表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光翼のリベンジャー  作者: 蒼鳥
第一章
32/32

エピローグ

 ピピピピッ! ピピピピッ!

「……朝か」

 軽快な目覚ましの音にたたき起こされ、疲労で重たい体をゆっくりと持ち上げる。

 しばらくして頭が目覚めてきたらお腹が空いてきた。

「とりあえず飯つくるか」

 まだ眠い目を擦りながら寝巻きのままキッチンへと向かう。

 あの日からもう三日が経った。

 あの後、作戦終了の合図が鳴り響いた後のことはあまり覚えていない。

 気付けば俺は香奈を抱えて待機所に立っていて、医療科の人たちが香奈を急いで連れて行った。

 その後治療の結果、香奈は一命を取り留めた。あと少し治療が遅れていたら手遅れだったらしい。

 しかしいまだに目を覚まさず、カルラが言うには大丈夫だそうだが……やはり心配だ。

「くあぁ~……ねむ」

 大きなあくびを一つしてできた朝食を皿に盛り付ける。

 学園は特別休暇ということで一週間休みになっており、昨日も一昨日も夜遅くまで香奈の見舞いに行っていた。

 ……まぁ見舞いって言っても、香奈が起きたときに誰か傍にいられるよう隣で座っているだけだけどな。

 結局昨日も香奈が目を覚ますこともなく、帰宅した。

 ちなみに凛華は「今日はここで泊まる!」と言い出し、カルラにお願いして許可を取ってもらっていた。

「あ、そういやケータイの電池切れてたんだった。充電しなきゃ」

 ふと思い出し、朝食を持っていくついでに充電器に差し込む。

 しばらくしてケータイを起動させると時刻は十時を回っていた。

「うわぁマジかよ……また目覚ましのセット間違えたのか」

 昨日寝たのは結局明け方の二時くらいで、寝ぼけていたからだろう。

 本当は七時に起きようと思っていたので少々落ち込む。

 うん、やっぱ起きようと思っていた時間に起きられなかったときって独特の敗北感だよね。

 学園が休みでよかったと思いつつトーストをかじっていると、好きなアニメのOPオープニング曲とともにケータイが振動した。

 開くと受信メールが一通あり、送られてきた時間は一時間前だった。

 どうやら電池が切れていたから今送られてきたらしい。

 開いてみると凛華からだ。


『件名 早く来なさい

本文 〈本文なし〉』


 ……主語がねえ。

 もちろん、件名に書いているあたり急いで送ってきたことはわかる。

 けどこれじゃどこに行けばいいのか全くわからないじゃないか。

 さてどう返信したものかと迷っているとまた受信メールが一通。凛華からでこれまた四十五分前のやつだ。

 早速開いてみる。

 今度はちゃんと本文があった。


『件名 〈件名なし〉

 本文 早く病院に来なさい! 香奈がお待ちかねよ』


「香奈がお待ちかね……?」

 しばらく考えてから頭の上で電球が光る。

(ということはもしかして目を覚ましたのか?)

 だとすると行くべき場所は一つだけ。

 俺ははやる気持ちを抑えながら急いで私服に着替え、医療科棟へと向かった。


「はぁ……はぁ……」

 寝起きで、しかも一回も休まずに走り続けるとさすがに息が辛い。

 だがおかげですぐに医療科棟に着いた。

 久しぶりにみたが……やっぱでかいな。

 ここは最新の医療機器を整え、医療科の生徒が学ぶ場でもある傍ら、この島でもっとも大きな病院でもある。

 そのため全科の中で一番でかいのだ。

 香奈が入院している病室は確かこの棟の三階のはず。

 一旦息を整え――よし、汗もだいぶ引っ込んだな。

 大きな自動ドアをくぐり、香奈の病室を目指す。

 さすがに院内で走るわけにはいかないので急ぎ足で歩いていると、すれ違った人に急に呼び止められた。

「あ。ねえねえキミキミ」

「はい?」

 振り返ると男女の二人組み。

 あれ、どこかで見たような――。

「ほらぁ、やっぱりあのときの子じゃん」

「確かにそのようだ」

「あ、あの。あのときって?」

 満足げに頷く女性と不機嫌そうな表情のまま頷く男。

 制服のバッジを見る限りどうやら上級三年のようだ。

「あれ、覚えてないの? ほらぁ、キミ達が前線にでてきていきなりのピンチを救ったお姉さんだよ」

 綺麗な赤髪を弄りながら顔を寄せてこる彼女に戸惑いながらも、ふと思い出す。

「もしかして敵を拘束しまくってた人……?」

「そうそう! 正解正解大正解! あ、ちなみにこっちがあなた達に血をぶっかけた張本人ね」

「……ふん。あそこにいるのが悪い」

「またまたぁ。本当は謝りたいんでしょ?」

「……黙れ」

「はぁ、やだやだ。これだから素直じゃない男は」

 女性は男に呆れてため息をつき、男もまた一段と不機嫌な顔になる。しかし全然険悪な雰囲気ではないのはやはり二人の仲が深いからだろう。

 完全に置いてけぼりにされているが……なるほど。この人たちがあの『戦況を変えた二人』か。

 正直四年だと思っていたが、まさか三年だったとは驚いた。

 女性のほうは身長は俺と同じくらいで香奈に勝るくらいの超ナイスバディ。

 男のほうも身長が高く、不機嫌そうなところを除けばかなりのイケメンだった。

 そこでふと俺はこの人たちの名前を知らないことに気がつく。

「あの、先輩達の名前は――」

「おい、用は済んだしもう帰るぞ」

「えぇー。もう帰るのぉ?」

 いや、だから名前……。

「うるさい。ここに来たかったのは俺だ。その俺が帰るといったんだから帰るぞ」

「えぇー。つまんなぁい」

 えぇー。無視ですかぁ。

 すると男が一つため息をついてから、

「……ドーナッツ買ってやる」

「ホント! じゃあ帰る!」

 物で釣ったよ!

 そしてホントに無視だよ!

 いや、もちろん聞こえなかったんだろうことはわかっているが。

「んじゃそういうことだからバイバーイ」

 右手で男を引っ張りながら元気よく手を振ってくる彼女は、どうにもあんなに実力がある人のようには見えなかった。

「結局なんだったんだ……あの人たち」

 去っていく先輩達に軽く会釈しながら頭を下げる。

 って、それよりも早く香奈のもとへ行かなければ。

 俺は止まっていた足を再び病室へ向かって運び始めた。


 医療科棟三階にある、A-09と書かれた病室。

 ここが香奈の病室である。ちなみにここの病室は全て個人用だ。

 ドアの前に立って一つ息を吐き、そっと開ける。

「あ、日向さん」

「お兄ちゃんだなの~」

 俺を見るなり香奈、リアが声をあげる。

 そして。

「日向ッ!! あたしがメールしてあげてから何分立ってるのよ!」

「す、すまん。ケータイの電池が切れててさ」

 怒涛の勢いで突っかかってくる凛華をなんとかなだめる。

 ……ちなみに仮に電池があったとしてもメールを読む時間は変わらなかっただろう。

 いまだに「むううぅ」と言いつつもなんとか納得したらしい凛華を横目に、香奈の容態を確認する。

「もう起きていて大丈夫なのか?」

「はい。さっき看護師さんがきまして、『あら、もう大丈夫そうねぇ。近いうちに退院できそうね』って言ってましたし」

「そうか」

 屈託のない笑みを浮かべた香奈を見て一安心する。

だが、気になることが一つ。

「あのさ、やっぱり残ったのか? ……傷跡」

 そう、あのアグレッシンにやられた傷は相当深かった。

 いくら最新の医療をもってしても完全に失くすことは無理じゃないのだろうか。

 しかし香奈はそれでも笑顔のまま、

「それなら時間とともに薄くなっていき、最後はわからなくなるくらいになるそうです。だから大丈夫ですよ」

「そうか……ならよかったよ」

 一番の悩みの種が消えたことでホッとする。

 さすがに自分のせいで生涯残る傷を負わせてしまっては合わせる顔がないからな。

「よかったわね日向。もしこれで一生残ることになってたら男として失格だったわね」

「う、うるせえ。それよりもお前も足大丈夫なのか?」

 凛華もあのとき負傷し、今も軽く包帯が巻かれている。

 松葉杖とかは使ってないから大丈夫そうだが。

「まぁ大丈夫よ。傷口がちょっと見せられないだけで少しすれば治るわ」

「そうか。そりゃよかったよ」

「……ふん」

 ふにふにと頬をつねってやると少しそっぽ向いてしまった。

 しかし頬が緩んでいるところをみるに、もしかして凛華はこれ好きなのだろうか?

(凛華ってたまに幼いところあるよなぁ)

 くすくすと笑いを堪えながら弄くっていると、珍しく今まで静かだったリアが突然立ち上がる。

「凛華ちゃんばっかズルイなの! リアにもやってなの」

「ちょ、リアは駄目よ! こいつもしかしたらロリコンかもしれないんだからっ!」

「なっ!」

 根も葉もないことを言われた!?

「ふえ、そうだったの? でもそれならリアは大歓迎なの~。さあおにいちゃん! 食べて食べてなの!」

 目をらんらんと輝かせながら、なんとも公共の場で言ってはいけないセリフを言うリア。

 ……たぶんその言葉の意味を知らないで使っているんだろう。そうだろう。そう信じよう。

「おい、リア。そのセリフ間違っても他の男に言うなよ」

 特にトオルとか。

「? 言われなくてもお兄ちゃんにしかいわないなの」

 確信犯かよ!

 もうどうしていいのかわからずにため息を吐いていると、なにか思い出したような凛華が声をあげた。

「さて、私達はもう帰るわよ」

「えっ、もう帰るのか?」

 俺まだ来たばっかなんだけど。

 しかしそんなことはお見通しだったようで、凛華はチラッと香奈を見ながらリアだけ連れて行く。

「もちろん日向はまだここにいていいわよ…………香奈も話したいことがあるみたいだし」

「ちょ、ちょっと凛華さん!」

 いきなり慌てた香奈に意味ありげにウインクする凛華。

 そのまままだ状況を掴めていないリアを引っ張りながら病室を出ていった。

「……なんだったんだ。あれは」

「あ、うぅ……な、なんだったんでしょうね……」

 状況が読めず立つ尽くしかない。

 ふと香奈を見てみると、手をもじもじさせながら俯いているから見えにくいが、頬が少し赤くなっていた。

「熱でもあるのか?」

 もしそうだとしたら一応看護師を呼んだほうがいいのだろうか。などと考えていると香奈があたふたと手を振る。

「いえ! 大丈夫です! 大丈夫ですからっ!」

「お、おう」

 大慌てで必死に否定した香奈は「コホン」と一つ気持ちを落ち着かせてから話し始める。

「とにかく、これで借りは返しましたからね」

「借り?」

 なんのことだか分かっていない俺に香奈はこくりと頷く。

「日向さんが私をジャスティスから助けてくれた借り、です」

「あぁ。そのことか」

 確か作戦前に香奈の部屋で同じようなことを聞いた。

 香奈がそのことをずっと気にしていたことも。

 そのことでずっと縛られていたことも。

「だからあんな、奴隷みたいなことはもう言いませんから」

「……そうか」

 どうやら俺が黒歴史にしたいほど恥ずかしいことを喋った意味はあったらしい。

 ……もう一度言えと言われても絶対言ってやらないが。

 その後しばらく沈黙が続いた後、ポツリと香奈が呟く。

「それともう一つ……というか本当に言いたいことなんですけど…………そのときに話したこと覚えてます?」

「あぁ」

「そのときに日向さんが私の気持ちは『にせもの』だって言ったことも」

 ……あー。そんなことも言ってたな。

 確か『お前がもし好意を抱いているならそれはにせものだ』だったけか。

「覚えてるよ」

 あのときは感情的になってたからな……今思うとお前何様だよと言いたくなるくらいのセリフだよ。

 そのときのことを思い出すと、今でも後悔の念しかない気がする。

 ……なんだかだんだん虚しくなって俺はため息を吐く。

 しかし香奈はそんな俺に気付かずに話を続ける。

「あの後、迎撃戦が始まるまで少し考えてみたんです。それで答えを出したたんですけど……聞いてくれますか?」

「おう」

「そ、それでは……あの、あまり大きな声で言いたくないのでこっちにきてください」

 まぁそれもそうだなと思いつつ言われるがままに香奈のすぐ隣に立つ。

 そして香奈はしばらく少し迷ったような素振りをしてから、何かを決心した瞳でこちらを向いた。

「それじゃ近くで話せるように少しかがんでください」

 言うとおり片膝になる。

 ちなみにここのベッドはだいぶ低いのでこの状態だと香奈の肩くらいの高さになる。

「えっと……は、恥ずかしいので目を閉じていてもらえますか?」

「? おう」

 なんでかはわからないが目を閉じる。

 すると香奈がこちらに寄ってくる音がする。

 耳元で言うのだろうか。

 少し力が入った香奈の両手が俺の頬に触れた、次の瞬間――――

「んっ……」

「――ッ!?」

 いきなりだった。

 引き寄せられるように香奈の柔らかい唇が、俺の唇と重なった。

「んぅ……」

 さらに香奈の両手の力が抜け、香奈の唇だけが俺の頭を支配する。

 なんだかほんのり甘い香りがし、ものすごく柔らかい。

 しかし弾力もあって、とても俺の恋愛経験では言い表せない感覚だ。

 実際はほんの数秒なのだろうが、俺には数時間とも感じられる時間が過ぎ、香奈の唇がゆっくりと離れていく。

 ……このままずっとでもよかったのにと思ってしまったのは男なら皆同じだと信じたい。

 頬を染めながら恥ずかしそうに笑う香奈は、いきなりのことに呆然としている俺に小さくささやく。

「これが私の気持ち……」

 そして言い直すように言葉を紡ぐ。


「私のあなたへの気持ちは、本物です」


 そう断言した香奈は、息が止まるくらい華やかで、どんな男でも一瞬でほれてしまいそうなくらい綺麗で――どんな天使でさえも霞んでしまうくらい可愛い最高の笑顔だった。

「な、ななな! ちょっと香奈! あんたなにやってんのよ!」

 あれ? なぜか凛華の声がするぞ。

 声のするほうを見てみるとなんとそこには帰ったはずの凛華とリアがいた。ってなんでいるんだ!?

「むぅ~、実はそれが目的だったりするなの?」

「り、凛華さんにリアさん!?」

 どうやら香奈も知らなかったようで顔を真っ赤にしている。

「……話が終わったらまた入ろうと思ってドアの横で待ってて正解だったわ」

 しばらくして落ち着いた凛華は、わなわなと怒りに震えている。

 そしてその矛先が俺に向いているのはなぜだろう。

「ま、待て凛華。いったいどこから見てたんだ?」

「最初からあなたたちがキスするまでよ……!」

や、やばい。今回の凛華は今までにないくらい殺気がでている!

 香奈に助けを求めようと視線を送っても香奈は気まずそうに目を逸らすだけ。

「…………こんなことならあのとき唇にしておけばよかった……」

 消え入りそうな声で何か呟いた凛華はキッと俺を睨み一言。

「覚悟しなさい日向! これは命令よ!」

「だからなんで俺のせいなんだよぉ!?」

 ブレイカーを起動させて追いかけてくる凛華から必死に逃げる。

 それをリアと香奈が他人事のように楽しそうに見物している。

「こらぁ! 逃げないでおとなしく捕まりなさいっ!」

 ……なにやともあれいつもの日常が、また帰ってきたのだった。





                                    完。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ