええ~?知らなーい。入学してから1度も見掛けないよぉ?」

「そうなの?じゃあやっぱり不登校かぁ。まだ入学して1ヶ月なのに、早くね? っと!えいっ!栞のカラアゲ頂きっ!」

「きゃっ! ちょっと~有菜ったら!もうっ!」


 女子2人が言い合いながら楽しそうにキャッキャッと騒ぐ様子を、その隣の席(・・・・・)で眺めている僕は鈴田中木 遊佐(すずたなかぎ ゆさ)といいます。

 平凡な名字同士をサンドし、尚且つ名前まで名字みたいですがこれが僕の実名なのです。



 そして高校に入学してからの約1ヶ月、ずっと隣同士だった女子に名前どころか、存在まで認識されていなかった者です。


 しかし僕はそれほど落ち込まない。むしろ慣れている。何故かって? それは幼稚園の頃から存在を認識されないのだから、流石にこれはどうしょもない事だと諦めました。



 しかし小学校の低学年までは、無駄な足掻きをしていた。積極的にクラスメートに話し掛けようと頑張った挙げ句、心霊現象扱いされていたのだ。

「誰も居ないのに変な声が聞こえた気がする」とか「誰も居ないのに肩を叩かれた気がする」「誰も居ないのに人の影に横切られた気がする」などという騒ぎが巻き起こった。


 しかも全部「誰も居ない~気がする」である。


 この惨憺(さんたん)たる結果に僕は男泣きし、存在を認めてもらう努力を放棄した。




 そして高校に入学して………………うん、これまで通り今日も僕は安定の空気であった。





 そんな微妙な高校生活をエンジョイ(?)していた僕に、ある日突然変化は訪れた。


 部活などに入部しても存在を認識されない(むしろ入部も出きるか怪しい)ので、強制帰宅部である僕はぼんやりしながら家路を歩いていた。


 今日はお昼頃まで雨が降っていたため、学校帰りの道には所々水溜まりが出来ていたのだが、ここでも存在感が稀薄な僕は、車道を走っていた車から見事に泥水をかけられてしまった。



 ブロロロロ……………バッシャーーーーーン!!



「ぶあっ!!!」


 おげぇぺっぺっぺっ!!!

 いま、顔にまで泥水がかかっちゃったよ。痛てて………両目と口の中にも入ってきた。

 くそっ……。臭いも何だか生臭い。ただの泥水じゃ無かったのか? おまけに地面までもがグラグラと揺れている様に感じる。そこまでのダメージだったかな。


 僕が両目を押さえながら、地面にしゃがみ込んで痛みに耐えていると、聞き覚えのない男たちの会話が上の方から聞こえて来る。


 痛みに涙を流しながら声のする方へと視線を向けると、豪奢な服を着た精悍な顔付きの男性と、髪をオールバックにした老齢な男性がこちらを見下ろしていた。




「王子…………残念ながら誰も召喚されておりませぬ。儀式は、こたびの儀式は失敗に御座います!」

「………………………………そうか失敗か。まぁ、こんな(いにしえ)の儀式に縋るしか無いとは、長き歴史ある我が国も、もう終わりだという事なのだろうな」


「あ、あの~…………?」


「じいは口惜しゅう御座います!このままではあの残虐非道な魔族どもに、我が国は蹂躙されてしまう事になりかねませぬ!」

「悔しい気持ちは我とて同じだ。だが王家に伝わる異世界の勇者を召喚する儀式は、失敗に終わったのだ。現実を受けてめようではないか」


「あの…………?」


「いいえ! いいえ王子!まだ希望を棄てるのは早計では御座いませぬか? 魔族どもの王である魔王は、未だ発生したばかり。膨大な力が目覚めるには、まだ時は御座いましょう。今一度、召喚の儀式を行ってはいかがでしょうか?」

「………………ふむ。そうだな。じいの言う事も一理あるやもしれん。まだ希望はあると我も信じたい。 そうと決まれば急ぎ各国に共闘の書状を出さなければ!よし、父上が居られる謁見の間へ向かうぞ!召喚の儀式を再び執り行う準備も始めねばならん。 これから忙しくなるぞ!じい、着いて参れ!」

「かしこまりました!!」


「…………………あ、あのっ!!」




 何度か呼んでみたのだが僕の声は、2人居た男性のそのどちらにも認識されず、そのまま2人はこの場から立ち去って行ってしまった。



「あーうん、流石は僕だな。安定の空気だ…………………」



 って!違ーうっっっ!!!


 何に安定を求めてるんだ!そんなもの現在の状況には全く必要ないからっ!

 こ、これっていわゆる異世界転移とかってやつだろ?

 王子って呼ばれていた男の言葉を思い起こすと、僕は異世界に召喚された。だが安定の空気能力(?)により、誰にも存在を認識されない。このままでは元の世界には戻れないし、そもそも戻れるかも不明。



 ん?

 でもちょっと待てよ?

 どーせ元の世界に還ったって、誰にも認識されないのだから別に無理に還んなくても良くない? こっちの世界でも元の世界でも僕の扱いってさして変わらない気がする。



 もちろん父さんや母さん、弟の四方(よも)に会えなくなるのは寂しい。だって唯一僕を認識し、理解を示してくれる大切な家族だ。

 しかしその還るための手段が思い付かないし、誰かに聞こうにも、僕の存在って自分で言うのも何だけど、そうそう認識されない。


 さっき僕を召喚したらしい男性たちに頼むとしても、僕を召喚したシーンを認識出来ていないのだから、僕がいくら元の世界に還してくれって懇願した所で「何だ貴様は? 出てけ!」って言われて終わりだと思う。

 もしくは「何だ貴様は? 死ね!」っていう最悪な展開に発展してしまうかもしれない。 いや、そもそも認識されない。多分スルーされる予感しかしない。




 例え認識されない空気 人生(エアーライフ)だとしても、まだ死にたくはない。



 それに僕は無駄な労力は極力したくない。生まれてこのかた15年、すでに悟りを開いてしまったと言っても過言では無い僕は、己の人生への諦めの境地へと至ってしまっていた。



 伊達に15年間も空気だった訳じゃないんだよ(キリッ☆)


 僕はノンビリ空気 人生(エアーライフ)を、この異世界にて満 喫(エンジョイ) するため、現在居る無駄に豪華な部屋から静かに、且つ、迅速に立ち去ったのであった。



 ちなみに僕がこの部屋から去った泥水の痕跡が、点々と回廊に残されており、後に王城を揺るがす怪談話へと発展する事となるのであったが、そんな事僕の知ったことでは無いってのは付け加えておく。

 



 ***




 それにしても…………この世界の危機管理意識ってどうなってるんだろ?

 僕がさっきまで居た場所は、どうやらお城だったみたいだけど、誰にも呼び止められずに出てこれちゃったんだけど? もちろん衛兵っぽい人達だって、要所要所にちゃんと居たよ。(直立不動でちょっぴり怖かったのは内緒だ)


 でもやっぱりスルーなんだよね。


 まぁ、言うほど悪いことはしてないし、今後もするつもりは無いから僕的には別にいいんだけどさ。



 お城から城下町っぽい所まで歩いて来ると、辺りから食欲をそそる香しい匂いが漂ってくる。



 グググゥ~……………。


 うわっ! 豪快にお腹が鳴っちゃった。



 この世界に召喚される直前って、学校から帰宅途中だったからお腹空いてたんだよね~。


 僕は肩から下げていた学校指定の鞄から、財布を取り出すと手持ちのお金を数えた。


 いち、にい、さん………………。ふむ。所持金3864円なり。


 日本のちょっと湿った紙幣と硬貨で、異世界の世界の食べ物が買えるのかは不明だ。

 しかしこれしか持って無いゆえ、これで支払う訳だが致し方がない。


 無銭飲食は流石に良心が咎めるからね。



 だが困るのは紙幣価値の違いだ。



 ラッキーな事にこの世界の言葉は分かるし、書いてある文字も読める。

 しかしこの串焼き1本10ゾルってどういう意味なんだ? こっちのスープは1杯3セボンって書いてある。そしてリンゴっぽい果実は一山2ランラオ………………わけわかんない。



 屋台をチラチラ見ながら歩いて、【ゾル】【セボン】【ランラオ】って言うのがあるのは分かった。 うん。それしかわからん。勝手にこっちで解釈してしまおう。

 ゾル………10円だな。 セボンは100円。ランラオは1000円だ。 それで支払えばいいや。よし!



「よってて!よっててぇ~! 甘くてジューシーなポポルンガのスープが1杯、3セボンだよぉ~!」


 大柄なオバちゃんが、大声でスープの宣伝をしている。 甘くてジューシー? スープが!? 僕は興味を引かれて、オバちゃんにスープを1杯頼む。


「すいませーん! そのポポルンガスープを1杯下さい!」


「あっと! そこの陽気なお兄さん! 1杯どうだい?」

「おっ? 確かに美味そうだな! ひとつくれよ!」

「あいよ! まいどー!」


 ………………挫けるな、僕。もう一度だ。


「すっ………すいまっせーーーーん!スープ1杯………」


「おーい! 俺っちは3杯だ!」

「あいよ! ガスパさん、何時もありがとうよ!」

「ガハハ! ここのスープは美味いからな!」

「あははっ! お世辞いっても1ゾルもまけないよぅ!」


 こ、これは………どういう事だ!?

 元の世界でも人に認識されづらかったけれど、これは余りにも認識されなさすぎじゃないか? だって僕は現在スープ屋のオバちゃんの眼前、それも後数センチで顔がぶつかるほど近くで呼んでるのに無 視(シカト)って…………ど、どんだけー?


 元の世界でも、隣の席に座って居た時は声ぐらいは認識してもらっていたよ。たまにだけどさ。


 ここでも僕のスキル(覚り)が開き、諦めが浮かんだ。


 オバちゃんがガスパってオッサンによそった1杯を、強奪してオッサンのポケットに300円をソッと入れた。

 すまんなオッサン………こうする他に僕がスープにありつける気がしない。300円はせめてもの償いさ。


 スープを持って小走りでこの場を離れようとすると、背後から「おいおい、オバちゃん? 俺っちが頼んだのは3杯だぜ? 1杯足んねーぞ?」

「はあっ? 何言ってんだい? 私はちゃんと3杯……………あらっ? 本当だわ…………」「おいおい、大丈夫かよ?耄碌するにゃ早すぎんぞ?ガハハ!」というやり取りが聞こえてきたのでつい、立ち止まってしまった。


 やっべ。

 今のやり取りから察するに、損をするのはオバちゃんの方だ! しかし今さらオッサンのポケットから300円を取り出す事も出来かねる。 うん、ここはオバちゃんの運が無かったって事で!


 僕は自身の失態をまるっと無視すると、スープの並々と入った器を両手で確りと握ると、今度は後ろを振り返らずに一目散に逃げ出した。






 ちなみに僕の去った場所では、スープの器が空中を移動する様子が何人もの人物に目撃されており、城下町を揺るがす怪談話にまで発展する事となるのだが、そんなこと僕の知ったことでは無いってのは付け加えておく。







多分今後も鈴田中木くんは、異世界人に認識される事ない。


そして間違いなく最強にして究極のボッチへと、進化を遂げて元気にえあーらいふをえんじょいする。

実は誰とも話せなくても全く苦にならない特殊な精神力をお持ちです。故の最強! 故の究極!!




オマケのその後


鈴田中木→くん上記で書いた通り。 モンスターに出会っても相手に認識されないため、極上の暗殺者的な手際で敵を屠る事が可能。 で、そーゆーモンスターが落とす素材と食べ物や服を、店で勝手(・・)に物々交換する。


ちなみにやはり貨幣価値を理解して居ないのか、その物よりも高い価値の素材と交換したり、逆に安い価値の素材と交換したりする。

そのため、お店などの人々は日々ドキドキハラハラする生活をえんじょいしている。


王子→じいの言う通り再度、召喚の儀式を行い新たな勇者を召喚する事に成功する。

しかし召喚された勇者が少女であり、可憐で儚い美貌の持ち主であったため、魔王討伐に向かえと中々言い出せず苦悩する。多分一目惚れ。


じい→勇者が少女で困っている。 その上王子が勇者に惚れてしまい、苦悩する。 しまいには王子も一緒に魔王討伐に向かうとか言い出す始末。 毛根が一気に死滅する。不憫。


新たなる勇者→人畜無害に見える様に猫を被っている。実はとても口が悪いし、お酒が大好きな三十路れでぃー。 しかし異世界ではめっちゃ若く見られて内心喜んでる。

王子事態は嫌いじゃないけど、実はもっと年齢が上のナイスミドルがタイプ。 例えば王子の父親、とか。



…………………………………………ややこしくなる予感しかしない。



魔王→詳細は不明と言う名の設定不足。人を襲うかも不明。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の内容が面白いです。あまりにも認識されない主人公が今後異世界で起きる事件に対してどうやって解決していくのか、楽しみです。 [気になる点] 主人公はどういった姿態をしているのか少し想像しに…
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