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第十六話 治安維持省

「サツキ。今回のブラック商会襲撃事件はあなたが主犯のようだけど、申し開きはある?」


 第110王女のマーチお姉様は、わたくしの目を見据えておっしゃいました。


 これまでに様々な犯罪者さんたちとやりあったことのある彼女には、どんなウソも通用しない気がします。

 それにウソをついたところで意味がございません。

 わたくしは正直に話すことにしました。


「わたくしがブラック商会を襲撃いたしました。より正確に言うなら『ヨイチお兄様とトウカお兄様がブラック商会に誘拐されたので、彼らを取り戻すためにカチコんだ』、ですわ」


 マーチお姉様は、メモにわたくしの証言をお書き込みになられます。

 自分の証言が記録されるというのは、なんだか緊張してしまうものですね。

 わたくしは背筋を伸ばして彼女が書き終えるのをお待ちします。


「あなた、現場の人間にもそう説明したようね。二人がブラック商会に誘拐されたという証拠はある?」


 マーチお姉様は足を組み替え、ペンを器用に回しながらおっしゃいました。


 他の皆さんの証言からお二人が誘拐されたことは分かるはずですが、もっと確実な証拠がございますわ。


「魔導人形のミナヅキが一緒にいました。ティレニア姐さんが自らの悪事をお話しになっていたところを、ミナヅキがバッチリ記録しているはずですわ」


「そう、ちょっと待っていなさい」


 マーチお姉様はそう言ってしばらくの間席をお外しになっていましたが、やがて戻ってきておっしゃいました。


「確認したわ。確かにティレニアが話しているところは魔導人形の記録に残っていました。彼女は、あなたを痛めつけるように依頼されていたのね」


「ええ、ティレニア姐さんはサラサお姉様に依頼されたとおっしゃっていました」


「そのようね、ティレニアはまだ黙秘を続けているけど……。だけど、ヨイチとトウカからも同じ証言はとれたし、何より魔導人形の記録が残っているもの。これなら十分ね。いいわ、あなたを釈放します」


「え? もういいのですか? ブラック商会を襲撃したことは罪に問われませんの?」


 こんなに簡単に解放されるとは思っていなかったので、わたくしはびっくりして聞き返しました。


「手下たちをボコボコにしたり屋敷を破壊したのはやりすぎだけど、身内を誘拐された上での行動だし、情状酌量の余地は十分にあります。死人も出ていないし今回は大目に見ておくわ」


 マーチお姉様はわたくしを注意するかのようにおっしゃいました。

 その様に言われたわたくしは目をパチクリします。


「わたくし、マーチお姉様のことを勘違いしていました。もっとルールに厳しい方だと思っていましたわ」


 と言うと、マーチお姉様は苦笑いしながらおっしゃいます。


「善良な妹と悪党の妹。どちらに肩入れするかなんて決まりきったことよ。個人的にはティレニアもボコボコにされればよかったと思っているわ」


 女神の天秤(ミス・ジャッジメント)とお呼ばれになるマーチお姉様は、随分と過激な正義をお持ちのよう。

 ですが、わたくしマーチお姉様に少し親近感がわきましたわ。

 この情の厚さが、部下の方々に慕われる要因なのでしょうか?


 マーチお姉様はメモとペンを机に置き、イスにもたれかかってひとり言のようにお呟きになられます。


「それに、あなたのお陰で簡単にティレニアを逮捕できたワケだしね。治安維持省はティレニアを捕まえる機会を窺っていたのよ。非合法な依頼を受けて、犯罪に手を染めていたのは確実だったから。けど無理に攻め込んでも省の職員に被害が出そうだったから躊躇していたのよね」


 『依頼を受けて』というのを聞いてわたくしはサラサお姉様のことを思い出しましたわ。


「そういえば、ティレニア姐さんに依頼をしたのは第72王女サラサお姉様のようですが、サラサお姉様には何かのペナルティはないのですか?」


 マーチお姉様に尋ねると、彼女は声のトーンを落としておっしゃるのです。


「あんまり身内の恥は晒したくないのだけど……。治安維持省の長はサラサお姉様に弱みを握られているようなのよ。うちの長は彼女に甘いわ。だから今は彼女の罪を問うのは無理だと思う」


 弱みを握って他人をお脅しになるなんて、さすが小汚いサラサお姉様だわ。

 ですが省の長を脅すことができるほどの力を持つサラサお姉様。

 彼女に逆らうのはやはり無謀な気がしてきます。


 わたくしは彼女の嫌がらせを受け続けるしかないのでしょうか。

 そんなふうに考えると憂鬱な気分になってきますわ。


 わたくしが落ち込んでいると、マーチお姉様がおっしゃいました。


「あなた、サラサお姉様から嫌がらせを受けているのよね?」


「ええ、そうなのですわ。サラサお姉様はアクェ様と婚約なさいました。彼女は、アクェ様の前婚約者であるわたくしのことを憎んでいる、とお聞きしましたわ。わたくし、サラサお姉様にもアクェ様にも何もしておりませんのに……」


 わたくしはため息をつきました。

 するとマーチお姉様は突然立ち上がっておっしゃるのです。


「サツキ、気を落とさないで。もう少しの辛抱よ。そのうち私があの(カス)を治安維持省から追い出すから。そうしたらサラサお姉様も捕まえてやるわ! 私は正義の味方、あなたの味方よ!」


 マーチお姉様はわたくしの手を取って励ましてくださるのですわ。


 マーチお姉様の意外な熱さに、わたくしはまたびっくりしてしまいました。


 王位継承権上位のお姉様方は、わたくしのことなど何とも思っていない方ばかりだと考えておりました。

 ですが嫌がらせを受けるわたくしを、哀れに思ってくださるお姉様もいらっしゃったのです!


 突然励まされたわたくしは、なんだか胸が熱くなってしまいます。

 思わずマーチお姉様の手を握り返してしまいました。

 マーチお姉様も、わたくしの手を握ったまま、頷いてくださいます。


 わたくし、俄然やる気が湧いてまいりました!


 サラサお姉様の嫌がらせには屈さないわ!


 まず、わたくしは目標であるA級魔術師に絶対なってやります!

 そして、マーチお姉様には治安維持省の長になってもらいますわ!


 その後二人で協力して、悪党王女のサラサお姉様を必ず懲らしめて差し上げますわ!


 心強い味方を手に入れたわたくしは、心のなかでそう誓ったのでした。



***



 さて、ブラック商会がお潰れになってから一週間ほど経ちましたが、今のところ嫌がらせなどもなく平和に過ごしております。


 変わったことといえば、ヨイチお兄様とトウカお兄様が、リオン様に稽古をつけてもらうようになったこと。

 それからウヅキお姉様が、ミナヅキと遊ぶために頻繁に家にいらっしゃるようになったことでしょうか。


 わたくし自身も少し変わったことがございます。


 魔術師としてレベルアップいたしました。

 ブラック商会で核撃爆破(エクスプロージョン)をたくさん撃ったので、大量の経験値をゲットできたようです。


 そして、わたくしの魔力はまだまだ増え続けております。

 リオン様がおっしゃるには、魔力量だけなら王国の魔術師の中では一番多いのではないか、とのこと。

 魔力が多くて困ることはありません。

 長所はどんどん伸ばしていきたいですね。


 肝心の魔術の制御も、以前より安定してまいりました。

 リオン様に新しい指輪を頂いたのですが、それを着けた状態ならば制御はほぼ完璧。


 ホホホ、これならば今度こそ合格できるかもしれませんわ。

 憧れの『魔術クラブ』入部試験に!


 思い立ったが吉日ですわ!

 さっそく魔術クラブの部室に乗り込むことにいたしましょう!

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