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第四話 新たな刺客現る

 それはおとうさま、おかあさまが出張に向かわれた次の日のことでした。

 学園でわたくしへの嫌がらせが再開されたのです。


 教室のイスに座ると、頭上から金ダライが落ちてきたり、大量の水が降ってきたり。


 嫌がらせの内容は子供じみていますが、その仕掛けはそうではありません。

 素人には防ぐことすらできない、魔術を使った嫌がらせでした。


 ですが、魔術の手ほどきを受けていたわたくしは、罠が発動する前に魔術を解除できました。

 魔術を教えてくださった、おとうさま、おかあさまには感謝の気持ちしかありません。


 わたくしは手早く罠を解除した後、自分の席に座って考え始めました。


 これは少々奇妙ですわね。

 サファーお姉様とのイザコザを解決して以来パッタリとやんでいた嫌がらせが、両親の出張に合わせて再開されたのです。

 何者かの思惑を感じますわ。


 わたくしが考えていると、第9999王女のウヅキお姉様がやってきます。


「サツキ、聞いたわよ。第9646王女のサファーを撃退したようね」


「そのようですわね」


 撃退と言われ、わたくしは少し悲しくなります。

 わたくしが善意でやったことが、サファーお姉様を苦しめてしまったのですから。


 ですが、わたくしの悲しみに気付かないウヅキお姉様はニヤリとしておっしゃいました。


「ふん、やるじゃない。でも次はこうはいかないわよ」


 次というのは、わたくしの席に罠を仕掛けた犯人のことでしょう。

 情報通である彼女のことです。すでに何かを掴んでいるのかしら?

 わたくしはウヅキお姉様に尋ねてみました。


「ウヅキお姉様は、何かご存知なのですか?」


「ええ。あなた、とんでもない人に目を付けられたのよ。今度こそあなたは私に頼るしかないのよ。フフフ、私に泣きつく姿が目に浮かぶようだわ!」


 『とんでもない人』……?

 わたくし、そんな方に目を付けられるようなことをした覚えはありません。


 昔は特に理由もなく、わたくしをいじめていた方もいらっしゃいました。

 王位継承権が五桁の、頭の出来がおめでたいお姉様方がほとんどでしたが。


 まあ、今回の犯人さんは嫌がらせ程度のことにわざわざ魔術をお使いになるような方です。

 頭の出来がおめでたいことには変わりありませんわね。


「わたくしは大丈夫ですわ。度々ご忠告いただきましてありがとうございます」


「だからなんでそんな余裕ぶるのよ! 誰に狙われているのかとか気になるでしょ? 聞きなさいよ!」


「いえ、ウヅキお姉様に迷惑はかけられませんから。他の方にお聞きいたします」


「なんでよ! そこは私でいいじゃない! 私を頼りなさいよ!」


 第9999王女のウヅキお姉様には妹が一人しかいません。

 その妹とは、そう、第10000王女のわたくしです。

 きっと彼女はお姉様ぶりたいお年頃なのでしょうね。


 フフ、微笑ましいわ。


「なんなの! その小さい子供を見るような目つきは! ちょっと、やめなさい! 頭を撫でないで!」


 わたくしが出した手を振り払ってお叫びになるウヅキお姉様は、まさに小さなお子様です。

 彼女を見ていると、微笑ましくて嫌がらせのことなんか忘れてしまいそう。

 ホホホ、なんだか癒やされてしまいますわ。



***



 その日、わたくしが帰宅すると、玄関の前でリオン様が立っておられました。

 そしてわたくしを見るなりおっしゃいます。


「サツキ、おかえり。今日から魔術のレッスンを進めよう。キミ専用のカリキュラムがようやく完成したんだ」


 まあ、家庭教師(タダ飯喰らい)のリオン様。ようやくお仕事を進める気になってくださったのね。


 うちは貴族との付き合いも多いため、たくさんのお金が必要です。

 わたくしも家計の足しにと思って内職などをしていますが、焼け石に水。

 タダ飯喰らいを置いておけるほど裕福な家庭ではありませんの。


 わたくしはカバンを地面に置き、リオン様に向かい合います。


「では、早速お願いいたします」


「いや、せめて着替えてきたらどうなんだ?」


「そんな時間があれば魔術のレッスンをしたいわ! 早く! 早くお願いします! レッスンプリーズ!」


「わ、分かった。分かったから、まずはこれに目を通してくれ」


 リオン様はそう言って薄い冊子を差し出します。

 表紙には『サツキ専用魔術強化プログラム』と書かれていました。

 わたくしがそれを受け取ると、リオン様がおっしゃいます。


「キミの実力はD級魔術師に届くか届かないか、といったところだろう。だが、幼い頃からご両親より英才教育を受けていたおかげか、キミの魔力量はA級魔術師にも劣っていないようだ。これには私も驚いたが」


「ええ、わたくしは十分な魔力があるにも関わらず、D級以上の魔術を扱うことができませんの。これでも努力はしているのですが……」


「まあ、キミの歳でそのレベルの魔術師はそうそういない。そう悲観的になるものではない」


「でも、私は早くA級魔術師になりたいの!」


 わたくしが魂の叫びを上げると、リオン様は半歩下がっておっしゃいました。


「落ち着いてくれ。そのためにこのカリキュラムを考えたんだ。私が思うに、キミは王国式の魔力の取り扱いが苦手なのかもしれない。そこで提案だが、帝国式に切り替えてみる気はないか?」


「帝国式ですか……? 敵国のやり方を勉強しろとおっしゃるの?」


「無理強いはしない。キミに抵抗がなければ、の話だ」


 抵抗はもちろんあります。

 ですが、それもA級魔術師になるためならば!


「やりますわ! A級魔術師になるためですもの。わたくし、やってやりますわ!」


 するとリオン様はニコリとして頷いてくださいます。

 わたくし、リオン様が笑ったのを初めて見ましたわ。


 なかなかステキな笑顔ではありませんか。

 仏頂面など止めて、そうして微笑んでいればもっとおモテになると思います。


 ですが、すぐにいつもの表情にお戻りになったリオン様。

 わたくしのレッスンを始めるために冊子を指差しておっしゃるのでした。


「うむ、ではまず1ページを見てくれ。これが帝国式魔術の基本だ」


 こうして帝国式魔術のお勉強を始めたわたくし。

 リオン様の教え方も、やはりお上手です。


 どうやら、高い魔力を持つ人は帝国式のほうが向いているようなのです。

 レッスンを重ねるうちに、わたくしは少しずつですが上達を実感できるようになってまいりました。



***



 さて、わたくしが気になっていた学園での嫌がらせですが、数日たっても止む気配がありません。

 毎朝自分の席に座る前に、仕掛けられた魔術を解除するのが日課となってしまいました。

 さすがのわたくしもだんだんと憂鬱な気分になってきます。


 アンニュイなわたくしは、頬杖をつきながら窓の外を眺めます。


「いっそのこと、わたくしも犯人さんに仕返しができたらいいのですが」


 そう呟いて、わたくし、ふと思いついたことがございます。


……そういえば、昨日リオン様から教わった魔術に、変わったものがありましたわね。王国では珍しいあの魔術、試してみようかしら?


 例え一瞬でも、魔術のことが頭によぎってしまったらおしまいですわ。

 わたくしは新しい魔術を試したくて試したくて仕方がありません。

 そのことで頭が一杯になり、その日の講義は耳に入ってきませんでした。


 上の空となったわたくしを、先生やクラスメートの方々は不思議に思われていたことでしょうね。




 放課後、わたくしはクラスメートのみなさんが教室を出ていくのを待っていました。

 やがてわたくし以外に誰もいなくなった教室。

 わたくしは自分の席の前に立ちます。


 ドキドキしながら教わったばかりの魔術を机に仕掛けます。

 そしてワクワクしながら家路につきました。


 新しい魔術を試すことができる上に、犯人さんへのイタズラも出来るなんてステキだわ。

 ああ、明日が楽しみです!

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