魔法の言葉
こんにちわ~
前回中途半端で終わった話の続きです☆
8話が〈上〉だとすると、
今回の9話が〈下〉ですね(笑)
ほのかにシャンプーのにおいがする……。
それに混じって、清潔な汗のにおいも……。
土?それとも草だろうか…。
分かった。これはまるで若草のような汗のにおい。
息が上がり、火照っている彼はもうすぐで鼻先がついてしまうほど近くにいて、私の心臓の音まで伝わってしまいそうなくらい。
彼の熱が伝染して私まで逆上せてしまいそう。
だけど、逆上せて気絶なんてしちゃってはいけない。
私だけを見つめている今の彼を、離したくないから。
でも、だからといって何をすることもできない。
整った目鼻立ちをした少年に逃げ場を失われて、その上熱っぽい視線を送られていればどうすることもできないでしょう。
はたまた、甘い言葉を浴びせられたら立っていることもやっとなのに……。
そんなとんでもなくチャンスのこの状況を、私は何とか乗り切らなければいけない。
何故だって?
それは………、
私の親友であり、あげあしをとりたいっばっかりの女に、この状況を盗み見されているからである!
いや、そもそも私が今、目の前にいるこの人に好意を持っていることはあの女には知られている。
だったら、このまま流されてしまうのもいいんじゃないかなぁ……。
待て!早まるな美桜!!
あなたのプライドはそんなもんだったんですか?
もう、どうにもこうにも学年トップのこの私の頭を限界まで駆使しても答えが見つからない訳で……。
そんな理性をかき集めて脳内でもがきまくっている私に、拗ねた声が降ってきた。
「ねえ、みい姉。今目の前にいるのは俺じゃん?何違うこと考えてんの?」
ああ……。どうせならもっと声を荒げてくれた方がいいのに……。
そしたら私だって、何かと誤魔化せたのに…。
「話している人の目を見て話せって言ったの、みい姉じゃん。それが礼儀なんでしょ?こっち見て。」
未だに返事をしない私に苛ついていたのか少し早口になっている。
そして、なぜだか遥都の右手が私の顔へと伸びてきて……。
「ほら、ちゃんと見て」
あごに触れ、あろう事か自分の顔のほうを向かせる。
すごくビックリして、なのに心臓が破裂しそうなくらい働いている。
耳まで真っ赤になってしまった。
触れられた場所がジンジンと熱を増していく。
「は、遥都……!」
手を払いのけようとするのに、体に力が入らない。
「ん?何……?」
私の幻想なのだろうか…。
遥都の声も、妙に甘くて、顔も紅潮しているように見える。
すると、
「ぅわあ!!」
不意に遥都の熱い手が首元にまわってきて、思わず声をあげてしまった。
すると、遥都もハッとしたように顔を上げ、
ものすごいスピードで私から遠ざかった。
「わ、わりぃ……。」
口元を掌で覆い、長い睫毛を伏せて呟く。
「そんな!めめ、滅相もない!」
本来なら、こんな言葉を使わないのだが、どうやら相当パニックだったらしい。
1つ年下の遥都に敬語を使ってしまった。
「…………。」
かなり気まずくて、長い沈黙が訪れた。
だけど、動くこともできないような重苦しさで、『じゃあね』の一言も言い出せない。
どうしよう、どうしよう……!
この場から離れるのは、いつも常に氷点下の私には難しい事ではない。
でも、相手は遥都だ。
この状態で嫌われたくない。
少しずつ、近づけていたのに……。
すると、誰かが全く空気の読めない声で話しかけてきた。
「あっれれぇ~?美桜と朝日奈じゃん!超奇遇ですね~、みたいな☆」
え
え
え
えみ里~~~~!!?
「今日、朝日奈遅くね?いっつもこの時間にはココ通り過ぎてんじゃん」
「ん。まあそーですけど。」
「なんか用事でもあったの~?」
「そんなの道の真ん中であるわけ無いじゃないですか」
ケラケラと笑い始める遥都。
ってゆーか何でさっきの雰囲気から、こんな速攻で切り替えられんだ。
「だよね~。んじゃ何でこんなとこで止まってるわけ?」
パッと見たえみ里の顔は、悪戯をけしかけた子どものようにほくそ笑んでいた。
いや、あんたまるまる上から見てたでしょうがぁ!!!
しかも『全然ココで何あったかなんて知りませんけど?』っていう傍観者面が余計腹立つわぁ!!
「………い……、や。別に何もないで…すけど」
遥都は、ウッと息を詰まらせて、強張った顔だったが言い遂げた。
「ふーん?ま、別にいいけど?」
よ、良かったぁ……。
ホッとしたのも束の間で、今度は私に語りかけてきた。
「で?なんで美桜はそんなオシャレしてるわけ?」
…………………………は?
「てゆうか、初めてこういう美桜みたわ~。さすが容姿端麗の代表って感じ?」
だ・れ・が!
誰がこの格好をけしかけたんですか!!!!
「……そうだよ、さっき俺も聞いたじゃん」
しかも、遥都まで乗ってくるような質問しやがって!
こいつ、絶対この状況楽しんでるよ。
だって口角若干上がってるもの!
隠しきれてないもの!
「だ、だから、そんなの関係ないでしょ」
取り敢えずかわしきろう。
そんなことをえみ里の前で考えた私が馬鹿だった。
「でも、美桜って好きな人いるじゃん?もしかして今日がデートの日だったりするの?」
なななななな何を言っているの!?
本人の前で暴露してるんじゃないよ!!
当の本人は口をあんぐり開けてパクパクしている。
「み、みい姉……。」
そこまで言って、口を閉じ、目を逸らした。
その横顔は、少し怒気を放っていて、近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。
「俺、ランニングあるから。じゃあまた、冬柴先輩」
目も合わせずにそそくさとその場から立ち去ってしまった。
私の事なんて、触れもしなかった。
私に向けての言葉は、無かった。
「あ~あ……。いっちゃったねぇ……。」
もう……。
最悪……。
「えっ!?ちょっ美桜!!?」
もう、えみ里なんかいなくなればいいのに。
私も、その場からすたすたと歩き出した。
えみ里が追いかけてくる音がする。
でも構わずに速度を上げて歩き続けた。
「もうっ……!美桜ってば……!」
私の腕を掴もうとする。
それを振り払って、精一杯の罵声を浴びせかけた。
「やめてよ!!えみ里にとっては楽しいことでも、私は本気でやってたことなの!!なのに、あんな悪ふざけで……。信じられない!!ホント……、もう、やだぁ……!!」
途中から泣き声に変わった私の声を聞きながら、えみ里もぽそりと言葉を紡ぐ。
「……ごめんなさい……。でも、あたしも、美桜のこと思ってやったの。」
悲しそうに顔を伏せるえみ里。
「なにが!どこが私のためなの!?」
流れる雫を気にも留めず泣き叫ぶ。
「……自分で気づいて欲しかったから、………黙ってるつもりだったんだけど……。」
一瞬躊躇してから、もう一度口を開く。
「朝日奈の気持ちを、確かめるため……、だよ」
えみ里が何を言っているのか、あまり理解できなかった。
それを察してか、言葉を続ける。
「だから、それを見て、美桜のことどう思ってるか見ようとしたの!」
私の口からは言葉が出ない。
「ゴメンね、美桜。でも大丈夫。もう美桜のこと泣かせたりしないよ……。」
えみ里はぎゅっと私を抱きしめて囁いた。
そのぬくもりに、自然と涙が溢れる。
「ひぃ……っ……、ん…、うぁ…………ん、っ」
そのまま、しばらく動かないでくれた。
そして、おもむろに口を開き、私に言い聞かせた。
「脈アリ、だよ」
何のことか分からずに、首をかしげてえみ里に問う。
「え……?」
すると、今度はフッと笑って言った。
「朝日奈は、美桜のこと、好きなんじゃないかな」
梨音の存在。
遥都の気持ち。
そんなの、どうなってもいいような……。
魔法の言葉でした。
ついに動き出した心と心……!
言っておきますと、
まだまだ続きます。