第1章2話 『光焔の女神』
「ちょっと!起きてください!起きてください!!!」
そんな声を聞いて、俺は目を覚ます。
ーー今は何時だろう。今日もまた学校をサボって昼起きか…
いや、違う。俺の記憶が正しければ、俺は死んだのだ。
死んだ世界で出会った少女に導かれ、俺は異世界転生をすることになった。
俺を起こすこの声は、さっきの少女の声だ。
俺を心配してついてきてでもくれたのだろうか?
「早く起きてくだいってば!大変なんですよ!大変なんです!」
「お、起きてくるよ… というかここってもしかして異世界!?」
俺が目を覚ました場所は周りが街に囲まれた噴水の近くだった。
見渡す限りの建物と人間。そして南方面にはヨーロッパにでもありそうなとても大きな城がそびえ立っている。
商店街と思わしき一角には特に人が多く集まり、小さい子はおいかけっこと商店街を走り回り、買い物客の婦人や店主たちはそれを微笑みながら見ている。
まさに異世界、とまでは言わないが、まず自分の暮らしていた世界でこの様な光景を目にすることなどまずないであろう。
ーー本当に来ちまったんだな…
自分が異世界転生を果たした感動を噛み締めながら、俺はここに来る前の少女の話を思い出す。
確か、俺が目覚めた時に俺の隣には俺好みの女の子がいて、その子と共に旅をできるという契約のはずだ。
ーーー周りを見渡しても誰も見当たらない。俺の横にいるのはこの世界に来るきっかけとなった少女のみだ。
見れば、少女も俺のように街を見渡しているものの顔色がとても悪い。
「あの、なんでいるんですか?」
赤色の髪も前と違って元気がなく、少し乱れている。
俺の問いかけに、少女は青ざめた顔を俺の方に向けて、震えるような声で言った。
「それがですね…あなたをこの世界に送った後、私も急に意識が朦朧としてですね…目が覚めたらここにいたんです。もしかしたらと思って横を見てみたら…」
「俺がいたと。」
「…はい。」
つまり、俺と一緒に冒険する俺好みの女の子に選ばれた…ということなのだろうか。
可愛くて、スタイルよくて、俺と同じくらいの年のツンデレ少女。
目の前の少女は、ほぼ全てそれを満たしている。
顔も俺好みだし、スタイル抜群、そして見た目は俺と同じくらいの年だ。
だが、一番重要なのは性格だ。
ツンデレ、ココ重要。
「とりあえず、俺の名前は嘉山明希那。まだ16だけど今年の8月で17!…自己紹介こんな感じで大丈夫?」
少女はまだ、この状況を受け入れきれていないような表情だが、このままでは何も進まないということを感じたのか、渋々とした表情をしながら口を開いた。
「…光焔の女神、アエルと申します。年はあなたと変わりません。普段はあなたのような若くして命を落としてしまった人々を天界へと導く仕事をしています。今回は仕方がないのであなたに付いていきますが…あなたのためではなく、一刻も早く私が帰るためですのでお間違いなく。というかこの喋り方面倒なので普通に喋っていいですか?」
意外な所で出てきたツンデレ要素。仲間にとって不足はない。
しかし、光焔の女神とは一体なんなのだろうか。さっぱり検討がつかない。
だが、仲間が神ときたらこれはもうラッキーでしかない。
神ならこの世界のルールとか色々しってるだろうし、何より神が弱いわけがない。
「まぁ、これから一緒に冒険する仲だし、喋り方は好きにしてくれ。ところでアエル、俺らこれからどこ行きゃいいんだ?」
「それはまずは冒険者ギルドとかでしょう?ゲームとかよくやってたくせに、そんなことも知らないんですか。」
「いや、ゲームだったらストーリーとか見てれば勝手に行ってるし、そうじゃなくても仲間が『とりあえず行ってみましょう!』的な感じになるし。」
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「ようこそ冒険者ギルドへっ!これであなたも冒険者!さぁ!その契約書にお名前を!」
妙にテンションの高い職員に契約書を渡され、俺とアエルは少し圧倒されながら名前を記入していく。
ギルドの中は受付窓口はもちろん、酒場や武器屋も備わっている。
また建物の真ん中には短めの螺旋階段があり、それを使って二階に上がると宿屋が存在するらしい。冒険者に必要と思われるものは大体備わっているようだ。
「それでは!お二人とも片手を掲げて指をパチンと鳴らしてください!」
言われるがままに、俺とアエルは片手を上げて指をパチンと鳴らす。
すると、デジタルモニターの様な画面が掲げた手の先に現れる。
「なんですかこれ。」
俺の問いに、『その質問を待ってました!』と言わんばかりにテンションの高い職員が早口で応える。
「これは今のお二人のステータスです!体力や魔力はもちろん、攻撃力や防御力、次のレベルまでの必要経験値まで全てが表示されます!さらにもう一回指をパチンと鳴らして頂くと、技や魔法、ステータスアップに必要なスキルポイントの振り分けができます!ポイントさえあればどんな強力な技でも覚えることができますが、必要なスキルポイントは個人差が出るのでご注意ください!」
映し出された俺のステータスを見てみると、基本ステータスは全て最大値が100程度。この世界の平均的な数値は知らないが、よくやるゲームの初期ステータスと変わらないのでこんなもんだろう。
「それともう一つあるのですが、左下を見ていただくと何やら長ったらしい文がいくつか書かれてると思いますが、それは個人が特別に持つオートスキルと呼ばれるものです!スキルは全てで5つでレベル1では3つのオートスキルが解放されています!4つ目はレベル20、5つ目はレベル40で解放されます!オートスキル強化はレベルが10ずつ上がるごとに自動的に行われるので、じゃんじゃんレベル上げしてくださいね!」
左下を見ると確かに3つの文が並んでいる。
一つずつ読んでいくと
『戦闘中、攻撃魔法を使用する度、魔力が3%上昇(上限3回、街に戻るまで永続)』
『無属性の剣装備時、魔力、攻撃力、防御力が5%上昇』
『爆発属性スキル使用時、60秒間攻撃力5%上昇』
なんともゲームらしい。
魔法を優先したいのか物理攻撃を優先したいのか中途半端なのが少し気になるが、そこは臨機応変に対応できると言うことにしておこう。
「アキナはどんな能力を持ってたんですか?」
横から自分のオートスキルを読み終わったアエルが、俺の方に興味を向けて顔を近づけてくる。
「アエルの方こそどんなオートスキルなんだよ。どれどれ…」
アエルの方のオートスキルを見てみると、
『光属性攻撃力100%上昇』
『火属性攻撃力100%上昇』
『戦闘中、攻撃魔法を使用する度、魔力、攻撃力、防御力50%上昇(上限5回、街に戻るまで永続)』
ーー俺と差ありすぎだろ!公演の女神だか公園の女神だか知らないけどちょっと酷くない!?
初期ステータスの方も見てみるとそこには大した差がないのだが。
俺のオートスキルを見終わったアエルはクスクスと笑いながら俺の方を見てくる。
ちょっとムカつくが、神と人間なんだからこれくらいの差はあって当然だろうと思うしか無かった。
ーーとりあえず残りのスキルが解放されるまで頑張るか~
そう思いながら、俺はもう一度自分のオートスキルを見てやる。
5つの枠が設けられ、上3つには先程の内容が書かれ、下2つには解放条件が書かれている。
そこまで見たときに、隣のアエルが目の前で俺達がステータスを見終わるのを待っている職員に対して口を開いた。
「あの、あなたさっき4つ目と5つ目ののオートスキルはレベル20と40で解放されるって言いませんでした?」
「はい。そうですが…どうかなされましたか?」
アエルは自分のオートスキルをじっと目を細くしながら見た後、顔を上げて深刻そうな口調で言った。
「4つ目と5つ目の解放条件、両方とも必要レベル100って書いてあるんだけど…」