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第三十九話 暗躍する第7777王子

 ヨイチお兄様とトウカお兄様は、気絶した『チキン剣士』さんを家の中に運び、イスへ縛り付けました。


 これから剣士さんには、第7777王子スヴィーニツお兄様の情報を話していただきます。

 スヴィーニツお兄様が持つ『天運の短剣』の情報も得られればよいのですが……。


「剣士さん、起きてくださいな。剣士さん」


 わたくしは剣士さんの肩を揺らしながら声をかけました。

 剣士さんは「うーん」と唸り声を上げてお気付きになります。


 そしてわたくしを見て、

「むっ! 貴様! よくもこの俺を! くっ、身動きが取れん! この縄を解け!」

 と、お喚きになられました。


「お断りしますわ。縄を解けば剣士さんは暴れるおつもりでしょう? もしお暴れになったら剣士さんの命の保証はできませんわ。わたくしの仲間が黙っていないはずですから。おとなしく縛られていた方が身のためですわ」


 わたくしはそう言いながら後ろを振り向きます。

 そこにはわたくしの仲間たちが立っています。

 皆さんは剣士さんに対してお怒りのようで、彼を鋭い目つきで睨んでいらっしゃいました。


 剣士さんは敵地に囚われてしまったことを知ってお焦りになります。


「こ、これほどの人数がいたのかっ! きょ、今日のところは見逃してやる! 俺は帰る! だからこの縄を解け!」


「まあまあ、もう少しゆっくりしていってくださいな。わたくしもあなたにお聞きしたいことがありますので。そう、例えば、スヴィーニツお兄様の最近のご様子などをお聞きしたいのですが?」


「何だと! まさかこの俺からスヴィーニツ様の情報を得るつもりか!? フン! 俺は口が堅いぞ! 情報を漏らしたことがないということが俺の自慢なのだ! 絶対に仲間は売らんぞ!」


 まあっ、チキン剣士(じょうほうや)さんのくせに、情報を出し渋るおつもりなのね!

 では仕方がありませんね!


 わたくしは笑顔で剣士さんに近付いていきます。


 すると剣士さんは、イスに縛り付けられたままガタガタと後ずさり、

「まままままま待て! 近づくな! 何をする気だ!」

 と、おっしゃいました。


「何って、ただ、剣士さんをオモテナシしようと思っているだけなのですが……」


「待て! 貴様の笑顔の裏に、何か恐ろしいものを感じる! オモテナシなどいらん! 俺の知っていることなら何でも教えてやる! だから近づくな!」


 口が堅いことを自慢になさっていた彼は、一瞬で手のひらをお返しになりました。

 教えてくださるのはありがたいのですが、数秒前に言っていたことをあっさり覆した剣士さんには、わたくし、少し呆れてしまいましたわ。


「では、剣士さん。まずは『天運の短剣』がどこにあるのか教えてください」


「『天運の短剣』は、スヴィーニツ様が持っているはずだ。だが、この数ヶ月、スヴィーニツ様は姿を隠している。『幸福評議会(シャングリ・ラ)』のメンバーでさえ、彼の居場所は分からないのだ」


「どういうことですか? ではスヴィーニツお兄様は、どうやって『幸福評議会(シャングリ・ラ)』の方々を動かしているのです?」


「『幸福評議会(シャングリ・ラ)』の本部には、毎日スヴィーニツ様からの指令書が届けられるのだ。『幸福評議会(シャングリ・ラ)』はそれに従って行動する。スヴィーニツ様の居場所は俺達にも分からないのだ」


「身を隠していらっしゃるなんてスヴィーニツお兄様は随分と用心深いのですね。では、スヴィーニツお兄様は今後、どのような方針をお取りになるのでしょうか? 彼が『鉛の心臓』の入手を諦めたとは思えませんが……?」


「今日貴様らが『幸福評議会(シャングリ・ラ)』を撃退したことを受け、スヴィーニツ様は第7777王女の暗殺をいったん諦めた。スヴィーニツ様は別の方法で『鉛の心臓』を手に入れるつもりなのだ」


「別の方法ですか?」


 わたくしが尋ねると、剣士さんはニヤリとして自慢げにおっしゃるのですわ。


「フフフ、そうだ。『鉛の心臓』の原石が、『死の山』の洞窟にあるらしいのだ。スヴィーニツ様はその原石を手に入れ、『鉛の心臓』を作成し、『天運の短剣』を完成させるつもりなのだ!」


「なんですって? 『鉛の心臓』の原石が存在するのですか!?」


「そうだ! すでに『幸福評議会(シャングリ・ラ)』は、かの高名な傭兵団『碧眼の狼』に『死の山』攻略を依頼した! 彼らが『鉛の心臓』の原石を持ち帰れば、第7777王女に埋め込まれている『鉛の心臓』など不要! 『天運の短剣』が完成したあかつきには、スヴィーニツ様は貴様らを一人残らず破滅させるハズだ! フハハハ!」


「それは大変だわ! ですが……ツバメお姉様が命を狙われることは、ひとまずは無くなったと考えていいのかしら?」


「何を言っておる! 懸賞金は掛けられたままだ! 傭兵団『碧眼の狼』が『鉛の心臓』の原石を手に入れる前に第7777王女を殺すことができれば、私は777777777ゴールドもの大金を手に入れられるのだ! だから俺は諦めんぞ!」


「……なるほど、良く分かりましたわ。では情報を下さった『チキン剣士』さんには、やはりオモテナシをしましょうか」


 ツバメお姉様の命を狙い続ける剣士さんには、もっとお仕置き(おもてなし)が必要ですわ。

 彼が諦めるまで、わたくしもお仕置きを止めるつもりはありません。

 また懲りずにやって来るようなら、お仕置きのレベルも上げていくつもりですわ。


「ま、待て! 今日のところは帰りたいのだ! だから早く縄を解け!」


 慌てる剣士さんに、わたくしは微笑みます。


「ホホホ、遠慮なさらなくてもいいのですよ」


 わたくしがパチンと指を鳴らすと、侍女のエミリーさんがテーブルの上に『例のお茶漬け』を置きました。

 それをポカンと見ているチキン剣士さんに、わたくしが説明いたします。


「こちらのお二人、シン先輩とホワイトさんがオススメする料理ですわ。ご賞味ください。きっと気に入ってくださるはずです」


 するとチキン剣士さんは目を見開き、イスを引きずりながらテーブルに近付きました。


「イカスミリゾットか……! 俺はリゾットには目がないのだ。敵に振る舞われた食事だが、遠慮はせん!」


 彼は食べる気満々ですわ。

 ですので、わたくしは彼の縄を解き「さあ、ご賞味ください」と言いました。


「すまんな。ではいただこう!」


 ちょっと嬉しそうなチキン剣士さんは、器を抱えるとゴクゴクッと一気にお飲みになりました。


 そして、全部平らげてから、

「何だこれは! ただの泥水ではないか!」

 と、お叫びになりました。


「ゴホッゴホッ! 泥水を飲み込んでしまったぞ! グゥッ!? は、腹、が、痛い……!」


 チキン剣士さんはお腹を押さえながら、床をゴロゴロ転がります。


「あら、『泥水』だなんて言ったら、シン先輩に怒られてしまいますわよ? ですので彼が怒りだす前に、剣士さんにはお帰りいただいた方がよろしいですわね」


 ヨイチお兄様とトウカお兄様が、転がっている剣士さんを捕まえて外へと引きずっていきます。

 わたくしも剣士さんをお見送りするために、彼らの後へ続きました。



***



 ヨイチお兄様とトウカお兄様に引っ立てられて、家の庭に立たされたチキン剣士さん。

 わたくしは、お別れのご挨拶をいたします。


「ではさようなら! お帰りの際には、王国名物『水竜川下り』をお楽しみくださいな!」


「なんだと!? どういう意味だ!? これ以上何をするつもりだ! 俺をどうするつもりだ!?」


 困惑する剣士さんに、わたくしは手のひらを向けます!


「こうするのですわ! 核激爆破(エクスプロージョン)! 核激爆破(エクスプロージョン)! 核激爆破(エクスプロージョン)!」


 剣士さんは、一つ目の核激爆破(エクスプロージョン)で空に舞い上がり、二つ目の核激爆破(エクスプロージョン)でわたくしが狙った方向へお吹き飛びになりました。

 そして最後の核激爆破(エクスプロージョン)で真下に落下なさいます。


 そこには大きな川が流れています。


 家の近所にある、王国屈指の大河『水竜川』です。

 ちょっと流れが急な川ですので、海までノンストップで移動できますわ。


 川の真ん中にボチャンと落ちた剣士さんは、藻掻(もが)きながら叫びます。


「ぬおー! 流されるぅー!」


 剣士さんは凄まじいスピードで下流へと流されていきました。

 彼には川を下りながら反省していただきましょう。




 剣士さんの情報により、『死の山』に『鉛の心臓』の原石が存在するということが判明しました。


 スヴィーニツお兄様はそれを手に入れ、『天運の短剣』を完成させるおつもりです。


 強力な呪いで国を滅ぼしたこともあるという『天運の短剣』。

 それが完全なものとなってしまえば、この王国にも不幸が訪れるのは確実です。


 そして恐らくは、わたくし達にも破滅の未来が訪れるのでしょう。


 ツバメお姉様を守るため、そして王国を守るため、傭兵団『碧眼の狼』より早く『死の山』を攻略し、『鉛の心臓』の原石を入手しなければいけません!



***



 次の日、わたくしはマーチお姉様がいらっしゃる治安維持省へ行きました。

 ボームお兄様のお仕事を引き継ぎ、300人の部下を譲り受けるためです。


 わたくしがマーチお姉様に事情を説明してお願いすると、彼女は快く承諾してくださいましたわ。

 そして、こうおっしゃいます。


「サツキ、仕事を引き受けてくれたついでに、もう一つお願いがあるのだけど」


「何でしょうか?」


「これから『死の山』に行くのよね? 私もあなた達に同行したいのだけど、いいかしら?」


「マーチお姉様が来てくださるのは心強いですが、いいのですか? お姉様には、お仕事がたくさんお有りなのでは……」


 マーチお姉様の仕事量は凄まじく多いハズです。

 そのたくさんのお仕事を抱えながらわたくし達を手伝ったりなんかしたら、彼女は過労死してしまわれるのではないでしょうか?


 わたくしが心配していると、マーチお姉様がおっしゃいます。


「その私の仕事に関係がありそうなのよ。『死の山』には傭兵団『碧眼の狼』がいるのでしょう?」


「ええ、昨日やって来た剣士さんは、そのようにおっしゃっていましたわ」


「サラサお姉様とも繋がりのある組織が暗躍してるって、前に言ったわよね? その組織が『碧眼の狼』なの。私は『碧眼の狼』の動向を調べていたのだけど、中々尻尾を掴めなくて苦労していたのよ。あいつらが『死の山』にいるのなら手がかりを得るチャンスだわ」


「まあっ、サラサお姉様は傭兵団『碧眼の狼』と繋がりがあるのですか? 今回の事件にはサラサお姉様は関係がないと思っていましたのに……。分かりましたわ、マーチお姉様。わたくし達と一緒に『死の山』へ行きましょう」


 ということで、マーチお姉様も『死の山』に付いてきてくださることになったのですわ。



***



 わたくしとその仲間たちで『死の山』へ行くメンバーを決めます。


 まず、わたくしが名乗りを上げます。

 他の皆さんは、危険だからやめておけとおっしゃるのですが、わたくしがいないと始まりませんわ!


 わたくしが『死の山』に行くと言ってきかないので、お目付け役のリオン様もメンバーに加わりました。

 もちろん、『死の山』で一年間お暮らしになっていたシン先輩もメンバーです。


 『死の山』に詳しいシン先輩がおっしゃるには、メンバーは少数のほうがいいとのことでした。

 ですので、以上の三人にマーチお姉様をくわえて『死の山』攻略メンバーといたします。


 残ったメンバーの皆さんには、寄せ集めた400人の方々の再編成と、わたくしの家の防衛をお願いしました。




 さて、いよいよ出発ですわ!


 わたくしとリオン様、シン先輩とマーチお姉様は『ユニコーン交通』の駅へやって来ました。

 そして『死の山 行き』の馬車に乗りこみます。


 わたくし達が乗った馬車は、ユニコーンに引かれて街を出ました。

 ユニコーンは物凄いスピードで駆けていきます。

 街は遠ざかっていき、やがて地平線の彼方へ沈んでいきました。


 太陽の光がさんさんと降り注ぐ平原を、馬車が走っていきます。

 わたくしが馬車の窓を開けると、爽やかな風がわたくしの頬に当たります。


 これから恐ろしい魔物が闊歩する『死の山』へ行くというのに、わたくしの気分は悪くありません。

 わたくしは街の外に出たことが殆どありませんし、馬車に乗るのも初めてですので、少々浮かれているようですわ。


 目を輝かせて窓の外を見ているわたくしに、リオン様がおっしゃいます。


「サツキ、遊びに行くのではないんだ。もう少し緊張感を持ちなさい」


 振り向くと、リオン様は呆れるような目でわたくしを見ています。


 彼は緊張感を持てとおっしゃいますが、今から緊張していたら身が持ちません。

 それに、わたくしにとっては初めての遠出なのです。

 少しくらい大目に見てくれてもいいと思いますわ!

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