挑戦者たち
握りつぶしたトマトの様に肉片を撒き散らした惨状がそこにはあった。
そこに泣き崩れる一人の少年とそれを見つめる俺。。
ああ、なんだろうこの見覚えのある感覚。
それは6時間前にさかのぼる。
「ちくしょう!!見た目で芥川賞取りやがって!!」
俺は25歳童貞ピザデブニート。
印税暮らしを夢見て『家族になろうよ』という小説投稿サイトで夢を追いかけている。
異世界ファンタジーがランキングの上位を占めているが俺の純文学が1位を取る日も近いだろう。
そんな俺に対して家族はあまり良く思っていない。
「爺さんの遺産だっていつまでもあると思ってんじゃないよ!!この穀潰しが!!就職しな!!!」
そう言いながら俺にリモコンを投げつけてくる。
俺だって家族に迷惑をかけているのはわかってるつもりだ。
でもこの世に生を受けたからには夢を追いたいんだ!!
でも迷惑をかけているという自責の念からか言葉にはできない。
「母さん時間だから行ってくるね。」
返事はいつもない、昼飯を食べたあとは病院に見舞いにいくのがもう生活の一部になった。
こんな生活になる前、幼いころ俺には仲の良い二人の友達がいて一人は俺のことを兄貴のように慕ってくれていた。
よく口癖のように
「自分○○さんの頼みならばシャバの生活も惜しくないっすよ!?」
と舎弟みたいなこと言ってくれてたっけ。
もう一人はよく笑う女の子。
でも今となっては・・・・もう・・・・・・。
病院に着くといつものように332病室に向かう。
生気のない病人たちがベットに並ぶ一番奥、そこが彼女のベット。
「いつも来てくれてありがとうね。」
いつものよう同じ言葉を俺に言う。
仲のいい女の子は軽トラックに轢かれ下半身不随になってしまった。
「芥川賞の逃しちゃったよ、惜しいとこまでいった気がするんだけど。」
俺は真実を語る。
「だいじょうぶ!!○○はあの海賊王の血を轢いてるんだから」
俺の爺さんはかなり有名な人物で、海賊王と聞いて名を知らぬものはいない。
ネット時代黎明期多くの動画サイトに違法動画をあげまくり。
その海賊版動画は本家をも凌ぐクオリティだと言われていたらしい。
そしてついた名が海賊王。
通称 海賊王 モンキー D カウパー
彼の残した名言『私が海賊ならお前らは盗賊である。』は今やどこの動画サイトにも載っている。
そして少しの談笑を楽しんだ後、俺は病院を後にした。
俺が芥川賞さえ取れていればあいつをもっといい病院に入れてやるのに!
そんなことを考えながら帰り道を歩いていた。
そのとき物凄いスピードで軽トラックが俺を追い抜き、そのままの速度で前を歩いていた高校生カップルらしき二人に向かっていく。
俺はとっさのことに声を上げることができない。
軽トラックは女を撥ね飛ばし!土手に吹き飛ばし!!握りつぶしたトマトの様に肉片を撒き散らす!!。
「かのん!!! おい、かのん!!!」
少年が涙を流しながら声をかけているが返事はなく、呼吸もしていないようだった。
その少年を見た俺は幼い日の自分を見ている様な感じた、あいつはきっと俺と同じだ。
そのとき速度を上げ逃げていく軽トラックを見て心臓が高鳴る。
忘れもしないあの車体・・・
『あの時の軽トラックだ・・・・。』
そのとき俺は復讐を誓うのであった。