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光翼のリベンジャー  作者: 蒼鳥
第一章
29/32

第二十六話

「左方から一体、前方二体、後方一体きます」

「っ! あと少しのところで敵かよ……香奈は後方を頼む」

「わかりました!」

 オペレーターが伝えてきた情報のとおり敵が見えた。

 数分前、医療科に通信を入れ制服の切れ端で凛華の怪我の止血をしていたときは周りには敵影一つ見えなかった。しかしそろそろ回収班が到着するというときに予想外の敵襲ときた。

 しかもそのほとんどが凛華に狙いを定めているようだ。

 回収班が到着するまで俺たちが守るしかないだろう。

「やあっ!」

 状況が状況なためか香奈はブレイカーを弓から槍に変えて後方の敵に襲い掛かる。

 とはいえ今はあくまで凛華の安全が最優先のため深追いはしない。

 あの調子ならあれは香奈に任せといて大丈夫そうだ。

 となると残るは左方と前方。さてどうするか。

「日向。左方は私に任せて」

「凛華!? だから戦うなって言ってい……」

「銃一つあれば足止めくらいはできるわ。それに私はあなたたちのお荷物になんかなりたくないっ!」

 俺の言葉をさえぎって言った凛華は返事も聞かず敵に発砲を始める。

 今凛華の周りは香奈の炎で囲むように盾を張ってある。

 正直任せていいのかはわからないが三体同時はさすがに俺も無理だ。

 それに怪我も今のところ悪化してはないみたいだし、いざとなれば炎の盾が守ってくれるだろう。

 俺はとりあえず凛華に左方を任せ前方の敵に意識を向ける。

 一体は先ほどと同じオオカミ型。

 もう一体は物語の竜を思わせるような形状をしている、ドラゴン型か。

 こいつはアグレッシンの中では一番多く見られる形状で、大抵のやつが十mにとどきそうな巨体と並外れた破壊力をもっている。

 この二体を同時に相手にしなきゃならないのか。

 定石ならまずオオカミ型を確実に始末してからドラゴン型なのだろうが……オオカミ型をやっている間にドラゴン型が凛華のところに辿り着かないという保証はない。

だからこれは駄目だ。

(――なら)

 俺はオペレーターに敵予測進路を確認しその進路上、すなわち敵の真正面に立つ。

 そしてブレイカーを起動させ抜刀の構えをとる。

 さらに敵が俺に気づいてもなおその進路を変えないことを確かめてから目を閉じる。

 そのままタメをつくり意識を集中し、とあるイメージをブレイカーに注ぎ込む。

 ブレイカーもそれに反応するように輝きを発する。

 イメージすることはただ一つ。

 斬撃から生み出される衝撃波――!!

「はぁっ!」

 溜められた集中力とタメによる抜刀により刀は超速で空を斬り――次の瞬間、それは起きた。

 ほぼ水平に振るわれた刀の軌道を中心に空気が振動を始める。

 それはすぐさま形を定めない斬撃の威力をもった衝撃波と成す。

 振動を続ける衝撃波はそのままイメージ通り敵に向かって一閃の如く大気を駆ける――!

 ブレイカーだからこそ可能な刀によるリーチ外攻撃。授業でもそんなにやらなかったが上手くいったようだ。

(後はこの衝撃波でどれだけ敵にダメージを与えられるか……)

 しかしその心配を消すかのように衝撃波は敵と衝突、そして爆発する。

 イメージ通りに撃てたなら衝撃波は脚部にかなりのダメージを与えているはずだ。

(どうだ?)

 朦々と砂煙が舞う前方を祈るように見据える。

 やがて舞っていた砂煙は晴れ、敵の姿が現れた。

「敵脚部へのダメージを確認。軽傷ではありますが二体とも傷の修復のためしばらくは動かない模様」

「よし!」

 オペレーターからの報告に思わず拳を握る。

 どうやら動きを止めるだけのダメージは与えられたようだ。オペレーターの言うとおり当分は動けないだろう。

 これで凛華に近づかせないという目的は達成できた。

「凛華、大丈夫か?」

「あたりまえよ!」

 すぐに凛華の元に駆けつけるが、痛みに耐えながらも笑顔を見せる凛華の周りに敵はいない。

 どうやらこちらも足止めに成功しているみたいだ。

「凛華さん、日向さん大丈夫ですか?」

「香奈」

 すると数秒もたたないうちに香奈がこちらに駆け寄ってきた。

「そっちの敵も大丈夫なのか?」

「えぇ。今は炎に焼かれている頃でしょう」

「そ、そうか」

 さらりと恐ろしいことを言う香奈に俺はたじろぐ。

 いや、本人は事実を言っただけなんだろうけど……まさかそんな言葉がでてくるとは。ちょっと意外だ。

「よし、これで後は回収班を待つだけだな」

 なんとか危機を乗り越えたことに安堵する。と、突如遠くから大きなエンジン音と聞きなれた声がした。

「おぉい! 待たせたなぁ!」

「トオル!?」

 そう、サイドカーを取り付けたT-SAに乗っていたのは紛れもなく、トオルだった。

「なんでお前がここにいるんだよ!」

 持ち前の速さですぐに目の前に到着したT-SAの前部座席に座っているトオルに声をかける。

 工武科のこいつは待機所にいるはずなのだが……。

「私がお願いしたんです」

「し、雌ヶ崎先輩?」

 ヘルメットをとって俺の質問に答えたのは一ヶ月前、ジャスティス戦でお世話になった医療科の先輩だった。

「第二波がきてからは負傷者の数が多くて……医療科の人だけでは対応しきれなくなったんです。しかし迅速な応急処置を施すため回収班を一人にすることはできません。ですからT-SAの運転をする前部座席を医療科以外の生徒にやってもらうことになったのです」

 先輩は俺たちに簡単に説明をしながら凛華をサイドカーに乗せる。

「そこでこの俺が志願したわけよ」

「お前がか……珍しいこともあるんだな」

「へっ、まあな……わざわざ荒っぽく運転したのに先輩が抱きついてこなかったのは計算外だったけどな……」

「結局下心があったのかい!」

 くそっ、素直に感激した俺がバカだった!

 しかしそれでもトオルが自分の命を危険に晒してまできてくれたのは確かだ。

 ……心の中だけで礼を言っておくか。

「ま、帰りは安全運転で頼むぜ」

「当然だろ! ……先輩はどうせ治療で忙しいだろうしな」

「だから一言多い」

「準備できましたよ」

 俺たちが無駄話をしている間に凛華はサイドカーにしっかり固定され、先輩も座席に座っていた。

「了解しましたぁ! 運転中もし危なくなったら俺に……」

「いいから早くしてください」

 後ろから叱られ肩をすくめるトオル。

 すると凛華が申し訳なさそうな目でこちらを見てきた。

「日向、香奈。迷惑かけてごめんね」

「そんな……私は大丈夫ですよ」

「あぁ。別に迷惑なんかじゃないさ。それよりもとっとと治してこい」

「……ん。わかったわ」

 俺たちの言葉に安心したらしく、それっきり凛華は目を閉じる。

 疲れて眠ってしまったのだろう。むしろあんな怪我をしておいてここまで起きていたことのほうがすごい。

「それじゃ俺たちは一足先に帰っているぜ」

「おう。先輩、凛華のことよろしくお願いします」

「もちろん任せて」

 その言葉を最後にトオルはエンジンを入れる。

 その後走り出すやすぐに100kmを超えたT-SAはもう見えなくなった。

「これで一安心だな……」

 一つの難関を乗り越え、ほっと一息つく。……そう、気を抜いてしまった。

 戦場での気の緩み。

 それはほんの一秒たりともしてはならない、もっとも基本なことでもある。

 ――そしてそれをしてしまったがために悲劇は起きる。

「日向さんッ! 危ないッ!!」

 俺が一息ついたまさにそのとき、香奈が悲鳴のような声とともに俺に駆け寄ってくる。

 なにが香奈をそんなに焦らせているのか。確かめようと俺は振り向く――

「……え?」

 そこには負傷した脚部を修復した跡がある、大きな前足の尖った鍵爪を振り上げているドラゴンの姿があった。

 ドラゴン型との距離は無いに等しく、その鍵爪が俺のことを狙っていることは明白だった。

(なんだよこれ……まさか俺は死ぬのか……?)

 そして鍵爪は俺にこの状況を理解する暇も与えず振り下ろされる。

 そこからは全てスローモーションのように見えた。

 俺はただ呆然とその場に立ち尽くし、横から香奈が走ってくるのがわかる。

 振り下ろされてくる鍵爪は正確に俺の心臓部分を狙っており、もう避けきれないことがわかる。

 そして鍵爪が大気を切り裂き、俺の体へと到達しようと――


「日向さんッ!!」


 刹那、俺の体が横から強い衝撃に押されたことによってスローモーションは解ける。

 そしてその勢いに成されるがままに地面へ押し倒され、強く体を打ち付ける。

「っ! なにが……?」

 すぐ目の前に香奈の顔があることから、横から突き飛ばしてきたのは香奈だろう。

 もし香奈が助けてくれなかったら俺は確実に死んでいた。

「香奈助かった……ん?」

 そしてふと自分の周りから、特に香奈を抱えている手元からべっとりとした感触があることに気づく。

「なんだこれは……」

 恐る恐る香奈に回していた手を自分の顔へと近づける。

 するとそこには少し暖かく生々しい、赤い液体がついていた……それもそこらじゅうに飛び散っている。

 俺は起き上がり、香奈を膝の上に乗せて呟く。

「血……まさか……香奈?」

 たぶん頭のなかではこの血が誰の血なのか理解している。しかしそれでも俺は震えそうな声で香奈に呼びかける。

「おい、香奈。香奈? ……香奈!」

「……日向……さん?」

 三度目の願いにも似た叫びに、消え入りそうな声が返事をする。

「香奈! よかっ――」

 言葉は途中で息を呑む音に変わった。

 香奈は左肩あたりから酷い出血をしていた。

 血でよく見えないが、肩から胸まで引き裂かれた制服から見える傷口はかなり深く、鋭利なものに抉られたような傷跡がある。

「さっき俺を助けたときに……」

「日向……さん……」

 その傷跡の意味を理解し、なんとか止血しようとする俺に香奈は手を伸ばしてくる。

「怪我は…………ありません……でしたか……?」

 そう言い、香奈は血に塗れた手を必死に伸ばして俺の頬を撫でる。

「……あぁ」

「そう……ですか」

 出すだけで精一杯な声でなんとか返事をすると、香奈は安心しきったような、なにかやり遂げたような表情になった。

「間に合った……んですね」

「……あぁ」

「日向さんを助けられた……んですね」

「…………あぁ」

「これでやっと……日向さんの役にたてた……んですね」

「………………あぁ」

 どこか必死に、すがるようにこちらを見てくる香奈になんとか応える。

 目の前にいる香奈は見ているだけで痛々しいが、目を逸らしてはいけない。

「そうですか……なら……よかった……」

 もう一度俺の頬を撫でながら嬉しそうに言う。

 しかしどうみても香奈は息をするだけで辛そうだ。

「あぁ……なんだか……眠くなってきました」

「……香奈?」

 何回か頬を撫でていた手は止まり、香奈の目が虚ろになってゆく。

「ごめんなさい……ほんのすこしだけ……眠らせてください」

「っ!、まさかお前」

 死ぬんじゃないだろうな? その言葉が続く前に香奈は一言、


「……おやすみなさい……」


 そういい目を閉じた――。

「香奈?」

 嘘だろ?

「おい、香奈!」

 目を開けろよ!

 けれど香奈が目を開ける気配は一向にない。

(なんで、なんでこんな……!)

「香奈ぁぁぁぁああ!!」

 悲痛な叫びが、戦場に響く。

(くそっ!)

 ようやく出血も止まってきているのに香奈は目を開けない。

 なんとか息はしているが意識が無いこの状態は非常に危険だろう。

(俺が油断したばっかりに……)

 もしもっと周囲の動きに気を配っていれば、少なくとも敵の接近は気づけたはずだ。そしてかわすことも。

 そしたら香奈がこんな目に遭うこともなかった。

(また、俺のせいなのか)

「おい成宮! 何をボケッとしている。敵は待ってはくれないぞ!」

 通信機から怒声が響くも俺の耳には届かない。

(そもそもあいつらが……あいつらさえいなければ……!!)

 そうだ、あいつらさえいなければいいのだ。ならば俺が成すべきことはただ一つ。

 この事態のそもそもの元凶、アグレッシンへの復讐。

 そう思った瞬間にあふれ出した、殺意にも似た感情。

 そしてそれは今まで抑え込んできた兵器ものを呼び起こす引き金となる――!

「狼火、聞こえているな」

「……ほう。もちろん聞えているぞ」

 呼び捨てだったにもかかわらず狼火は気に留めずに答える。むしろ何かに気づいて楽しんでいるようでもある。

「今すぐ前衛のやつらを退却させろ」

「なぜだ?」

「流れ弾で人を傷つけては意味がないからだ」

「本当にそれだけか?」

「……戦うのに邪魔だからだ」

「そうか。それは確かに退却させたほうがよさそうだな。だがその前にお前はそれまで待てるのか?」

 こいつ、さてはカメラか何か使って今の俺の状況に気付いてやがるな。

 俺は小さく舌討ちをする。

「三十……三十秒だけだ。それ以上抑えられる自信はない」

「……そうか。釘を刺すようだが本部のリベンジャーが到着するまで後五分。それまでだからな。覚えておけよ」

 そこで通信は切れた。

 恐らく指示を飛ばすためだろう。

「……三十秒だけだ。それまで待て」

 香奈の容態を確認しながら自分に、体の中にいる細胞兵器バーサーカーシステムに言い聞かせる。

 迎撃戦が始まってからすぐ、システムが起動し始めたことには気付いていた。

 だが凛華たちの手前ということもあり、ここまで抑えていた。もっとも、ただ発動するなと思うだけのことだが。

 しかし今は抑えるのが非常に辛い。

 別に今発動しても凛華も香奈にもバレないとか、そう簡単な話ではない。

 たぶん俺がやつらを殺したいと……システムを発動させたいと思ってしまったからだろう。

 けれどだからといって発動させては仲間に危害を加えないという自信はない。

 だからこうして唯一システムを知っている狼火に頼んだのだ。

(人を傷つける可能性があるくらいなら三十秒くらい耐えてみせるさ……)

 しかし右方からちょうど脚の修復が完了したらしいオオカミ型が俺に襲い掛かってくる。

 ……やはり狼火の言うとおり敵は待つ気などないらしいな。

 さっきまでの俺だったら一人で戦っても勝てなかっただろう。だが今は違う。

 俺は苦しそうな顔をしている香奈を優しく抱きかかえながら静かに立つ。

 そして香奈を片手で抱きながら右手でブレイカーを持ち、起動。

 そのままなんの警戒もしないで迫ってくる愚か者に向かって刀を振り上げる。

「三十秒後だ……それまで貴様らも黙っていろ」

 その言葉とともに振り下ろされた刀はちょうど襲い掛かろうとしていたアグレッシンをコアごと斬り、破壊する。

 それによって他のアグレッシンたちは何を思ったか、同じく攻撃しようとしていた動きをぴたりと止めた。

(……攻撃を諦めた?)

 しかしこいつらがそう簡単に引き下がるわけがない。

 一体なぜなのか……。

 そのとき、小さくだが確かに遠くから地響きの音が聞こえた。

 それも四方八方からだ。

 やがて姿も見えるようになり、先ほどの疑問は解決される。

「アグレッシンか……」

 そう、それは数百に上るアグレッシンの大群だった。

 狼火の指示によって俺以外の前衛は退却したはず。ならば敵を見失ったアグレッシンどもが残る俺を狙うのも当然のことだろう。

 そして今俺の周りにいるやつらはそれにいち早く気付いた。だからこそこうして俺を確実に仕留められるよう仲間の到着を待っているということだ。

 だがそれは俺にとってもちょうどいい。

 これで三十秒稼げる。それもあるがもっと大きな理由が一つ。

 ――一度に多くのアグレッシンを相手にすることができる。

「それでこそ殺し甲斐がある……!」

 必死にシステムを抑えながら俺は呟く。

 それから沈黙が続き、ほんの数秒がたったとき。

 突如アグレッシンの一体が吠えながらこちらに向かってきた。

 どうやら我慢を止めたそいつは見間違えようもない、香奈を負傷させたあのドラゴン型だった。

「三十秒まであと三秒……開幕の生贄としてはちょうどいい……!」

 香奈を横にゆっくりとおろし、俺はアグレッシンのほうを向き目を閉じる。

 残り三秒。

 そして俺は、問う。

「さて――貴様、誰の許しを得て生きている?」

 もちろんアグレッシンが答えるはずがない。

 二秒。

 しかしそれでも言葉を続ける。

「貴様はやってはならないことをした。そんな貴様がこの大地に立っていていいはずがない」

 一秒。

 俺はゆっくりと目を閉じたまま刀を振り上げる。

「ならば貴様が成すべきことはただ一つ。貴様の命をもってしてその罪を――」

 閉じていた目をゆっくりと開く。

 その瞳は怒りと復讐で染められた、真紅の瞳だった。

 そして0秒。


「――償え」


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