美桜の絶望
ココでの話題も
結構尽きてきました…
金曜日。それももうすぐ終わる。
それは一週間の呪縛から解かれる最高の時。
最高の時、の、はずだったんだけど……。
私は今、絶望していた。
なぜだか、その場から動くことなんて出来なかった。
目の前に広がるこの光景が、嘘であってほしいと強く望んだ。
金曜日だけ「学校に一週間通いきったご褒美」として来るこの店が。
店に下がっているこの看板が。
嘘であってほしいと。
白く、誰も寄せ付けない堂々としているのに所々傷が付いている壁に、
中がはっきり見える仕様になっている窓。
そこにちっぽけにぶら下がっている小さな看板には……
『本日より閉店』
……………ハッ!ふざけんなよ?
前置きなしに突然閉店だと?冗談も休み休み言え!
あたしがココにどれだけ金出してやったと思ってんの?
褒めてたのに。ココのはうまいって。
なのに何だ?お得意様にも黙って閉店か バッキャロゥゥゥ!!!
心の中で盛大に悪口をぶちまける。
と、思ってたのはあたしだけらしく、えみ里と他の2人の男はブハッと吹き出した。
「美桜チャンおとなしそうな顔してスッゲーえげつないこと言うねえ!」
こう言うのは、喜島とかいう男。
「ハハハッ!ホントホント!マジ顔と言葉のギャップ!」
こっちは槇村というらしい。
知らない男の前だけど、やはり顔が赤らんでしまう。
だって、そんな暴力的な言葉聞かれてしまったら……。
「あれ?美桜チャン顔真っ赤だけど。もしかして恥ずかしかったりする?……意外とピュアなんだねえ?」
初対面なのにいきなりこんなことを、しかも顔をのぞき込みながら言う。
それもあってか、図星をさされた私はさっきよりも顔が熱くなっている。
「はあ?イミ分かんないんだけど。そんなに馴れ馴れしくしないでくれない?」
「おおっ!言ってくれるねえ!じゃあ、馴れ馴れしく、じゃなくて……」
そう言って私に接近してくる。
「手でも繋いじゃおっかな!」
と、手に触れる。
「っ!さっわんないで!」
その反応を見た喜島は嬉しそうに二カッと笑う。
「えへ!やぁ~ぱりピュアだ」
自分を崩されまくり。それもこれも全部、あの女のせいだ………!
くるりと振り向き私をこの中に巻き込んだ張本人をきつく睨む。
そいつは、あたかもそうされることが分かっていたかのように、ペロッと舌を出し、目だけを逸らす。
この状況を説明するには、15分前にさかのぼらなければならない。
++++15分前++++
「ねえねえ今暇?学校帰りみたいだけど……」
突然声をかけられた。
「悪いですけど……」
そう言いかけた私を遮って、えみ里が
「超ひまで~す!私たち、誘ってくれる人、いなくて……。すうんごい寂しかったんですぅ~!」
は、はあぁぁ?
今日一緒にお店行こうねって誘ってきたの、そっちじゃん!
何、勝手なこといってんの?
「ホント?こんなに可愛いのに?じゃあ、俺たちと遊ぼうよ。」
「はいっ!もちろんです!え~っと、あたしがえみ里で、こっちが美桜です!」
「俺は、喜島裕で、こっちが槇村真一!じゃあ早速だけどどこ行く~?」
えみ里?そのキャラ何?
それに、今日金曜日じゃん!ご褒美の日じゃん?
そんなことを考えているのが通じたらしい。
「あたしたち、いっつも寄るお店があるんですけど、そこ行きません?」
「オッケ~!タメでいいよん、えみ里チャン」
「じゃっ、いこっ!裕くんと真一くん!」
はあぁぁ~?
私、完全に蚊帳の外じゃん。
とまあそんなこんながあって、現在に至る、ということなんです。
++++現在++++
もうベタベタとボディータッチされまくりで、嫌悪感がピークだ。
コソコソとえみ里に囁く。
「どうしてこんな誘い受けたの?」
「だって美桜、スキな人出来たっていってたから、そういうのにちょっとは慣れないとなあって思ったから…。」
すまなそうに私に上目遣いで言う。
それはそれでえみ里の厚意だから、無下にあしらうことも出来ずに、黙り込んでしまう。
「余計だったかな?」
悲しそうに笑うその姿を見ると何も言い返せない。
「ううん。ありがとね。」
精一杯の笑顔でそう言うと、そろそろ母が心配する、と抜け出して、あとはえみ里に任せて帰った。
疲れていたせいか思いの外時間がかかった。
でも、そんな疲れは吹っ飛んだ。
同時に意識してしまう。
やはり私は、彼に惹かれているのだと。
駅。
人混みであまり前が見えない。
だけど、私はみつけてしまった。
朝日奈遥都、彼を。
この人であふれかえる場所で彼を見つけた。
それだけで嬉しかった。
声をかけるつもりはない。
見つけただけで幸せだったから。
でもそれは一瞬で崩れ去った。
隣に立って、彼の手を握る誰かに気づいたからだ。
それを見たくてつま先立ちをする。
なのに、急に見えなくなってしまった。
神様は思わせぶり……。
そう思い、あきらめかけた時だった。
人がよけ、丁度顔の全部が見えた。
見えなければ、私はまだ気力があっただろうか。
声さえも出ない。
長年見てきた顔だ。
見間違えるはずなんかひとかけらもなかった。
彼の手を握る人物が、
彼の隣で笑う人物が、
…梨音、あなただった。
急加速です!!