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川社の辻斬り夜叉


 初めて書いた小説を、出来る限り思い出しながら書いてます。

 それは、形に残らない大切なもの。そこには確かに存在するのに、目には見えない不思議なもの。

 お互い憎みあったりいがみ合ったりするのに、結局は二人同時に歩んでいく。

 時には分かれたりする事もあるけれど、たいていは近すぎて見えていないだけ。お互いの好意がすれ違い、埋もれて見えなくなっただけ。

 それは、形に残らない大切なもの。誰もが欲しいと望んでいるもの。……その正体、一体、なーんだ。


「越後製菓!」

 早押しクイズよろしく、オレは即答する。

「アンタさ、ちゃんと問題聞いてた? 目には見えないものよ? 正解は……」

「越後製菓! 食ったら目に見えねぇだろ?」

 福岡県糸島市川社町。期末試験という事で、幼馴染の部屋にて勉強会の真っ最中だったのに……なぜかなぞなぞになっている。

「……仕方ないなぁ」

 軽く息をついたその女が振り返った。月夜に照らされたその顔は、確認出来なかった。だけどオレは、この女の事を知っている。岡田美里。オレの初恋の相手で、今じゃただの親友だ。いい相談役でもある。

「啓介。やっぱりアンタにはまだ恋愛は早いよ。たしかに腕っ節は一人前。だけどね、強さはそれ以外にもあるんだよ?」

「るせーな。大きなお世話だ」

 ここだけの話、オレだって好きで恋愛やってんじゃねーんだよ。ん。あれ? なんだ……?


 急に意識がはっきりしてきたと思ったら、朧月夜から一転して薄く優しい陽の光を浴びていた。カーテンの隙間からこぼれ出る、細く小さな筋がオレの目を直撃している。

「んん……?」

 冷えている室内。早朝らしい。もぞもぞと上半身を起こして、ふぁ、と欠伸をひとつ。十畳ほどあるオレの部屋は、見事に乾燥していた。カサついた唇が物語っている。小さくカタカタ震えながら、再び毛布に包まれる。この寒いようで温かい冬。温かいようで寒い冬。どっちかにしてほしいので、オレはこの季節が嫌いだった。

 ついでに冬といえば出会いの季節。だというのに、オレにはそれが自由に出来ない。監視役のような彼女が常にオレの周りをウロついてるからだ。

「け、けーくん?」

 噂をすれば……。それが、あの女。赤羽麻衣。去年、高校の卒業式に告られたのはいいけど、温度差がありすぎてオレが若干引き気味だったりする。外見は悪くないだけ、残念に思えてしまう。

「あ、あの、けーくん……? 朝ごはん、出来たよ?」

 オレに朝食を作って帰る。それが日課の彼女。一体、あいつはなにがやりたいのやら。ぅぉ、勝手に開けんなし。

「ぁ、あのね」

 とてとて、と足を鳴らしながら近寄ってくる。

「いらない」

 麻衣が話す前に断る。朝っぱらから付き合ってらんねぇ。

「がんばって作ったの。そりゃ、夏那美さんに比べたら、おいしくないかもしれないけど……」

 じわり、と涙腺が緩んでいる。まずい。また今日も泣くのか?

「あーはいはい。わかったよ、食うよ! 食えばいいんだろうが」

 そんな面倒な事を寝起きにやられたらたまったもんじゃない。特に好きでもない女の頭を撫でながら、いつもの目覚まし時計が鳴らない事に疑問を覚え、ふと視線を時計に向ける。朝の八時半だった。

「……麻衣?」

「んぇ?」

 気の抜けた声が聞こえてくる。そのまま布団に押し倒されそうなくらいに体重を乗せているが、オレの力には敵うまい。っていうか重い。邪魔。本題に入らせろ。


 


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