07-1.
王の住む中央都市から馬車で早二時間。彼らの目的地は未だ遠く、ただただ舗装されていない道が馬車を小刻みに跳ね上げる。馬車の持ち主であるフルーメン・トッレンス伯爵は、気の重い長旅に眉を潜めた。
かの王から勅令を下されて数日経つ。今でもペラギウス四世の真意は測りかねないが、とにかくこれだけは彼にも分かった。
地方への、左遷。
賢王と名高いペラギウス四世の直接の面会――それだけで彼は舞い上がってしまった。しかし、それも仕方のないことである。その知らせが届いた途端、彼の屋敷は歓声に溢れ、妻は涙を流して喜んだほどであった。
けれども。トッレンス伯は今再び自分の置かれている状況を振り返り、深くため息を吐く。何か理由がありそうだったが、表面上はただの左遷に変わりはない。喜びを露わにした妻や家来たちにはとても言いづらく、数日間街を彷徨った挙句、彼は適当に理由をつけ、信用のおける部下と共に、地味な馬車で南に下っているのであった。
「わあ見てください伯爵! あんなに大きな森、初めて見ましたよ」
それに――彼はまたもう一つの悩みの種に、ああ、と気の抜けた返事をした――四人用の向かい合った席となっているこの馬車の中で、トッレンス伯の目の前に座る男、マールスはまるで子供のように声を弾ませた。
ある程度地味な馬車を選んだものの、赤の地に金の羽飾りがついた帽子、それとお揃いの先の尖ったブーツなど、トッレンス伯の身なりは今日も派手である。それに比べ、マールスは上下白の料理人風の身なりで、伯爵に比べ随分と貧相な格好である。
「これ、旦那様にそんな下品な物言い、失礼にあたるぞ」
同席していた執事風の男性に注意されたマールスは、すみません、と頭を掻いた。
家来にも不似合な、どこか質素すぎるその恰好。それもそのはず、彼は昨日、唐突に伯爵に連れてこられたのだから。