それが、なに?
「我々はマモラートだ」
お父さんはいつもと違ったおごそかな雰囲気で話し始めた。
「これは大前提だ。お前もお父さんも生まれてから死ぬまで、一瞬一秒も変ることなくマモラートなのだ。
あるいは、自分はマモラートじゃない、もしくは、ただのマモラートじゃない、そんなことを思うかもしれないが、それは幻想だ。
お前はマモラート以上ではなく、マモラート以下でもない」
当たり前の話だ。
マモルはちょっと拍子抜けしてうなずいた。が、お父さんの口から「さて、たぬき、だが、」という言葉が出てきて耳をつんと立てた。
「人間は、我々マモラートを、たぬき、と呼ぶのだ。
わかるか、人間にとって、マモルや、お父さんお母さんや隣の巣のスグルくん、みんなの名前はマモラートではなく、たぬきなのだ!」
「たぬきなんてッ!」
お母さんが汚いものを投げ捨てるように吐き捨てた。
「屈辱に思うかもしれぬ。悔しくて腹立たしいかもしれぬ。しかし、自分はマモラートなのだと、その誇りを抱いて、心に打ち勝て。
いいか、克己とは己れに克つと書くのだ」
涙する両親を前に、若きマモラートは困っていた。
どういう話だったんだろう?ぼくが子供だから理解できないんだろうか・・・・・・言葉が見つからない。
「それって、つまり、こういうこと?ううん、ぼくなんかが理解できる話じゃないのはわかるんだけど、ぼくなりの解釈なんだ」
考え考え、マモルのぐりぐりまなこが宙をさ迷った。
「人間は僕らを、たぬき、って呼んでる」
「うむ」
「ぼくらは自分のことを、マモラートって呼んでる」
「うむ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それって、大事なことなの?」
さっぱりした顔でマモルは言う。本心からそう思う。
人間なんかにどう呼ばれたって、全然気にならない。なんでそんなに目くじら立てるんだろう。大人って不思議。
ふ、とお父さんは笑った。
「さすがはわが子だ。すでに壁を乗り越えていたか」
「わかりませんよ、子供だから」
お母さんはマモルの淡白な反応に不満げだ。
「子供だからですよ。まだわからないんです」
マモルは「もう寝ようよ」とあくびした。ふああ、が、ふあああああああ、なった。
考えごとは苦手だ。
「眠いや」




