第三話
パーティー会場は勇者召喚された部屋とは別の、より大きな部屋だった。
にしても、人多くね?
疑問に思ったのでメイドさんに聞いてみることにした。
「どうしてこんなに人が集まっているんですか?」
「それは毎年、この日だけに行われる国主催のパーティーだからですよ。このパーティーの参加資格はトゥルーデル王国にいるすべての人にあたえられます。王様はこのパーティーと勇者召喚に合わせて行い、他の国をけん制する狙いもあったのではないかと思いますね」
「へぇそうなんですか。でもそれじゃあ暗殺とかありますよね」
「もちろんあるでしょうね」
「え? じゃあ……」
「それは魔法を使い武器と思わしきものを預からせてもらいます。この魔法はとても精度が高く、体内に隠し持っているものでも検知できます。そして我が国の最高機密でもありますね」
すげえな魔法。丸裸にされるってことか。
パーティーも進み、さぁ、いよいよ挨拶だ。壇上に上がろうとしていたところで、とても嫌な気配を感じた。
ん? なんだ?
「消えろぉぉぉっ!」
叫び声のようなものが聞こえた瞬間、俺の体が光に包まれた。
うわっ! なんだこれ。神様か?
光がよりいっそう強くなり視界が真っ白に染まった。
健人はパーティー会場から消えた。
健人がいなくなったパーティー会場では……。
「健人くんっ! どこに行ったの!」
「衛兵! あの男を捕らえろっ!」
叫んだ男は衛兵に捕縛され、尋問にかけられた。宰相の一人がその男に尋ねた。
「お前は何者だ?」
「……言うわけねぇだろ」
「そうか。では……。薬師! 自白薬を持ってきてくれ」
持ってきたビンに入っていた液体を強引に男に飲ませていく。
「どうだ? 話したくなってきただろう?」
「そうだな」
「ではもう一度聞くぞ。お前は何者だ?」
「俺は……。帝国の間者だ。勇者を消すよう命令を受けた」
「消すとはどういうことだ? 殺すということか? それとも転移魔法か?」
「殺すこともできたんだろうが、俺はあまりそういうことは好きじゃなくてね。転移させた。だが転移先は決めてない。生きているか死んでるかは運次第だ」
「それは誰に命令されたんだ?」
「帝都の貴族、からだ」
「だれだ?」
「ブッチ・テイラーだ」
「なっ……。あのブッチ・テイラーか!」
「あぁ、そうだ。奴は勇者召喚のことを知っていた。勇者召喚されてしまうとこの国だけが魔族との戦争で功績を挙げ、帝国の分け前が減るからな。なら、勇者が成長する前に消そうと思ったんだろうな」
「奴は私利私欲のためには人類のことさえ顧みないというのか」
「そうだ。だが、それはそれとして、俺の処分はどうなるんだ?」
「お前の処分はまた後日言い渡す。それまでは牢に入っていろ」
光が落ち着くとそこは、樹々が鬱蒼と生い茂る森の中だった。
さっきのなんだ? 神様がなんかしたのか? でも神様の時の光とは少し違ったよな。まぁいっか……。
「つかここどこだよ!」
しまった。つい叫んでしまった。周りに人とかいないよな……。
確実に城内じゃないよな。なら外か……。
外!? え? やべぇ! 魔獣とか居るよな。俺ってステータス、普通の人より低いんだよな。魔物に会った瞬間死ぬ。これはまずい。
とりあえず
赤いナイフ、出てこい!
赤いナイフを握りこみ太ももに突き刺した。刺す時の抵抗が少し減ったな。
ほんの少し体が軽くなった気がする。
よしっ!
ステータス!
・・・・・・・・・・・・・・・
名前:橘 健人
性別:男性
年齢:16
種族:人族
Lv:1
HP:60/60(2・120/120)
MP:30/30(2・60/60)
攻撃:3(2・6)
防御:2(2・4)
魔攻:3(2・6)
魔防:2(2・4)
敏捷性:3(2・6)
器用さ: 3(2・6)
スキル:鑑定Lv5
エクストラスキル:異世界言語完全習得
称号:神界への訪問者
・・・・・・・・・・・・・・・
やっぱりステータスが増えてるな。すごいなこの赤いナイフ。でも赤いナイフって言いにくいよな。
名前つけてあげようか。
ならまぁ、赤いステータスを上げるナイフの方はルビー。青いスキルを上げるナイフの方はサファイア。これで行こう。
安直すぎるか? いやいい名前だろう。
では早速。
出てこい、サファイア!
左手に青いナイフが出現した。
うん。わかってくれたみたいだな。
サファイアを戻した俺は、ルビーを体に突き立てるという行為を繰り返した。
かれこれ一時間ほどしていたのだろうか?そろそろステータス確認するか。
ステータス!
・・・・・・・・・・・・・・・
名前:橘 健人
性別:男性
年齢:16
種族:人族
Lv:1
HP:60/60(902・54120)
MP:30/30(902・27060)
攻撃:3(902・2706)
防御:2(902・1804)
魔攻:3(902・2706)
魔防:2(902・1804)
敏捷性:3(902・2706)
器用さ: 3(902・2706)
スキル:鑑定Lv5
エクストラスキル:異世界言語完全習得
称号:神界への訪問者
・・・・・・・・・・・・・・・
おぉ! これってなかなかやばいんじゃ無いか? なんか楽しくなってきたな、もっと刺すか。
さらに30分ほど刺し続け満足したのでステータスを確認することにした。
ステータス!
・・・・・・・・・・・・・・・
名前:橘 健人
性別:男性
年齢:16
種族:人族
Lv:1
HP:60/60(1367・82020)
MP:30/30(1367・41010)
攻撃:3(1367・4101)
防御:2(1367・2734)
魔攻:3(1367・4101)
魔防:2(1367・2734)
敏捷性:3(1367・4101)
器用さ: 3(1367・4101)
スキル:鑑定Lv5
エクストラスキル:異世界言語完全習得
称号:神界への訪問者
・・・・・・・・・・・・・・・
正直このステータスって異常だよな。日常生活に支障をきたしそうなレベルだ。なら少し実験をしようか。
先ずは、歩いてみるか。
よし、普通に歩けるな。次はジャンプだ。とりあえず軽く飛んでみよう。
何十メートルか飛び上がった。
終わったぁぁぁっ! 軽く飛んで何十メートル飛び上がるって、本気出したらどんだけ飛べんだよっ! すでに人間業じゃねぇよ!
もういい、次だ次。次は……。走るか。これはあんまり危険では無いだろうし、少し本気出してもいいよな?
クラウチングスタートでいこう。スターティングブロックは無いけどいけるだろ。かっこ良くロケットスタートを決めてやろう。
しゃがみ込み、腰を上げ、蹴り出す! 瞬間、とてつもない加速で走り出した。
これ止まれねぇぇぇっ!
全力でブレーキをかけ、大木に激突してなんとか止まれた。
激突したところは全く痛くはないが、走ってきたところを振り返って見てみると絶句してしまう。
さすがに引くな、これは。
そこには蹴り足の衝撃を受け、小さいクレーターをいくつも作っている地面があった。
自分のステータスに色々な意味で感動していると、茂みの中からガサガサと音が聞こえ何かが飛び出してきた。
ん? 人か? にしては小さいな。子供か?
何か持っているな。
良く観察してみると……。曲がった大きな鼻、ギラギラとした目、尖った耳。棍棒もってる。
あれってもしかしてゴブリンか?
鑑定してみるか?
鑑定!
はぐれゴブリン
性別 ♂
Lv:5
HP:57/58
MP:0/0
攻撃:26
防御:17
魔攻:3
魔防:5
敏捷性:29
器用さ: 5
すごいなぁ、鑑定。
そんなことを考えていると、ゴブリンが棍棒を振り上げ襲いかかってきた。
「キシャァァァァッ!」
「うおっ!」
棍棒を間一髪で躱し、距離をとる。初撃を躱され、少し戸惑っているように見える。
うぉぉぉ! 怖ぇぇぇぇっ!
警戒しているゴブリンが少しだけ距離を詰める。俺が少しだけ後退する。
またゴブリンが距離を詰める。また後退する。
このまま続けたら逃げることができるんじゃないか?
そう思い、また後退しようとすると、足元に伸びていた蔓に引っかかり転んでしまった。
これを好機とみたゴブリンが走ってくる。
あ、やばい!
最低限の防御として頭を抱え、向かってくるゴブリンに闇雲に足を突き出した。
ばんっ! という音の後にドサリと崩れ落ちるような音がした。
目を開けてみると、腹部に破裂したような穴の空いたゴブリンの死体が転がっていた。空いた穴から赤黒い血が溢れでている。
これはなかなかくるものがある。だが不思議と忌避感や嫌悪感はなかった。
これを俺がしたのか? ステータスを思い出し納得した。
レベルアップしました。
脳内にそんな声が響いた。