第三十五話 遥かなる理想郷 〜Shangri-La〜
わたくしの家を襲撃した『幸福評議会』の方々に向かって、リオン様、ヨイチお兄様、トウカお兄様の三人が突撃し、暴れまわります!
「オラオラオラ! みね打ちだ!」
ヨイチお兄様が剣を振り回しながら、目の前の敵さんをお倒しになっていきます!
ですが、『みね打ち』だなんて……。
ヨイチお兄様ったら、リオン様の変な口癖に影響されてしまったのですね!
変なところをマネしないように、後で注意しておかないといけませんわ!
対して黙々と拳を繰り出し、お倒れになっている敵さんを、無慈悲におボコりになっているトウカお兄様。
トウカお兄様のお顔には、天使のような笑顔が張り付いていますわ。
おボコりになられた方は今日のことを思い出すたび、彼の笑顔がフラッシュバックし、お震えになることでしょう。
そして最強剣士のリオン様、本日は二刀流ですわ!
リオン様は舞うような身のこなしで、長い二本の刀をヒュンと振り、周りの敵さんを吹き飛ばしていきます!
「くそう! なんてヤツらだ! ええいっ! コイツらは無視しろ! 無視して家に突撃するんだ!」
司令塔らしき方が命令なさいます!
すると『幸福評議会』の方々は、リオン様達を避けるようにして、わたくしの庭に侵入しようとなさいます!
入り口から庭へとなだれ込む大量の敵さん達。
彼らを待ち構えていたのは、『死の山』にて野生の気高さを獲得した上級貴族シン先輩と、雷魔術を極めんとする魔術クラブの副部長ライデン先輩です。
シン先輩は素早く魔術陣を描き、叫びます!
「か弱い女性の命を付け狙う貴様らに、容赦などせん! 第七天獄!」
シン先輩の魔術陣から聖なる光の縄が出現し、庭に侵入したすべての敵さんを縛り付けます!
すかさずライデン先輩が合図をなさいました!
「クコロ! やれ!」
「ハイ! 天の怒り!」
クコロお姉様の天の怒りが、あらかじめ描いてあったライデン先輩の魔術陣に直撃します!
すると、そこからは雷で象られた巨大なオオカミ達が現れました!
「オッ、オッ、オオカミだぁ!」
「コッチを見てやがる!」
「オタスケー!」
敵さんたちはオオカミから逃れるために藻掻きますが、どうやっても聖なる光の縄をほどくことができません。
「行けっ! オオカミ達!」
ライデン先輩が叫ぶと、オオカミ達は光の縄で縛られている敵さんに体当りし、彼らを感電させました!
シン先輩、ライデン先輩、クコロお姉様による、素晴らしい連携攻撃ですわ!
彼らの息のあったコンビネーションに、わたくしは思わずガッツポーズをします!
わたくしも彼らのサポートをいたしましょう。
二階から敵さんを爆撃ですわ。
わたくしが魔術陣を描こうとしたその時、こちらの司令塔であられるウヅキお姉様がお叫びになられます。
「サツキ! アイツら、北側の裏口に侵入しようとしているわ!」
わたくしは慌てて北側の部屋に飛び込んで、庭を確認します。
はたしてその部屋からは、大勢の敵さん達を認めることができました。
彼らは北側の塀を乗り越えて、庭に侵入しようとなさっています!
彼らを撃退するのが先ですね!
「数が多いですわ! ヤヨイお姉様、フレア先輩、先程打ち合わせしたアレをやりますわよ!」
「おうよ!」
「分かったわ!」
わたくしが窓から屋根に向かって叫ぶと、屋根の上にいるお二人は返事をし、そして同時に詠唱なさいました。
「豪火球!」
「豪火球!」
お二人の豪火球は、裏口に近づく敵さんの頭上で融合し、小さな太陽となりました。
わたくしは、それ目がけて――
「核撃爆破!」
小さな太陽は核撃爆破によって爆散します!
成功ですわ!
『魔術クラブ』の火力トップ3メンバーによる合成魔術、『小宇宙の誕生』が!
敵さんには容赦なく炎のかけらが降り注ぎます!
「火の雨だ! 逃げろ!」
「ダメだ! 間に合わんぞ!」
「ぎゃあああ! 燃えるっ! 服が燃える! 髪が燃える!」
「いかん! このままでは全滅する! 退却だぁっ! 退却せよっ!」
司令塔さんが庭からの退却命令を出し、燃えさかる敵さん達は逃げるために背中を向けました。
その瞬間、ヤマト先輩が素早く幻属性魔術を発動なさいました!
「戦慄の安息日!」
幻属性魔術は心のスキを突きます。
戦意を失い、敵前逃亡するような方々には効果はバツグンですわ!
敵さん達は戦慄の安息日によって混乱し、味方同士で殴り合いを始めました。
彼らは同士討ちでバタバタ倒れていきます!
かろうじて正気を保っている敵さんは、塀をよじ登り、庭の外に逃げようとなさいます。
そんな彼らにはわたくし達から魔術のプレゼントですわ!
「逃しません! 核撃爆破!」
「逃がすかよ! 火球弾!」
「逃さないわ! 赤い彗星!」
ホホホ! 皆さん、お吹き飛びになっていきますわ!
***
前衛部隊『バーサーカーズ』による破軍の進撃と、『魔術クラブ』による鉄壁の防衛によって、大勢は決しました。
後は、逃げようとなさる『幸福評議会』の方々を、逃さないように打ち倒していくだけですわ。
二度と彼らがツバメお姉様の命を狙うことがないように、念入りにお仕置きしておかなければいけません!
「みね打ちだぁ!」
「核撃爆破!」
「火球弾!」
「核撃爆破!」
「断罪の雷光!」
「核撃爆破!」
「破氷弾丸」
「核撃爆破!」
「大地の怒り!」
「核撃爆破!」
「黒の聖典!」
「核撃爆破!」
やがて、立って動く金ピカの服を着た方は一人もいなくなりました。
彼らはうめき声をあげながらうずくまっていますわ。
わたくし達は、777人もの『幸福評議会』の皆さんを、一人残らず打ち倒したのです!
ヨイチお兄様が高く掲げた剣を振り、勝鬨をあげます!
「全員倒したぜ! 俺たちの勝ちだ!」
すると、サツキと愉快な仲間たちは喜びの声をあげ、健闘を称え合うのでした。
そして、遠くからわたくし達の戦いを眺めていた近所の皆さんからも、拍手が起こりました。
ふう、いい汗をかきましたわ。
***
「ツバメお姉様とわたくしの家を守ってくださった皆さんには、お食事を用意させて頂いています。リビングに戻って待っていてくださいな」
わたくしは仲間の皆さんにそう伝えます。
頑張ってくださった皆さんには、ごちそうを用意させて頂いてあります。
上級侍女エミリーさんによる最高のディナーを味わっていただきましょう!
ちなみに、メインディッシュには、なんと!
あの超人気レストラン『ガッツリごはん亭』の超人気メニュー『女神様もびっくり! とろ~りチーズ in ハンバーグ』を用意しているのですわ!
以前『ガッツリごはん亭』で働いていたエミリーさんのコネで、特別にテイクアウト出来ることになったのです。
あのハンバーグならば舌の肥えた上級貴族の方々にも大満足していただけるはずです。
さて、皆さんにディナータイムを満喫してもらっている間に、わたくしはもう一仕事やらなければいけませんわ。
家の周りに金ピカが転がっていたら眩しくて仕方がありませんし、何より近所の皆さんの通行の妨げになってしまいます。
金ピカに気をとられて、交通事故を起こさないとも限りませんし、早めに片付けないといけませんわ。
わたくしは『携帯型魔術通信具』で『飛竜便』さんをお呼びいたします。
えっ?
何故、貧乏貴族のわたくしが『携帯型魔術通信具』のような高価な物を持っているのか、ですって?
先日のトーナメントの時に、ポームお姉様から借りたのですわ。
わたくし、彼女に返すのをうっかり忘れていたのです。
これも早く返さないといけません。
しばらく待っていると『飛竜便』の配達員さんが、たくさんの飛竜達を連れてやってきました。
「いつもご贔屓いただきまして、ありがとうございまーっす。配達率100%、安心と信頼の飛竜便でーす」
配達員さんは飛竜から降り立つと、帽子を取って頭を下げました。
彼はわたくしに向かって嬉しそうにおっしゃいます。
「いやー、お客さんのおかげで事業が拡大できやした。前回、前々回のお仕事でかなりの利益を出せたのでー。そのお金で飛竜達にご飯を沢山食べさせたのでパワーアップしてますし、新しい飛竜達も買うことができたので、今後はどれだけたくさんのお荷物でも一気にお運びいたしやすよ!」
「それは凄いですわ! わたくしも『飛竜便』さんにはお世話になっているので、お役に立てたようでよかったですわ」
「いえいえ~、こちらこそ感謝っす! それで、ナマモノ料金は現在、感謝価格で半額となっておりまっす!」
まあっ、半額ですって!?
なんていうサービスなの!?
相変わらず『飛竜便』さんは素晴らしいわ!
わたくしは破格のサービスに驚きながらも、配達員さんにお願いをします。
「今日はこの777個の金ピカを運んでいただきたいのです」
「了解っす。どこまでお運びいたしやしょうか?」
「スヴィーニツ様宅までお願いします」
すると、配達員さんは申し訳なさそうなお顔でおっしゃいます。
「……すいやせん。スヴィーニツ様は、この街にお屋敷を持っていらっしゃらないっす。『飛竜便』のサービスはー、今のところこの街だけなので……。スヴィーニツ様のお屋敷は街の外にあるので、そこまで運べるのは全国ネットワークを持っている『ベルゼブブ便』だけっすね。『ベルゼブブ便』には僕の知り合いがいるので、ご紹介しやしょうか?」
配達員さんは「どうしやすか?」と、驚いているわたくしに聞いてくださいます。
……わたくしは、感動しておりました。
ライバル会社に仕事を譲るなんて、普通では考えられませんわ!
そこまでして、お客のことを第一に考えてくださるなんて!
わたくしのなかの『飛竜便』の株は急上昇です!
出来ることならば今回も、素晴らしいサービスの『飛竜便』さんにお願いしたいですわね。
何かいい方法は……。
わたくしは少し考えて、すぐに名案が思い浮かびましたわ!
要は、わたくしの家の周りから金ピカを除去できればいいのですから、話は簡単です。
「今回も『飛竜便』さんにお願いします。この金ピカの方々は、ボーム様宅へ運んでくださいな」
すると、配達員さんは元気よくおっしゃいます。
「分かりやした! 今回も着払いですね?」
「はい、よろしくお願いします。あっ、この『携帯型魔術通信具』も運んでいただけますか?」
「はい! こちらはサービスさせて頂きまっす!」
前回よりも増えた飛竜達は、あっという間に『幸福評議会』の皆さんを、背中の箱に放り込み、飛び立っていきました。
「またのご利用お待ちしておりまーっす!」
『幸福評議会』の皆さんを、ボームお兄様のお屋敷にお届けしたのは、我ながら名案だっと思いますわ。
家の周囲の掃除ができ、懲りずに悪さを続いていたボームお兄様へのお仕置きもでき、しかも『携帯型魔術通信具』も返すことができました。
一石二鳥どころか、一石三鳥のアイデアでしたわ。
***
『遥かなる理想郷 〜Shangri-La〜』
飛竜が幸福を運んでいきますわ。
夜の帳に静かに浮かんだ月が、幸福たちをキラキラと輝かせています。
それはまるで、漆黒の天 鵞 絨にのせた玻璃硝子のよう……
幸福たちは、星にも負けず、強く美しく煌めくのです。
道端に転がっていた幸福たちは、あれほど邪魔に思えたのに、
空に浮かべばあんなにキレイ。
幸せは、失って初めてその大切さに気づくのね。
ああ! わたくしは、また幸せを逃してしまったわ!
ああ! でも、せめて……!
わたくしのお姉様にさちあれ!
わたくしのお兄様にさちあれ!
作:サツキ
***
……さて、満足したので家に戻りましょうか。
わたくしを『ガッツリごはん亭』のハンバーグが待っているのです!
早く戻らないと、ウヅキお姉様にわたくしの分も食べられてしまうかもしれませんからね!




