第十二話 黒いヤツら
ヨイチお兄様が行方不明ですって!?
「大変! わたくしも探すのをお手伝いいたします!」
トウカお兄様は真剣な顔つきで頷きました。
「ありがとう、サツキ」
わたくしはミナヅキを家へ帰し、トウカお兄様と歩き出します。
トウカお兄様は早口におっしゃいます。
「実はもう、ヨイチがいそうな場所は全部まわったんだ。近所の人達にも手伝ってもらってね。だけど見つからないんだよ。だからちょっと焦ってる」
トウカお兄様はちょっとイライラしているようです。
わたくしは彼の機嫌をうかがうように、そっとお聞きします。
「ヨイチお兄様のお家の辺りをうろついていたアヤシイ方々というのは?」
「そっちは心当たりがあるから今から調べに行こうと思っているんだ。だけどその場所は危険なところだから、サツキは連れて行けない」
と彼は首を振っておっしゃいました。
「そんな。ではわたくしはどうしたらいいの?」
「キミはヨイチがいそうなところをまわってほしい。僕も探したけれど入れ違いになっていたのかもしれないし、もう一度探せば見つかるかもしれない。正午にここで落ち合おう」
トウカお兄様はそう言うと、わたくしを置いて走り出してしまいました。
仕方がないのでわたくしは、ヨイチお兄様が行きそうな場所をいくつかまわりました。
彼の家、近所の河原、大通り、学園の部室など。
ですが、やはりヨイチお兄様はどこにもいらっしゃらないのです。
わたくしはヨイチお兄様を探しながら呟きます。
「ああ、心配だわ。どこにいらっしゃるの」
ふと見上げると、もう太陽は空のてっぺんに差し掛かっていますわ。
時計を見ると正午です。
わたくしはトウカお兄様との待ち合わせの場所へ、いったん戻ることにいたしました。
***
待ち合わせの場所に戻ってもトウカお兄様はいらっしゃいませんでした。
そして、その後もずっと待っていましたのに、彼は一向に戻ってこないのです。
トウカお兄様は、どのような時でも約束の時間をきっちり守る方。
もしかしてトウカお兄様の身にも、何か良くないことが起こったのでは?
不安が脳裏をよぎります。
わたくしがヤキモキしていると、そこに食材を大量に抱えたリオン様が通りかかりました。
「サツキじゃないか。こんなところで何をしているんだ?」
「リオン様こそ何をしているのです。お昼前に買い食いとは食い意地が張ってらっしゃいますね」
わたくしがイライラしながら言うと、リオン様は即座に否定なさいます。
「違う。私はエミリー嬢に頼まれて買物をしてきた帰りだ。キミもそろそろ戻りなさい。もう昼食の時間だぞ」
「それどころではないのですわ!」
わたくしはリオン様に、ヨイチお兄様が行方不明になったことと、待ち合わせをしていたトウカお兄様が戻ってこないことを説明します。
するとリオン様は、
「それは心配だな。私も手伝おう。ちょっとここで待っていなさい」
と言って、食材を家に持って帰りました。
すぐにリオン様が戻ってきて、わたくしにサンドイッチを手渡します。
「エミリー嬢が作ってくれたサンドイッチだ。腹が減っては戦はできぬ。食べなさい」
わたくしとリオン様はサンドイッチを食べながら、ヨイチお兄様とトウカお兄様を探します。
食べながら歩くなんて淑女にあるまじき行為ですが、そんなことを気にしている場合ではありません。
二人を早く見つけることのほうが大事。
もし二人がいなくなってしまったらと考えると、わたくしは胸が締め付けられるような思いになります。
ああ、二人が単なる迷子ならいいのですが!
***
どこを探しても二人を見つけることができないので、わたくしはついに爆発します。
「どうしてどこにもいらっしゃらないの! やはりお二人はどなたかにさらわれたの!? こんなことになるのならトウカお兄様が言ってらした『心当たりのある危険な場所』を聞いておけばよかったですわ!」
「トウカがそれを教えなかったのは、キミが危険な場所行かないようにと考えてのことだろう。サツキ、ちょっと落ち着きなさい」
「これが落ち着いていられますか! もし犯人さんを見つけたらタダではおきませんわ! それはもうバッキバキのギッタンギッタンのグッチャグチャにして差し上げます!」
「どんな状態だ、それは……」
「それが叶わないというのなら、腹いせに、目についたお兄様お姉様のお屋敷を片っ端から爆発させてやりますわ! もしくはお兄様お姉様ご本人を片っ端から爆発させてやります!」
「恐ろしいことを言うんじゃない。キミが冷静になるまでいったん休憩しよう」
リオン様はイラだっているわたくしを、近くにあったベンチに導きます。
そこで一息ついて少し冷静さを取り戻したわたくし。
リオン様が言うとおり、わたくし、ちょっとカッカしすぎていたかもしれませんわ。
ですが、冷静になったところで、二人を見つけるための名案が思い浮かぶわけでもありません。
わたくしの焦りは消えませんでした。
座ったままどうするべきか考えていると、ベンチが揺れ始めます。
最初はリオン様の貧乏ゆすりかと思って彼を睨んだのですが、どうやらそれも違うよう。
やがてその振動は大きくなり、ドドドという音が、道の向こうから聞こえてきます。
その方向を見ると、砂ぼこりを舞い上げながらものすごい勢いで走ってくる人物がいらっしゃいます。
通行人の方々はその暴走する人物に驚き、轢かれないよう道をお譲りになります。
その走る来る人物は魔導人形のミナヅキでしたわ。
ミナヅキはわたくし達を確認すると、ズザザーッと滑りながらブレーキをかけます。
そしてわたくし達が座っているベンチの前へ、ピタリと停止しました。
わたくしは彼女に言いました。
「あらあら、ミナヅキったらお転婆なんだから。そんなに慌てて走ったらコケてしまうわよ」
「大丈夫です。サツキお姉様」
「そう? 気をつけるのよ。それで、どうしたの? わたくしに何か用?」
「トウカお兄様の居場所が特定できました」
「なんですって!」
突然の朗報にわたくしが驚くと、リオン様がおっしゃいます。
「私がミナヅキに頼んでおいたんだ。彼女の機能の一つに『人物サーチ』というものがあるんだ。魔力パターンを記録した人物を探すことができる機能だ。朝、キミがトウカに会った時ミナヅキもいたんだろう? その時にトウカの魔力パターンを記録していたらしい」
「まあっ、なんて優秀な妹なの!」
「はい、わたしは優秀な妹なんです。トウカお兄様は『ブラック商会』の本部にいます」
ブラック商会!
それは、第8930王女のティレニアお姉様が若頭を務める、いわゆる『マフィア』ですわ。
人殺し以外ならなんでもする組織だと聞いておりましたが、まさか誘拐などの事業も展開なさっていたとは……。
「ブラック商会は街の北区だな。道理でこの西区を探しても見当たらなかったワケだ」
とリオン様が腕組みしておっしゃいます。
「ヨイチお兄様も彼らに捕まっているのだと思いますわ。リオン様、手遅れにならないうちに早く乗り込みましょう」
「そうだな」
わたくしはミナヅキに言います。
「ミナヅキ、ブラック商会は危険なところよ。あなたは家に帰りなさい」
「いいえ、お供します。サツキお姉様は私が守ります」
「まあ、なんていじらしい子なの!」
わたくしがミナヅキを抱きしめると、リオン様がツッコミを入れました。
「いや、魔導人形が主人を守るのは当然だろう」
「なんてことをおっしゃるの! 『ミナヅキの身を案じるわたくし』の身を案じるミナヅキの気持ちを、リオン様はお分かりにならないのかしら!」
「……キミの表現は分かりづらいな。とにかく、ミナヅキは立派な戦力だ。連れて行くぞ」
ということで、三人でブラック商会にカチコミですわ!
悪徳商会をお潰しして、ヨイチお兄様とトウカお兄様を救出するために、いざ出陣です!
***
わたくし達は薄暗い通りを抜けた先にある、ブラック商会のお屋敷へやってまいりました。
ここの敷地は学園のグラウンドよりも広いですわ。
黒い塀が長々と続き、ようやく入り口が見えてきます。
そこには竜をかたどった彫刻と、立派な門がございました。
門の前には、黒い服、黒いメガネを着用した二人の男性が立っていらっしゃいます。
「ここがブラック商会かしら?」
わたくしが声をかけると、
「おお? 何だオメェら?」
とこちらをお睨みになる黒服のお二人。
あら?
まずはご挨拶をしないと失礼だったかしら。
では簡単に、ご挨拶をば。
「核撃爆破!」
「ぎゃあ!?」
わたくしがご挨拶を放つと爆発が起こり、彼らは悲鳴を上げて、立派な門と一緒に敷地内へ吹き飛ばされていきました。
「何だ何だ! テメエら何しやがった!」
と敷地内にいた別の黒服の方がやってきて、お叫びになります。
「何って、ご挨拶ですわ。もう一度ご挨拶いたしましょうか? 核撃爆破!」
「ぎゃあ!?」
ホホホ、今度の黒服の方は竜の彫刻と一緒に敷地内へお吹き飛びになられましたわ。
「オイ! カチコミだぁ! 魔術師が攻めてきやがったぞ!」
中で誰かがお叫びになると、屋敷の中からワラワラと黒服の方々が湧いて出ていらっしゃいました。
リオン様はそれを見て刀を抜き、わたくしにお顔を向けました。
「サツキ、制御が完璧でないうちは攻撃魔術を人に向けるなと……」
「知りません! リオン様のお説教程度では、もうわたくしを止めることはできません! 本日でブラック商会は営業終了! 看板を下ろしていただきますわ!」
「……まあ、いいか。指輪で魔力を制限しているし、死人が出ることはないだろう。それにコイツらは誘拐をするような連中だ。二度と悪さができないようにしっかり懲らしめておかないとな」
リオン様もブラック商会にお怒りのご様子。
リオン様の許可も頂いたことですし、わたくしの魔術でブラック商会を破壊し尽くしてやりますわ!