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第十七話 魔術クラブ

 私の通う学園には、魔術関係のクラブが四つございます。


 誰でも入れるため人数が一番多い『魔術同好会』。

 魔学者を志す方たちが集まった『魔術研究部』。

 魔術の歴史マニアのための『魔術史考察クラブ』。

 そして、高ランク魔術師を目指す人が所属する『魔術クラブ』です。


 わたくしの目標はA級魔術師。

 ですので『魔術クラブ』に入りたいのですが、クラブメンバーとなるには試験に合格しなければなりません。

 クラブメンバーの方々は、その厳しい試験をクリアした魔術のエリートばかりなのです。


 そう、『魔術クラブ』とは、将来の上級魔術師が所属するエリートクラブなのですわ。


 このクラブのOBのほとんどが、B級魔術師として活躍されています。

 B級魔術師ともなれば、国からの依頼が舞い込むような一流魔術師です。


 つまり、魔術クラブに入ることができれば、魔術師としての将来を約束されたようなもの。

 そのこともあって入部希望者は絶えません。


 ただし、クラブメンバーとなるための試験の合格率は、なんと1%未満。

 毎年の合格者は10名ほどなのに対し、試験を受ける方は1000名を超えているのですわ!


 過去数度、その試験を受けたわたくしですが、残念ながらすべて不合格でした。

 肩を落として家に帰り、おとうさま、おかあさまに励ましてもらったのも一度や二度ではないのです。


 ですが本日のわたくしは一味違います。

 リオン様のレッスンを受け、ブラック商会で経験値を得てレベルアップしたわたくしなのです。

 試験合格など、赤子の手をお捻りになるよりたやすいことですわ!



***



 わたくしは魔術クラブの建物の前で立ち止まります。

 そして深呼吸をし、緊張を解してからその扉をノックしました。

 しばらくすると扉が開いて副部長のヤマト先輩が出迎えてくださいます。


 彼は、魔術師になる者が少ない平民でありながら、このエリートクラブの試験に一発で合格したという魔術の天才なのです。

 『魔術の天才』。つまり、わたくしの理想の男性像に一番近い方ですわ。


「やあ、サツキ。また入部試験を受けに来たのか?」


「ええ、今度こそ合格してみせますわ」


 ヤマト先輩に迎え入れられて建物の中に入ると、入口の近くに座っていた女性が声をかけてくださいました。


「あら、サツキ、久しぶりね。最近試験を受けに来なかったものだから諦めちゃったのかと思ったわ」


「ホホホ、ご冗談を。わたくし、魔術に関しては諦めが悪いことで有名ですのよ」


「そうなの? フフ、頑張ってね」


 わたくしが何度も試験を受けにくるものだから、クラブメンバーの皆さんには顔を覚えられてしまっているのです。

 ですが、このように気軽に会話ができるのですから、わたくしは魔術クラブのサブメンバーと言っても差し支えないでしょう。

 みなさんと顔見知りのわたくしなら、正式メンバーになってもすぐ馴染むことが出来るはずですわ。


 わたくしはヤマト先輩に付いて、迷路のような部屋の中を歩いていきます。


 この部屋は大量の本棚によって複雑な迷宮のようになっております。

 そしてどの本棚にも魔術関係の本がびっしりと詰まっているのです。

 クラブメンバーになれば、どれでも自由に閲覧することができます。

 魔術に関する知識が無料で手に入るのですから、今からわくわくが止まりませんわね。


 部屋の奥には部長であるリリアンヌお姉様が、高級感のあるソファーに座っていらっしゃいました。


 リリアンヌお姉様は第8080王女。

 彼女の実家は、A級魔術師も輩出しているエリート魔術師の家系です。

 彼女自身も才能ある魔術師だとお聞きしております。


 彼女はソファーにゆったりと腰掛けて魔術書(グリモア)を読んでいましたが、ヤマト先輩とわたくしに気づいてお顔をお上げになられました。


「部長、入部希望者です」

 ヤマト先輩がおっしゃいました。


「サツキ、またあなたなの?」


 リリアンヌお姉様は呆れた様子でため息をおつきになりました。

 そして、頭を振っておっしゃいます。


「試験するまでもないわ。あなたは不合格。帰ってちょうだい」


 なんと彼女は、試験を受けることすらさせてくださらないとおっしゃるのですわ!

 当然わたくしは抗議いたします!


「どうしてですの!? 試験くらいは受けさせてください!」


「ダメよ、ここは魔術エリートのためのクラブなの。あなたのような落ちこぼれを入れる訳にはいかないわ。それにあなたは何度試験を受けても不合格なのだから、いい加減諦めなさいよ」


「嫌ですわ! まだ不合格も数度のことではないですか!」


 わたくしが食い下がると、リリアンヌお姉様は目をむいてお叫びになりました。


「なっ? 何言っているのよ! 数度ですって!? あなたは500回以上も受けているじゃないの! 一日に何回も試験をしに来たのはあなたが初めてよ! しかもそれが毎日! 試験の合格率が1%未満になったのは、あなたが何回も落ちたせいでそうなったのよ! あなた一人で合格率を下げているの!」


「別にいいではありませんか! 何度だって挑戦してもいいと、最初に落ちたときに試験をしてくださった方がおっしゃいましたわ!」


「物事には限度というものがあるのよ!」


 わたくしとリリアンヌお姉様の言い争いが始まります。

 それを見たヤマト先輩がリリアンヌお姉様に言いました。


「部長、試験自体は数分で終わるのですから構わないでしょう? それに彼女の腕も、試験を受けるたび少しずつ上っていました。しばらくクラブに顔を見せなかった間にレベルアップしているかもしれませんよ」


 わたくしを擁護してくださるヤマト先輩に、リリアンヌお姉様は渋いお顔をなさいます。


「本当に少しずつしか腕が上がっていなかったけどね。しばらく訓練していたとしても合格のラインに立てるとは思わないけれど……。いいわ、あと一度だけチャンスをあげる。私が試験してあげるわ。付いてきなさい」


 リリアンヌお姉様とヤマト先輩は、外の試験場へと歩いていきました。

 試験をしていただけることになったわたくしは、満面の笑みで二人について行きます。


 建物のすぐ側にある試験場に着いたわたくし達。

 リリアンヌお姉様は試験の準備をなさいます。

 わたくしは待っている間にヤマト先輩にお礼を言っておくことにします。


「ヤマト先輩、お口添えしていただきありがとうございます」


 わたくしがお礼をいうと、ヤマト先輩は少し悲しそうなお顔でおっしゃるのです。


「いいよ。もしかしたら、これが副部長としての最後の仕事になるかもしれないからな」


「え?」


 どういう意味なのか聞き返そうとしましたが、リリアンヌお姉様が試験の説明を始めたので、それは叶いませんでした。


 リリアンヌお姉様は、丸い取り出し口がある箱を持ち上げて、私におっしゃいました。


「さて、サツキ。何度も試験を受けているあなたには不要かもしれないけれど、一応説明するわ。この箱の中には、魔術の属性が書かれた紙が入っているの。私が紙を取り出して、そこに書かれている属性を読み上げる。そうしたら、あなたはその属性の魔術で、あそこに立っている旗に向かって攻撃するの」


 リリアンヌお姉様は手元の箱と、遠くに立っている旗を指差してから説明をお続けになります。


「魔術を発動させるスピード、魔術の威力、魔術の命中精度を総合的に評価して、試験の可否を決定します。厳しく採点するから覚悟なさい」


 つり上がった目でこちらを見るリリアンヌお姉様に、わたくしは力強く応えました。


「分かっておりますわ。今度こそ絶対に合格してみせます!」


「ふん、自信だけはあるようね! 準備はいい!?」


「いつでもどうぞ! ですわ!」


 わたくしが叫んだ瞬間、リリアンヌお姉様は箱に手を突っ込みました。

 そして、そこから紙を引き抜きお叫びになります。


「無属性魔術!」


 来ましたわ! わたくしの得意魔術が!


 ブラック商会で数え切れないほどの核撃爆破(エクスプロージョン)を撃ったのです、その発動スピードは誰にも負けないはず。

 威力は言わずもがな。

 そして、多少命中精度を犠牲にしても、広範囲爆撃で旗を吹き飛ばしてやりますわ!


 わたくしは無属性の魔術陣を素早く描きながら、(ターゲット)を見据えます!

 そして魔術の詠唱を行いました!


核撃爆破(エクスプロージョン)!」


 旗を中心に大爆発が起こります!

 その大爆発は旗を消滅させ、その周辺の地面を吹き飛ばしました!


 やりましたわ! 会心の一発です!




 わたくしはガッツポーズを決め、試験官のリリアンヌお姉様を見ます。


 彼女は驚愕のお顔で固まっておられます。

 旗の近くにいたので、爆発の影響で吹き飛んだ土を被っておいでなのですが、彼女はそれを払うことすらなさりませんわ。


「あ、ありえない……! どういうことなの……? 今のがD級魔術(エクスプロージョン)の威力? え? 何なのこれは? 幻術かしら?」


 彼女は呟きながら、旗があった場所を見つめていらっしゃいます。




 リリアンヌお姉様を驚かせるほどなのですから、試験は合格間違いなしですわ!

 ついにわたくしも正式クラブメンバー!

 A級魔術師に一歩近づきました!

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