-Flattery of the witch-
君は日に日に弱っていく。それは誰から見ても明らかなことだった。
『ぅぁ……頭が、痛いよう……』
幼児のように呻く君。けれどもその声や仕草には若々しさなど到底感じられない。神様から直接力を与えられた「昔の君」と比べ、こうやって世代を跨ぐにつれ、「君たち」自身の能力はどんどん下がっているように感じる。それもそのはず、元は人間だった君たちに人外の力を与え、本来あったはずの時空の理が崩れ始めているのだ。この世界の人々が、かつてあれだけ愛でた四季が狂っていることは、その最たる例だと言ってもいい。
しかも、「今の君」は、「かつての君たち」が禁忌としてきたことを、何の躊躇いもなくやってみせたのだ。そのせいで、君は今までの君たちに比べ、半分ほどの年月しか生きていないのに、残された時間は風前の灯である。
大丈夫かい? 早く事を済ませないと、手遅れになるよ?
普段の君なら機嫌を悪くするような軽口に、君は弱々しく頷いた。
『……分かってる、よ』
まあ。僕は一息つく。僕なんかが口を酸っぱくして言わなくとも、君には痛いほど分かるのだろう。
君の胸の奥には、未だ新たな魂と成りえず、「魔女」として呼ばれていたままの魂が眠っている。「かつて君だった誰か」は、君の行動をことごとく縛り、そして命令するのだろう。あたかも、それを自分の体の一部であるかのように。
君は、痛みに歪んだ表情を隠すように、深く外套を被りなおした。
『あの少女に――〝新たなる魔女〟に、底の無い絶望を、与えるんだ』
そうだね、と僕は頷いた。それがまず、一番にやるべきことだ。
君は立ち上がる。最期の戦い、また、次なる自分のために。