川社の辻斬り夜叉2
「なんで起こしてくれなかったんだよ……!?」
「えっ? さっき起こしたよ?」
た、たしかに声をかけられたような気が……。
「お、親父とお袋は?」
「今日は二人とも用事があるって、さっき出かけていったよ?」
……最悪だ。遅刻。遅刻してしまう。
「けーくんは、行かなくて平気?」
「んなワケねーだろっ!」
クローゼットからコートを取り出し、ソッコーで着た服の上から羽織る。
「んじゃ、行ってくるぜ!」
「あっ、あの、朝ごはん……!」
「いらねぇよ!」
オレは麻衣の制止を振り切って部屋を出た。
家から駅までの道のりは、チャリでおよそ十分くらいだろうか。そして最近はチャリなんて乗らずに単車だから、さらに速かったりする。大型二輪免許なのでこのまま学校に行こうと思えば行けるんだが、最近は年のせいか朝が妙に辛かったりするんだ。要するに、一言で言ってしまえば面倒くさい。
朝からご迷惑な爆音を轟かせて駅に到着し、駐輪した。自転車ばっかり並んでる中で、オレの単車だけデデンと場所を取っている。ここだけ見ると、なかなかにシュール。残り二分、時間を余らせて堂々のゴールインだ。だが、電車に間に合っただけで、遅刻の時間帯なのかもしれないが。
「よぉ、啓介じゃないですかぁ。おっはー」
「あ? あぁ。おはよう、真幸」
……どうやら遅刻確定らしい。遅刻常連の坂井真幸が堂々と手を振り近寄ってくる。逆立てた金髪はやけに刺々しく、額当てのようなバンダナから覗く目は妖刀のように鋭い。それでありながら……
「珍しいですね、キミがこんな時間に登校とは。寝ぐせついてますよ?」
こんな口調だ。手ぶらで、胸元を大きく開けたツナギ姿は、もう整備士のようにしか見えない。所々オイルが付着してるし。
「うるせーな。オレだって、たまには遅刻する時くらいあるんだよ。ていうかやめろ。髪ひっぱんな」
低身長のそいつは、オレの頭をつつきながら電車を待っていた。
タタンタタン、タタンタタンとリズムを刻みながら電車がけたたましい車輪の音を響かせてホームに入ってくる。いつもの見慣れた光景。
「どうしたんだい? 今日は啓介、なんだか元気ないじゃないか」
いい加減、なんだか真幸の口調がウザったく思えてきた。
「あぁ、そうだな」
「もしかして、麻衣ちゃんと喧嘩したのかい?」
「別に、喧嘩ってワケじゃねーけどよ」
「ま、まさか、玄洋高校一の美少女と言われた麻衣ちゃんの朝飯をコメの一粒も食さずに登校してるのか貴様ぁ!!」
「うるっせーな! こんな所で大声で叫ぶな! ……っていうか何で知ってんだよ?」
「ン? なんとなくですよ」
突っ込み所満載な真幸を見やり、朝から疲れが押し寄せてくるのを実感する。昔はこいつも、こんな奴じゃなかったのに。どこでどう間違ってしまったのか、超変なキャラに変わってしまってる。西の虎という通り名が泣くぞ。