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09-2.

プライベートで立て込んでおり、ほぼ一か月ぶりの投稿で(ゲフンゲフン

PV2000突破しました、ありがとうございます!

まだまだ続く予定ですので、どうか末永く見守ってやって下さい。

 テッラは家の外れにある倉庫の扉を開ける。倉庫は木々や家の影になるようにできており、日に弱い薬草や煎じ薬を保管するのにぴったりだ。けれどもそれ故、普段は殆ど使われることは無く、彼女は精一杯の力で扉をこじ開けた。一体いつから油をさしていないのだろう――父が出稼ぎに行って以来か。

 彼女は埃と蜘蛛の巣にまみれた内装を見てうんざりしながらも、外の新鮮な空気を胸いっぱい吸って、倉庫に足を踏み入れた。微かに入る日光で、奥の方にビンが並んでいることを確認する。あそこに薬があるのだろう。

 テッラは何とか薬と包帯、そして薬草を取り出し、外へ出る。ほんの一瞬倉庫にいただけなのに、服がもう埃だらけだ。昨日からろくに体も洗えていない。年頃の娘とは思えない境遇にうんざりしながらも、テッラは軽く汚れを払い、カエルムの待つ居間へ向かった。

 正直カエルムに対しての不信感はぬぐい切れた訳ではない。昨日の母親の不自然極まりない態度にも納得がいってないし、二人に対しあまり良い感情を持てずにいる。しかし、あの時、あの場所で彼女を救ったのは、紛れもなくカエルムなのだ。

「手当するから、手、出して」

 彼は素直に彼女に従った。けれどもテッラは、あ、と呟く。

「……ごめん、必要なかったね」

 先ほど痛々しげに血を流していた掌は、何も無かったかのように白く、艶やかな少年のそれだった。カエルムは今にも消え入りそうな声でお気になさらず、と返した。

 二人の間に、少しばかり重い沈黙が流れる。外から漏れる陽だまりも、空を駆け巡る鳥たちの鳴き声も、村人たちの活気も、本当に「いつも通り」だ。

 テッラの脳裏に、また昨日のおぞましい情景が蘇る。自らを魔女と名乗ったあの黒い物体と、それに刃を向けたカエルム。普段は温厚な口調の彼からは想像がつかないほどの表情と動きに、彼女はただ呆然と見守ることしか出来なかった。

 彼女はその凄まじい景色の中で悟った――これは、自分の関わるべきことではないということを。しかし、それでもテッラの胸の底から、ほの暗い好奇心が芽生えてしまう。あの魔女という物体は何なのか、そして、この目の前に横たわる男は、いったい何者なのか。

 テッラはこの胸の内の置き場を知らず、手に持っていた薬草を握りつぶす。そんな時、カエルムがおもむろに静寂を破った。

「俺が死なないってことは、前に話したよね」

 テッラは小さく頷く。

「でも、魔女はね、俺に傷をつけることが出来る。俺を、殺すことが出来る」

 彼はおもむろに自らの胸に爪を立てた。途端、白い包帯に鮮血が滲む。しかしそれも束の間、溢れ出した赤はふわりと宙に舞い、カエルムの胸元に吸い込まれていった。

 テッラは、その人間の技では成し得ない光景を何も言わず見ていた自分に驚いた。頭の中の理解が追いついていないのか、はたまた、頭が慣れてしまったのか。いずれにせよ、目の前に横たわる彼が、心身ともに傷ついているのに変わりはない。彼女はぐっと唇を噛みしめた。

「……魔女は、神であり悪魔だ。君はおそらく、これから奴の存在を身近に感じることが多くなるかもしれない。全ては俺の責任だ。だから、」

 色彩の無い彼の瞳が、彼女の瞳と交差した。

「俺の身体が塵になるまで、君を守ろう」


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