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第六話 マジカルファイト! レディ……ゴー!

 びしょ濡れになられた第9567王女のクコロお姉様は、立っているのもお辛そうです。

 ですがそれを感じさせない、凛としたお声でおっしゃいました。


「第10000王女のサツキ! あなたなの? この卑劣な罠を仕掛けたのは!」


 クコロお姉様は足元に落ちている金ダライをお蹴り飛ばしになられます。


 ですが、意外に重く固かった金ダライ。

 ゴンと音をたてて、ほんの少しだけ動くのみにとどまります。


 クコロお姉様はつま先を押さえてその場にしゃがみこんでしまわれましたわ。


 あらあら、足の指でも打ったのでしょうか?

 想像するだけでも痛そうですわ。


「大丈夫ですか?」


 わたくしが声をかけると、クコロお姉様は、


「くっ、またしてもこんな罠を!」


 その様子を見て、第9999王女のウヅキお姉様が呆れながら肩をすくめます。


「罠って……あなたが勝手に自滅したんじゃないの」


「うるさい! 大体あなた達! 二人がかりで卑怯だと思わないの!」


 クコロお姉様はわたくしを睨んだままお叫びになられました。

 そしてヨロヨロと立ち上がろうとなさるのです。


「ああっ、そんな状態で立ち上がっては危険ですわ!」


 わたくしは見かねて忠告をいたしました。

 ですがそれを無視して立ち上がったクコロお姉様。


 彼女は濡れた床に足を取られ、おコケになられます。

 そして悔しそうにして、濡れた床をペタペタお叩きになるのです。


「こっ、このっ! この床っ、この床めっ! またしても卑怯な! もう許さないわ!」


 彼女は、今度はコケないように机に掴まりながら慎重に立ち上がります。

 それから、わたくしをキッと見ておっしゃいました。


「サツキ! 私の恐ろしさを教えてあげるわ! 私は攻撃魔術が使えるのよ!」


 まあっ、クコロお姉様は攻撃魔術をお使いになるの?


 魔術師のランクは上から、A級、B級、C級、D級、E級となっており、E級魔術師は攻撃魔術を扱うことができません。

 つまり、攻撃魔術をお使いになるクコロお姉様の魔術師ランクは、D級以上ということになります。


 彼女はどのような攻撃魔術をお使いになるのでしょう?

 わたくし、気になってしかたがありませんわ!


 わたくしが興奮していると、クコロお姉様はニヒルに唇を吊り上げておっしゃいました。


「あなたも少々魔術が使えるようだけど、私がその気になればあなたなんて一瞬で消し炭よ。どう? 恐ろしいでしょう? 謝るなら今のうちよ」

 と、芝居がかった動きで両手をお広げになります。


「それとも負けると分かっていながら、私と魔術試(マジカルファ)――」


魔術試合(マジカルファイト)ですって!? 是非やりましょう!」


「――(イト)でもする?……え?」


 魔術試合(マジカルファイト)と聞いては黙っていられませんわ!


「わたくし、魔術試合(マジカルファイト)というものを一度やってみたかったのです! 両親や家庭教師には危険だからと止められているのですが、A級魔術師を目指す者ならば、一度は通る道ですものね!」


「き、危険だから両親に止められている? そんなレベルで私と勝負しようっていうの?」


 クコロお姉様は目をパチクリしながらわたくしを見つめます。

 おそらく彼女は『正気なの? この妹は?』とでもお考えになっているのでしょう。


 あっけにとられたようなお顔から渋いお顔になったクコロお姉様は、


「私も舐められたものね……。いいわ、やってやる! 死んでしまっても恨まないで!」


 などとおかしな事をおっしゃるのです。


 わたくしとウヅキお姉様は顔を見合わせました。


「まあっ、死んでしまったら恨むことなんてできないですよね? クコロお姉様は面白い方だわ。ホホホ」


「そうね、死んでしまったら恨むことなんてできないわ。クコロお姉様のバ〜カ。あははっ」


 するとお顔を真っ赤にしてクコロお姉様はお怒りになるのです。


「バカにするなぁ! 表に出なさい!」


 こうして、わたくし達は教室から学園のグラウンドへと場所を移すことになったのですわ。



***



 さて、 魔術試合(マジカルファイト)について簡単に説明いたしましょう。


 前提として、魔術を使うには魔術陣を描かなければなりません。それから詠唱を行うことで魔術が発動します。


 そして 魔術試合(マジカルファイト)では、魔術を相手にぶつけるような野蛮なマネはいたしません。


 魔術陣を一つ描き、相手の魔術陣に向かって同時に魔術を放つのです。


 そうするとお互いの魔術がぶつかり合い、競り勝ったほうが相手の魔術陣へ到達します。


 そして、相手の魔術陣を破壊した方の勝ち。


 魔術がぶつからずにお互いの魔術陣へ到達した場合は、魔術陣の損傷具合で勝ち負けが判断されます。



***



「私が審判をしてあげるわ!」

 と、ウヅキお姉様は楽しそうにおっしゃいました。

 彼女は何かを仕切りたくてたまらないお年頃なのです。


 グラウンドに 魔術試合(マジカルファイト)のための白線を引き始めた彼女に、クコロお姉様が眉をひそめておっしゃいました。


「あなたが審判を? 私に不利になるような判定をするんじゃないの?」


「何言っているのよ。 魔術試合(マジカルファイト)の勝敗なんて誰が見ても一目瞭然でしょう? 審判なんて、試合開始の掛け声をして、勝者を告げるだけじゃない」


「ふん、いいわ。審判とグルの女なんかに私は負けない!」


 わたくしとクコロお姉様は 魔術試合(マジカルファイト)のコートに入ります。

 そして、指定された枠内に魔術陣を描きます。

 わたくしは無属性の魔術陣を描き、クコロお姉様は火属性の魔術陣を描かれたようですわ。


 準備が終わったクコロお姉様は、わたくしの魔術陣を見てあざ笑うのです。


「あら、ナマイキに魔術陣だけは描けているわね。けど、そこからちゃんと魔術を発動させられるの?」


 彼女は、いかにも『私は魔術の玄人なのよ』とでも言いたげな調子でお続けになりました。


「時々いるのよねぇ。魔術陣と詠唱の知識だけはあるけれど、魔力が足りないとか制御ができないとかで、魔術を発動させることができない人って」


 まあっ、彼女の指摘は鋭いですわ!


「わたくしもそのタイプですわ。魔力に関しては問題ないのですが制御が苦手ですの」


 すると、

「やっぱりね! でも魔力に関しては問題ないって? 随分と大口を叩くのね!」

 とお笑いになるクコロお姉様なのでした。




 ウヅキお姉様はわたくし達の準備ができていることを確認しておっしゃいました。


「ふたりとも準備はできたわね? 始めるわよ」


 わたくし達が頷くと、ウヅキお姉様は咳払いを一つし、試合開始の合図をなさいます。


「マジカルゥマジカルゥ! レディ…………ファイト!」


 開始の合図に合わせて、わたくし達は魔術を詠唱します!


火球弾(ファイヤーボール)!」

核撃爆破(エクスプロージョン)!」


 クコロお姉様の魔術陣から複数の火の玉が現れました!

 その炎はまさに地獄の業火。


 それらはわたくしの魔術陣に狙いを定め、勢い良く飛んでまいりました!

 そしてそれが到達する前にわたくしの核撃爆破(エクスプロージョン)が発動します!


……ですが、やはりわたくしには魔術の制御ができませんでした。


 核撃爆破(エクスプロージョン)は指向性を失い、その結果、無差別に爆発が発生いたします。

 ドドドという爆音とともにグラウンドのあちこちで起こる爆発。


 その爆発は、わたくしとクコロお姉様が立っている空間の真ん中でも起き――


 クコロお姉様の火球弾(ファイヤーボール)を消し去りました。


 偶然にも上手くいった、と思ったのもつかの間。

 そのあまりに大きな爆発は、わたくしとクコロお姉様が描いた魔術陣をも消し去ってしまったのでした。




 グラウンドの土が舞い上がり、砂煙があたりを包みます。


 やがて砂煙が晴れると、そこにはわたくしと、驚いているウヅキお姉様、そして地面にぺたりと座り込んでいるクコロお姉様が現れました。


 魔術陣が描かれていた地面は核撃爆破(エクスプロージョン)によって大きくえぐれています。

 両者の魔術陣はあとかたもありませんでした。


「引き分け、ですわね」

 わたくしが呟くとウヅキお姉様もおっしゃいます。


「……そうね、引き分けね」


 ですがクコロお姉様はわたくし達の言葉が耳に入らないようです。


「な……なんてデタラメな魔力なの!? 危険だわ! この妹を生かしておくのは危険だわ!」


 と取り乱して、わたくしに手のひらを向けるのです。


 その手のひらには魔術陣が描かれています!


 あれは雷属性の魔術陣!


 わたくしは叫びます!


「おやめなさい! 危険ですわ!」


「もう遅いわ! 喰らいなさい! 断罪の雷光ライトニング・サンダー!」


 ずぶ濡れのクコロお姉様の手のひらから放たれたカミナリは――




 当然、彼女自身へ向かいます。


「あば? あばばっ! あばばばばばばばっ!」


 クコロお姉様は痙攣してその場にお倒れ込みになられました。


 電撃系の魔術は術者から離れたところへ魔術陣を描くのがセオリーですのに……。

 それに体が濡れた状態では自殺行為ですわ。


 ですが、幸いなことに彼女の命に別状ないようでした。

 気を失ってはいますが心臓は動いているようですし、呼吸も正常です。

 ひとまずは安心ですわね。


 ウヅキお姉様は、ところどころ黒焦げになったクコロお姉様を指差して「コレ、どうする?」とお聞きになりました。


「下級生棟の入り口に魔術通信具(コミュニケータ)があったはずですわ。あれで医療機関へ連絡しておきましょう」


 わたくしはそう言って、下級生棟へと向かうのでした。



***



 クコロお姉様が運ばれた後、教室に戻り水浸しになっていた床を拭いていると、ふと思い出したことがございます。


 そういえば『やり過ぎるな』とリオン様はおっしゃっていましたわね。


 クコロお姉様は黒焦げになられました。

 これはやり過ぎにあたるのでしょうか?


 ですけど、わたくしが手を下したワケではないですわ。


 クコロお姉様が自滅しただけ。

 むしろ、ご忠告差し上げたのですから、わたくしは加害者ではありませんよね!


……そうですよね?



***



 ですが、王位継承権を管理している『王位継承権管理省』はそう考えていなかったようです。

 その夜、わたくし宛に、王位継承権管理省の印が押された真っ黒な封筒が届いたのです。

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