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第十一話 第10001王女爆誕!

「オホホホホホ! オーホッホッホ!」


 わたくしが高笑いしていると、リオン様がお帰りになられました。

 そして不気味なものを見たかのようなお顔をわたくしへお向けになります。


「一体どうした? サツキ、その大きな箱は何だ?」


「ホホホ、ついにお届きになったのですわ。例のブツが。さあリオン様、これを家の中へ運ぶのを手伝ってくださいませ」


 二人で協力して、重くて大きな箱を家の中へ運び込みます。

 (わたくしはリオン様にエールを送る係、リオン様が箱を移動させる係ですわ)


 侍女のエミリーさんも手伝って下さいました。

 (家の扉を開けてくださいました)


 苦労してリビングに運び込み、箱を横たえます。

 そしてリオン様とエミリーさんが見守る中、わたくしは箱のフタを、そっと開けました。


 そこには――


「まあっ、ステキだわ!」

「あら、可愛らしいですね」

「なるほど、魔導人形か」


 そう、魔導人形が入っていました。


 おとうさま、おかあさまがわたくしを守るために買ってくださった魔導人形が、ついに届いたのですわ。


 魔導人形はとても可愛らしい少女の姿で、侍女の服を着ています。

 お顔はなんだかウヅキお姉様に似ていますね。

 髪型を揃えたら双子のように見えるのではないでしょうか?

 ウヅキお姉様そっくりにしてから、二人を並べてみたいわ!


 わたくしは、はやる気持ちを抑え、慎重に魔導人形を抱き上げます。


 そして魔導人形(彼女)をイスに座らせて、説明書の手順通りに起動を試みました。

 すると、彼女の目が開き、人工的な音声を発します。


魔力初期化(イニシャライズ) カンリョウ。管理者登録(レジストレーション) ヲ シテクダサイ」


 説明書に従って、わたくしの魔力を彼女の心臓(魔石)に込めます。


管理者登録(レジストレーション) カンリョウ シバラク オマチクダサイ……」


 それから数秒後、彼女の目に知性が宿ります。

 彼女は滑らかな動作でイスから立ち上がり、わたくしに体を向けて頭を下げました。


 そして、とても人工物とは思えない生き生きとした声で言いました。


「ご命令をどうぞ、マスター」




「ああっ、可愛い! ステキ! アナタはサイコーよ!」


 わたくしは興奮して魔導人形(彼女)に抱きつきました。

 すると彼女はわたくしに抱きつかれたまま、


「マスター。まずは初期設定を確認することを勧めます」

 と言うのです。


「初期設定ですか?」


 わたくしが首を傾げると、


「サツキ、ここに書かれている設定のことじゃないか?」


 リオン様が説明書のページを開いてわたくしに見せてくださいます。


 そこには細々とした文字で、何やらよく分からないことが延々と書かれていました。

 どうやら、膨大な数のパラメータが設定できるようですわね。


「わたくし一人では出来そうにありませんわ。リオン様、手伝ってくださいませんか?」


 わたくしがお願いすると、

「ああ、分かった」

 と、珍しく乗り気なリオン様です。


 男の方の中には、説明書を読んでスペックを確認したり、細かい設定をいじったりすることが好きだという方がいらっしゃいます。

 おそらくリオン様もそのタイプなのでしょう。


 細々した設定はリオン様におまかせすることにいたしました。

 重要な設定についてはわたくしが決めます。


 とは申しましてもわたくしが決めたことといえば、


 ・対人戦闘『非殺傷モード』

 ・守備範囲『わたくしの家』

 ・守護対象『わたくしと、その家族や友人たち』

 ・魔力(動力源)の供給者『わたくし』


 以上のことぐらいですわ。



***



 説明書とにらめっこをしながら設定を終えたリオン様は、満足そうに頷きました。


「よし、これで全ての設定が完了した」


 やはり楽しかったのか、少し声を弾ませてリオン様がおっしゃいます。

 ですが、わたくしは首を横に振って言いました。


「いえ、まだですわ。一番重要なことを設定しておりませんわ」


「む、何か忘れていたか?」


 リオン様は説明書を見返し首を傾げました。


 それは説明書には載っていませんわ!


 わたくしは、一番重要な、魔導人形(彼女)の名前を設定しなければいけません!


「よく聞きなさい。あなたはわたくしの妹。そしてあなたの名前は『ミナヅキ』よ」


 わたくしを見上げている彼女にこう言うと、


「はい。私はサツキお姉様の妹で、私の名前はミナヅキです」


 こうして、わたくしの妹である第10001王女ミナヅキが、ここに誕生したのですわ。


 しばらくミナヅキとおしゃべりしてわかったことは、彼女はとても賢い子だということ。


 最近わたくしに絡んできたお兄様やお姉様とは違って、エスプリがあってウィットに富んだ受け答えをするのよ!

 しかもこんなに可愛らしいとなれば、誰かに見せて自慢したくなりますわね!



***



 次の日、わたくしはミナヅキを連れてウヅキお姉様のお屋敷にやってまいりました。

 魔導人形のミナヅキを自慢しに来たのですわ。


 ミナヅキの髪型はウヅキお姉様に似せてあります。

 今のままでも十分そっくりだと思うのですが、実物と比べながら細かい部分も追い込んでいきましょう。


「いいこと? ウヅキお姉様の前ではあまり賢いところを見せてはダメよ。出来る限りおバカなふりをするのです。彼女は自分より賢い子が苦手でいらっしゃるから」


「はい、サツキお姉様」


 ミナヅキに簡単なアドバイスをしてから、立派な扉についているドアノッカーを叩くと、すぐさま使用人のセバスチャンさんが出てきます。


「これはこれはサツキ様、本日はどのようなご用件で?」


「ウヅキお姉様はいらっしゃるかしら? この子のお披露目に来たのですわ」


 と言ってミナヅキを見せると、


「なっ!? ウヅキお嬢様? いつの間に外に……。いえ、違う! ウヅキお嬢様はそんなに利発そうな目はしておりません! あなたは何者ですか!」


 セバスチャンさんは、ミナヅキにビシリと指を突きつけます。


「ホホホ、違いが分かるとは流石ですわ。この子は魔導人形のミナヅキというのです」


「な、なるほど、そうでございましたか。取り乱してしまい申し訳ありません。ウヅキお嬢様そっくりなのに知性を感じたものですから」


 するとミナヅキは、

「お褒めいただきありがとうございます」

 と、お辞儀するのです。


 それを見て、セバスチャンさんは大げさにリアクションなさいました。


「なんと礼儀正しい子だ! うちのお嬢様とはエライ違いです!」


「まあ、そんなことをおっしゃらないで。ウヅキお姉様だってとても可愛らしいではないですか。少しおバカなところなど、見ていて癒やされますわ」


「サツキ様はよく分かっておいでです。『おバカなところがウヅキお嬢様の取り柄である』。その点において、我々使用人たちの意見は一致しております」


 にこやかに、セバスチャンさんはおっしゃるのでした。



***



 わたくし達は応接間に通されました。

 そこで座ってしばらく待っていると、ウヅキお姉様がいらっしゃいました。


「フン、何しに来たのよ。イジメに耐えきれなくなって、私に泣きつきに来たの?」


「いえ、ちょっと遊びに来たのですわ」


「あ、遊びにですって!? あなたが? どういう風の吹き回しよ!」


「この子をご覧くださいな」


 わたくしはミナヅキを立たせます。

 するとウヅキお姉様は目を見開いてミナヅキを指差しました。


「な、なによこの子! 私そっくりじゃない!」


「わたくしの妹でミナヅキといいます。この子は魔導人形なのですわ」


「なんですって? 魔導人形なんて私だって持っていないのに、どうしてあなたが?」


「ホホホ、可愛らしいでしょう? さあ、ミナヅキ。この方はわたくしのお姉様でウヅキ様とおっしゃる方よ。ご挨拶なさい」


「はい。はじめまして、ウヅキお姉様。ミナヅキです」


「へえ? 私を姉だと認識するなんて、なかなか見どころのある子じゃない」


 ミナヅキに挨拶されて、ちょっと嬉しそうなウヅキお姉様。


「褒めていただいて嬉しいです。ウヅキお姉様」


「あら、素直で可愛らしい子ね。私はサツキみたいな生意気な妹じゃなくて、あなたみたいな妹が欲しかったわ」


 ウヅキお姉様はミナヅキの頭を撫でてニコニコしてらっしゃいます。


 ホホホ、ウヅキお姉様もミナヅキの魅力にメロメロですわ。




 さて、二人がどれだけ似ているか確認しておきましょうか。


「二人とも、そのままこちらを向いてくださらない?」


 わたくしの声にこちらを向く、ウヅキお姉様とミナヅキ。


 あらあらまあまああらあらまあまあ!


 二人が並ぶと本当に双子のようですわ!


 ですが、前髪の分け目の位置が少し違うようです。

 わたくしはミナヅキに近寄って、前髪の位置を直そうとすると――


「ちょっと、急になによ! せっかくセットした髪の毛をいじらないで!」


 まあっ、こちらはミナヅキではなくてウヅキお姉様でしたのね!

 ホホホ、あまりにそっくりなものだから間違えてしまいましたわ。


「申し訳ありません、ウヅキお姉様。ミナヅキと間違えてしまいましたわ」


「誰に謝っているのよ! それはミナヅキよ! 私はこっち!」


 あら? わたくし、混乱してまいりました。

 どちらがどっち?


 髪型までそっくりにすると見分けがつきせんわね。

 ミナヅキには何か目印になる髪飾りでも着けてあげましょうか。




 その後はミナヅキについてお喋りをしたわたくし達。

 ウヅキお姉様も、ミナヅキの可愛らしさを十分に堪能してくださったようです。

 ですので、そろそろ帰ることにしましょうか。


「ウヅキお姉様、わたくし達はそろそろお(いとま)いたします」


 わたくしが彼女に頭を下げると、


「私はミナヅキです。ウヅキお姉様ではありません」


 なんと彼女はウヅキお姉様ではなくミナヅキだというのですわ。


「あら、ではこの子は?」


 わたくしの手によって頭を押さえられ、無理やりお辞儀させられているウヅキお姉様。

 彼女はお顔を赤くして、プルプルしながらこちらを見上げました。


「サツキ! わざとでしょ! 絶対わざとに決まっているわ! もう怒ったんだから!」


 わたくしの手を振り払いながらお叫びになるウヅキお姉様は、やはり小さなお子様。

 そこで、わたくしは閃きました!


 なるほど! お子様具合で二人を見分けることができそうですわ!


 そうして一人で納得していると、


「その顔はまた失礼なことを考えてる顔ね! 帰れ! この! 失礼な妹め!」


 ウヅキお姉様はわたくしの背中をポコポコ叩きながら、部屋の外、そして屋敷の外へと追い立てるのでした。



***



 わたくし達がウヅキお姉様のお屋敷から帰る途中のこと。


 わたくしは、道の向こうにトウカお兄様を見つけました。

 わたくしが彼に向かって手を振ると、こちらに向かって走ってきます。

 トウカお兄様は珍しく慌てていらっしゃるようです。


「サツキ! ヨイチを見なかったかい!?」


「ヨイチお兄様ですか? 見てませんわ。どうかなさったの?」


「ヨイチが行方不明なんだ! それにヨイチの家の近くで怪しいヤツらがうろついていたって聞いた。もしかしたら、ヨイチはソイツらと何か揉め事を起こして、さらわれたのかもしれない!」

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