私の中の、赤と黒
7話って頑張りましたよね(笑)
日曜日。えみ里に呼び出された。
正直超ダルい。
何か用事があっての事なのだろうけど……。
……そうじゃなければ彼女はボッコボコだな。
待っている間、とても憂鬱で。
あの時のことを思い出した。
++++金曜日++++
「美桜姉!!」
梨音は泣きながら駆け寄ってきた。
「梨音。お前の気持ちも分かるけど……。今はみい姉だ。」
上から降ってきた声は遥都。
隣に立つ彼を見上げると、いつも優しく、深い色をまとった瞳は、信じられないほど冷酷なものだった。
知りすぎるほど知っている彼の初めて見る一面を知って、少し怖くなった。
「行こう、みい姉」
遥都は、私の肩に手を回してゆっくり歩き出した。
「遥都……っ…」
振り返りながら梨音が必死に言葉を紡ぐ。
遥都の肩越しに見た梨音は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
『悲しい』とか、『悔しい』とかじゃなくて、
……『寂しい』。そんな目だった。
それを放っておきたくなくて、声を出そうとしたのに。
梨音は私の妹。
慰めてあげなきゃ……!
そう思ったのに、動き出せない。
この手を自分だけのものにしたくて。
……振り払えればいいのに。
肩に回った遥都の手を自分一人のものにしていたくて……!
結局動き出せなかった。
私、最低だ……。
黒い感情に、支配された。
嫉妬。
理性なんか吹っ飛んで、底のない闇に飲み込まれる。
初めて知ったその感情。
自分が、怖くなった。
「…みい姉…?着いたよ。」
少し思考が飛んだ私を心配して、遥都が覗き込む。
「みい姉……?」
覗き込んだときにサラリと落ちた髪の毛を、ふわっと、耳にかける。
その動作があまりにも優美な動きで。
「あっ!う、うん。知っている。」
少し緊張していたのか、声が上擦ってしまった。
すると遥都は、意地の悪い笑みを浮かべて、
「何?俺にドキドキでもしてんの?」
不意に囁かれたその言葉に、耳まで真っ赤になってしまう。
それに少し目を見開いた遥都が、妙に真剣な顔になって、
「…もしかして……。図星だったりする?」
やばい。バレバレだ……。
だけど私はそんなことおくびにも出さずに鼻で笑った。
「ハッ!何を言っている。自意識過剰も甚だしい。」
未だ赤い顔を隠すようにプイと背けた。
「ふーん……。…そ。」
小さな響きが聞こえて振り向くが、表情が見えない。
遥都が向こうを向いているためだ。
「遥都?」
「ん?何?」
まだこちらを見ずに、ぶっきらぼうな言い方をする。
「こっち見なさいよ!」
少し苛ついて、大きな声を出すと、
遥都は、ニヤッと笑って
「なあに?みーおチャン。」
と、おどけた顔を見せつける。
「なっ!」
拍子抜けした私は、間抜けな声しか出てこない。
間が開き、私が固まっていると、
「じゃ……、俺、帰るな」
急にそう言って名残惜しそうに私を見つめる。
数秒経って、くるりと身を翻し、反対に向かって走っていった遥都に、私は大事なことを伝えた。
「遥都!今日は……その、……あり、がとっ……!」
大声を出したことに対してだか、『ありがとう』に対してだか照れを感じてしまって、どもりながらだったけど、そう伝えた。
遥都は、ビックリしたように振り返り、またわざわざこちらまで走ってきた。
「どういたしまして!!」
丁寧にお辞儀をしながら、優しくほほえんだ遥都が、私の頬を触る。
切なげに息を漏らしてから、憂いのある瞳で
「俺に、……言って。」
何を急に言い出す、と思ったが、さっきの公園でのことだと理解する。
そこで、ひとつ息を吐き、私の目をしっかりと見つめる。
その整った二重まぶたに吸い込まれそうになりながらも、私も遥都を見据える。
「なんでもいいから。……もっと、俺のこと………。」
一瞬躊躇って、最後の言葉を紡ぎ出す。
「俺のこと………、見てよ。」
聞き取れないような小さな声で呟いて、とてつもない速さで去っていった。
でも、今の私にとっては、その方が都合が良かった。
なぜなら、信じられないくらいに真っ赤だから。
あまり意味も理解できなかったけど、遥都が、顔を真っ赤にしていたから、ビックリしてしまった。
さっきまで遥都を想って泣いていたのに、今はあなたのおかげでこんなに幸せ。
取り返しのつかないくらい、遥都が好き……。
でも、梨音と付き合ってるのに……。
そんな風にして、私の心は黒と赤で、交互に支配される。
「ふむふむ……。」
と、私の目の前にはえみ里がいた。
「あんた、自分で考えてることダダ漏れ。」
驚きと同時に、次第に熱くなる私の顔。
「美桜の好きな人って、一つ年下で、しかも学校のアイドルの妹ちゃんの彼氏なんだ……。」
うっわ~……。
私の秘密が…。一瞬にして灰となった……。
「それって確か幼馴染みの朝日奈とかって奴でしょ?あいつも人気あるからねえ~……。」
う………!
暴言だけ吐きに来たんじゃないの、こいつ。
もうちょっとオブラートに包もうよ。
「美桜、あれだ!そういうときは………」
しっかり溜めて、衝撃の言葉をはじきだす。
「略奪愛だ!!」
私の前に立つ小賢しい悪魔が、不適に微笑んでいた。
とんとん拍子で申し訳ありません……。
えみ里チャン、やりますね……。
実は、結構お気に入り。