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第十五話 ブラック商会、完全崩壊

 事情を説明して手錠を外してもらえたわたくし達は、ティレニア姐さんを連行する白マントの方々の後に付いて歩いてきます。

 重要参考人として、わたくし達も治安維持省へ向かうことになったのですわ。




「なんだいこりゃあ!」


 地下道から出たティレニア姐さんは、そこに広がっている惨状を見てお叫びになりました。

 そこには半壊した屋敷、そして庭にはお倒れになっている無数の黒服の方々がいらっしゃいます。


 しばらくその場で放心していたティレニア姐さんでしたが、突然グリンとわたくしの方へお顔を向けました。


「サツキ! アンタの仕業かい!」


 わたくしをキッとお睨みになるティレニア姐さん。


「黒服の方々はわたくし達がやりました。ですが、お屋敷がこうなってしまったのは、ティレニア姐さんの部下である魔術師さんが原因ですわ。ほら、そこにお倒れになっている方です」


 わたくしはお倒れになっている魔術師さんを指差しますが、ティレニア姐さんは


「嘘つくんじゃないよ! アンタがやったんだろう! この屋敷を建てるのに、どれだけのカネがかかったと思っているんだ! どうしてくれるんだい!」


 と、おわめきになります。


「ホホ、またお建てになればよろしいではありませんか。ブラック商会はお金持ちなのですから、これくらい大したことはありませんわ」


「屋敷を壊した張本人が何を言うんだい! この屋敷には全財産を投入して最新のセキュリティを入れていたんだよ! しかもまだローンも払い終わってないのに!」


「あらあら、ではブラック商会はご破産なさったということですわね。ホホホ、ざまあみろ、ですわ」


「こっ、この! サツキ! テメェは――」


 お怒りのティレニア姐さんはわたくしに詰め寄ろうとしますが、白マントの方に阻止されます。


「暴れるな! ティレニア! おとなしくしろ!」


 お叱りを受けた彼女は、こちらを睨みながら引きずられていくのでした。




 わたくし達が庭まで来ると、そこには初老の男性がいらっしゃいます。

 彼は腕を組んで何やら考えこんでいらっしゃるようです。


 その男性の胸にはたくさん勲章が付いております。

 白マントの方々の上官なのでしょう。


「どうかされましたか?」


 とわたくしが聞くと、


「ああ、この屋敷にはいくつも地下があると聞いたのだが、地下へ続く部屋には罠が仕掛けられていて先に進めないのだ。ブラック商会の悪事の証拠はそこに眠っているはずなのだが……」


 と上官さんがおっしゃいました。


 白マントの方がティレニア姐さんを引っ張ります。


「おい、ティレニア! どうやって地下に入るのか言え!」


「バカか、言うわけないだろう!」


「無駄なあがきは止めろ! どうせお前は牢獄に入るんだ! 手間を掛けさせるんじゃない!」


「はん、牢獄だって!? 証拠がなきゃアタシは無実さ。死んだって言うもんか!」


 ティレニア姐さんと白マントの方は言い争いを始めました。

 そこにミナヅキがやってきて上官さんに言います。


「私なら地下への道を開くことができます」


 ピクリと眉を上げてミナヅキを見る上官さん。


「ほう? それはどうやってだ?」


「仕掛けられた罠ごと部屋を吹き飛ばしてしまえばいいのです。更地にしてしまえば、残るのは地下に行く階段だけです」


 それを聞いたティレニア姐さんは

「な、何勝手なこと言ってんだい!」

 と叫びますが、上官さんは彼女を無視してお聞きになります。


「それはそうかもしれんが、どうやって更地にするのだ?」


「魔導人形の私なら人工魔術で吹き飛ばすことができます。サツキお姉様から頂いた魔力があれば楽勝です。屋敷の周りにいる方を避難させてください」


 上官さんは頷くと、部下の方々に屋敷から離れるよう指示なさいました。

 指示を受けた白マントの方々は、倒壊しかけている屋敷からお離れになります。


 屋敷周辺に人がいないことを確認して、ミナズキが言いました。


「では吹き飛ばします」


「待ちな! これ以上何するつもり――」


 焦ったようなティレニア姐さんの声は、ミナヅキの詠唱によってさえぎられました。


核撃爆破(エクスプロージョン)


 本日二度目の爆発がブラック商会の屋敷を襲います。


 わたくしの核撃爆破(エクスプロージョン)よりは威力は劣りますが、かろうじて残っていたお屋敷を破壊するには十分。

 ミナヅキが放った核撃爆破(エクスプロージョン)は屋敷を容赦なく破壊し、完全に吹き飛ばしましたわ。


「ああ、アタイの屋敷が……」


 ティレニア姐さんは膝をついて、ほんの数秒前までは屋敷のあった空間を眺めています。


 もうブラック商会の敷地内に、建物は残っていません。

 完全に更地となりました。


「ずいぶんとスッキリしましたわね、これで気分もスッキリですわ」


 わたくしが呟くとティレニア姐さんが立ち上がって叫びました。


「このっ! サツキィ! 何してくれてんだい! 私の屋敷を!」


「あらあら、ティレニア姐さんったら、そんなにお怒りになるなんて可笑しいわ。お屋敷はすでに半分壊れていたではないですか。あんな状態では修繕不可能でしたわ。一度取り壊してから、また建て直さなければいけなかったはずです。その手間を省いて差し上げたのですから、お礼を言ってほしいくらいですわ」


「お、お礼を言えだと!? 一体どの口が――」


「やっぱりお礼は結構ですわ。これでティレニア姐さんの悪事は無事に暴かれるんですもの。それで十分。ところでティレニア姐さん、仕掛けた罠が無駄になるというのはどのようなお気持ちなのですか?」


「こっ、この! このっ!」


「あら? 悔しいの? ティレニア姐さんったら悔しいの? 全財産おつぎ込みになったセキュリティが無駄になって悔しいの?」


「ぬうぅー!」


「オーホホホホホ! 一体どのようなセキュリティだったのかしら? 見れなくて本当に残念ですわ! ティレニア姐さん、どのようなセキュリティだったのか詳しく説明してくださいませんこと?」


「するか! この! ボケェ!」


「まあっ、ティレニア姐さんったら、鼻息が荒いですわ。少し落ち着いてくださいませ……あっ、そうだわ! わたくし、ティレニア姐さんを見ていて思い浮かんだポエムがありますの。ちょっと聞いてくださらない?」


「ポ、ポエ!? な、なに!?」


「いきますわよ? 『セキュリティ 無駄になったわ くやしいわ』。どうですか! ティレニア姐さんの今のお気持ちを表現してみましたの! ホホホ! これはケッサクですわ!」


「うがー! サツキィ!」


 ポエムをお気に入りにならなかったティレニア姐さん。

 彼女はものすごい表情でわたくしに詰め寄ろうとしますが、またもや白マントの方に阻止されます。


「コラッ! 暴れるんじゃない、おとなしく歩け!」


 ティレニア姐さんはわめきながら引っ立てられていきます。

 そして犯罪者を輸送する屈強な飛竜に乗せられて、お運ばれになっていきますわ。

 その背景には夕日がございます。


 この光景、なんだかデジャヴですわね。

 なんだかしんみりしてしまいますわ。


 おわめきになるティレニア姐さんには、もう一つポエムをお送りいたしましょう。

 こちらは彼女の心に染み渡るはずですわ。



『悪いこと したら投獄 くやしいわ』



***



 さて、被害者であるわたくし達も参考人として、治安維持省へと輸送されました。


 治安維持省の隣には巨大な監獄が建っておりました。

 そして、その監獄への入り口、通称『天国への門(ヘヴンズ・ゲート)』も見えます。

 犯罪者の方々は治安維持省に連れてこられる際に、近いうちにくぐることになるその物々しい門を見て、身を震わせるのです。


 ティレニア姐さんもあの門をおくぐりになるのでしょう。

 彼女には檻の中でしっかりと反省していただきましょう。




 治安維持省の中に通されたわたくし達は、一人ずつ、別々の部屋に入れられました。

 そこでしばらく待っていると、メガネを掛けた背の高い女性がおいでになりました。


「治安維持省、マフィア対策部、部長のマーチよ」

 と彼女は簡潔に挨拶し、わたくしも会釈を返します。


 見知った顔ですわ。

 彼女はわたくしのお姉様、つまり王女の一人です。


 第110王女のマーチお姉様。

 彼女は王族でありながら一職員として治安維持省に入り、現場から叩き上げで部長にまで上り詰めたという経歴をお持ちです。


 曲がったことが嫌いな彼女の異名は『女神の天秤(ミス・ジャッジメント)』。

 権力者からは疎まれているようですが、部下の方々からの信頼は厚いと聞いております。


 彼女は向かいのイスに座り、足を組みました。


「さて、サツキ。今回のブラック商会襲撃事件はあなたが主犯のようだけど、申し開きすることはある?」


 マーチお姉様はメガネをキラリと光らせて、わたくしを見据えるのでした。

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